3-1.親善大使
親善大使がやって来る日が近づいた頃
「スポーツカーが出来ました」
カリナが夕食後の会議で嬉しそうに報告していた。
「8気筒エンジンを積んだ2人乗りの自動車です」
「大丈夫か?」
悠介が心配そうに聞いた。
「自信はあります」
「つくっていいと許可したからな。しかし試運転もかなり広い場所でないと・・」
悠介が考えはじめると
「いい場所がある。近々スラーレン法国のマーラ姫がワリキュールに親善大使としてやってくる。そこでスポーツカーの試運転を兼ねて一行が無事にワリキュールに向かってきているか見てきてほしい」
と雅則が言った。
「有効活用だな。途中で自動車にトラブルが起きたらどうする?」
「念のため、自動車には悠介も同乗して、イビルが鳥獣テルザを使って空からも守ってやって」
「わかった任せて」
イビルもスポーツカーには興味を示していたが、悠介はびびっていた。
「それって、俺がカリナと試運転に行くということだよな」
「何か問題でも?」
「俺に恨みがあるわけじゃないよな」
◇
マーラ一行がワリキュールに向けて進んできた。イビルも鳥獣テルザを呼んで待機した。
カリナが設計した8気筒エンジンを積んだスポーツカーが、心地よい音を発して今か今かとアクセルを踏まれるのを待った。
「俺も150キロは出したことがあるが、カーレースはやったことがないぞ」
悠介が助手席でびびりはじめた。
「メーターは150までしか目盛りがないから耐えられると思うけど」
悠介が言うと
「メーターの目盛りは適当です。何キロ出るかわからないので」
とカリナがこたえた。
「マジか! 生きて帰ろうぜ」
「行きます」
カリナがアクセルを踏むと、スポーツカーは土煙を飛ばして走り出した。
「SLより速いのは確かね」
イビルが走り去るスポーツカーを見ながら言った。
「イビル、頼むぞ」
「任せて。テルザのほうが速いはずだから」
イビルがテルザに乗って空からスポーツカーを追いかけた。
スポーツカーは、荒涼とした大地を疾走した。
スピードメーターの針は既に振り切っている。助手席に乗っている悠介は顔面蒼白だった。
「カリナは怖くないのか!」
「ぜんぜん」
「カリナの心臓は俺のより丈夫かも知れない。毛が生えているのか!」
イビルは空から悠介たちの自動車を追っていたが、前方に向かって来る一群を見つけた。
「あれが親善大使の一行かな? 相当な人数でやってくる。あれが軍隊で一気にワリキュールに攻め込んできたら、軍を持たないワリキュール宮殿は占領されちゃうかも。・・ハーロックたちが居れば問題ないか」
だがその上空にもイビルは一群を見つけた。
「あれは?・・空飛ぶ魔獣だ」
体長は1メートルから2メートルくらい。翼を広げた幅は3メートルを越えるものも居る。
イビルが乗っている鳥獣テルザよりは小さいが、凶暴のようだ。
魔獣が親善大使の一行に空から襲い掛かった。
「空から魔獣です」
上空を見上げた衛兵が空から襲って来る魔獣を見つけた。
「魔術師は攻撃魔法で応戦せよ」
衛兵隊の中には攻撃魔法を使える者もいる。
それでもマーラは馬車の中で不安そうな顔をした。空からの魔獣は想定外だった。
「大丈夫です。こういうこともあろうかと多くの衛兵を連れてきましたから」
マーラに同行してきたソドルがマーラの不安を払拭するように言った。
だが貴族上がりの衛兵たちは、魔法は使えても戦は経験のない者ばかりだった。
次々に倒れていって成す術がなかった。
「これじゃ全滅するのは時間の問題だわ。メッセージ<心波>が使えるか試してみようかな」
イビルは使えるかどうかメッセージ<心波>をリサに送ってみた。
待機する雅則にリサが
「ハーロック様、イビルから連絡です。空から魔獣が現れて、親善大使の一行を襲い始めたそうです」
と報告した。
「空飛ぶ魔獣? 緊急事態だな」
「魔獣をやっつけていいかと言ってます」
「一行にこちらの動向を知られたくないが、そうも言ってられないな。許可すると伝えて」
「はい」
リサから返事をもらったイビルは
「私の力を見せてあげるわよ」
魔獣に炎の矢を放った。撃たれた魔獣は落ちていった。
「私の弱い攻撃魔法でも撃ち落とせるわ。楽しい~」
「な、なんだ・・」
魔獣たちが落ちて行くのを見て衛兵たちはただ驚いていた。
「あれは魔法攻撃。誰が落としているんだ?」
ソドルは大きな鳥獣に乗って魔獣を攻撃している者を見て
「ワリキュールの魔術師か?」
と思った。
悠介たちも空飛ぶ魔獣を確認した。
「落としているのはイビルか? やるな」
「馬車が襲われているようです」
カリナが丘の上から眼下の平地を見て悠介に言った。
「イビルだけじゃ被害を減らすのは容易じゃないな」
悠介は馬車を襲う魔獣に「サイコパワーシュート」を放って倒していった。
残った魔獣が逃げ去ると
「ワリキュールに戻ろう。彼らに姿を見られたくない」
悠介とカリナは、一行たちから姿を消すようにスポーツカーを走らせて戻った。
「イビルと悠介さんで一行の全滅は免れたようです」
イビルから連絡を受けたリサが雅則に伝えた。
「わかった。しかしオウムを使わなくても連絡しあえるのか?」
「メッセージ<心波>という能力で、近くでないと通じ合えません。今日はイビルが空で障害物がなかったことと、イビルもレベルを上げているようです」
とリサが説明した。
「そうか」
悠介とカリナが戻って来て
「スポーツカーの試乗運転は成功です」
とカリナが嬉しそうに報告した。
「俺はもう乗らないぞ。ジェットコースターも怖いが、カリナの自動車も負けてはいない」
と悠介は青ざめた顔をしていた。
◇
ワリキュールに着いたマーラは宮殿の玉座の間で国王のランケルに謁見した。
「初めまして。私はスラーレン法国の御三家のひとつ、アレイン家息女、マーラ・アレイン・スラーレンと申します。成人を迎えたのを機に親善大使を努めるべく参りました」
「遠いところを良くぞ来てくれた。私がワリキュール王国の国王、ランケルである」
「御国で所有している飛行船や、こちらに来て早速見せていただいたSLなど、ランケル国王の威光の賜物と伺っています。スラーレンにも欲しいものが他にもあるでしょう。お力添えをいただければ幸いに思います」
ランケルはマーラの褒め言葉に
「私は国王になりたての若輩者。周りのみんなが頑張ってくれるから国は保てているようなもの」
と謙遜して言った。が、ハンスは内心、冷や汗ものだった。ランケルが失言をしないことを祈っていた。
「スラーレンに飛行船が飛んできたときには驚きましたが、乗ってきたのはハーロック伯爵とお聞きしました。ヒュンケル国王と親しい仲だとか」
いきなりマーラはハーロックの名を口にした。
「え?ああ・・」
ランケルはハーロックの名を出されて言葉に詰まった。ハンスからも魔王やハーロックの名は出さないように念を押されていた。
しかしマーラのほうからハーロック伯爵の名を出されてしまった。
するとハンスが
「ハーロック伯爵はワリキュールの貴族ではありません。姉妹国であるエランデル国の伯爵なのです。彼にはワリキュールの発展に尽力をもらっているのです」
とマーラに説明した。
「エランデル国?・・すみません。私も成人になり立てで、ここ隣国のワリキュール国についても、実はあまり知識がございません」
するとソドルが
「マーラ嬢も飛行船には大変興味があって、ここに来る途中、魔獣に襲われてほとんどの従者を失いました。出来れば、帰りは飛行船で送ってもらえればありがたいのですが」
と申し出た。ソドルも飛行船には興味があって、もし飛行船に乗ることが出来れば、これ幸いと思った。
「飛行船で?・・」
ランケルが返答につまずくとハンスが
「申し訳ありませんが、飛行船は調整中で飛ばすことは出来ません」
と断った。ハーロックに断り無しに飛行船を飛ばせば、何を言われるかわからないと思った。
するとマーラが
「ソドル、いきなりやってきて帰りは飛行船に乗せろなどと、あつかましいです」
とソドルを叱責し、ランケルに
「申し訳ありません。帰りの心配はしていただかなくて大丈夫です」
と頭を下げた。
◇
その日の夕食の後の会議(?)で、イビルがランケルとマーラの対面の様子を聞かせてくれた。
「中々達者な姫のようだな」
イビルの話を聞いた悠介がそう評価した。
「私はさぁ、ああいう人族の話はよく理解出来ないから上手く話せないけど、ハンスが不安そうな顔をしていたのは間違いないわ」
「ランケルはお坊ちゃま貴族のようだからな。マーラが親善大使として来るのを誰にも相談しないで承知してしまったくらいだ」
「成人したばかりのまだ15歳。それが親善大使として来訪するとは、才女と言うべきか」
悠介もマーラに興味を持ち始めた。
イビルが
「ソドルという男が同行してきていて、マーラをフォローしていたみたいだけどぉ」
と言うのを聞いて、リンメイは驚いた。
聞き覚えのある名前だった。まさかこんなところで彼の名前が出ようとは。
悠介が
「で、15歳だから美人かどうかはさておき、可愛いか?」
とイビルに聞いた
「マーラが可愛かったら、サンダースの名で会いに行く?」
美緒に言われて
「15歳だからな。3年たったら考える」
と悠介はこたえた。
「で、ハーロック伯爵として乗り込むの?」
イビルに聞かれて
「いや・・今回は出しゃばらない。それよりエドワールの火力発電所を進めないと」
と雅則はマーラの件はスルーすることにした。
だが、マーラはワリキュールを脅かす存在になっていく。
◇
リンメイの部屋のドアがノックされた。
「はい」
「ハーロック、いや雅則だ。入っていいか?」
「どうぞ」
リンメイは入ってきた雅則に
「もしかしてソドルという男を知っているのか?」
と聞かれた。
雅則はイビルが親善大使の話をしたとき、リンメイがソドルの名前に反応したのを気にしてくれたようだった。
「私の知っている男と違うかも知れないので・・おかまいなく」
リンメイは自分の問題を誰かに聞いてもらうつもりはなかった。
「俺は他人のプライベートには干渉するつもりはないが、リンメイの思い出に残る人なのかなと思って。リンメイは今はまだスラーレンには戻れる心境じゃないだろうし」
相変わらず、雅則は気遣ってくれていると思った。リンメイはそれに甘えるように
「思い出の人ではありません。どちらかと言うといやな思い出です」
といらだつような顔をして
「ソドルは父の仇の名、なんです」
と言った。
そう、父が亡くなった後、父を殺めたのは、同じシャドーコープスのソドルだと教えてくれた者がいた。
「スラーレンの王位継承の騒動の中でリンメイのお父さんは犠牲になったんだったな」
「はい。でも・・父もシャドーコープスの一員だったけど、彼も影で動いていた者なんです。同一人物かは、わかりません」
「そうか・・覚えておこう」
リンメイは雅則が自分の話をちゃんと聞いていてくれたことを嬉しく思った。しかし・・
ソドルの名が気になった。




