< 幕間 法国の令嬢・マーラ >
スラーレン法国。その王族にはエクレール家、アレイン家、ブランド家があり、スラーレンの御三家と呼ばれた。
王位継承の順位は、長兄のエクレール家、次にアレイン家、そして末弟のブランド家になっていた。
しかし前国王が亡くなったとき、国王と肩を並べる権威を獲得していた大神官のアスターがエクレール家の長女、プロティナを女王として玉座に座らせた。そのため、アレイン家とブランド家は王位継承から除外されてしまった。
その後、マルケドーラ帝国が進攻してきても、プロティナは話し合いで解決しようとして国を窮地に落とし入れた。
プロティナを玉座から下ろそうとしたアスターは、雅則に敗れ、プロティナも国の窮地を救った雅則と魔王ヒュンケルに玉座から下ろされた。
そしてヒュンケルがスラーレン法国の国王に就いた。
◇
スラーレン御三家のひとつ、アレイン家のオルコックの娘、マーラが15歳の成人を迎えようとする頃、ブランド家のドルインと密談をしていた。
「叔父さま、このままでいいの? スラーレン御三家の名が泣くというか廃れてしまいますよ」
「わかっているが、もし自分が末弟ではなく次男だったら、プロティナが女王になると言い出したときに、もっと強く反対したものを・・と思っている」
「そこで私は計画を立案しました。一つめの計画は、私がワリキュール王国に嫁いでワリキュール王国をスラーレンの王族で固めることです。そうすればワリキュールはスラーレンの、いえ私たちの王国に出来ます。もう一つは魔王ヒュンケルを宮殿から追い出して、スラーレン王家を復活させる案です」
ドルインはそれを聞いて驚いた。たかだか成人になりたての15歳の娘に相談を持ち込まれたのだ。
「オルコックは、マーラの父親は、その話を知っているのか」
「いいえ。・・父は使い物になりません。プロティナ同様、野心がありません、争いも嫌いなのです。だから魔王なんかに国を取られたのです」
「それで私と?・・」
「叔父さまとなら計画を遂行出来る気がするんです」
「正直、私もオルコックの不甲斐なさには辟易している。しかし・・」
「ワリキュールを手に入れた後も、魔王を追い出したあとも、いずれにしても国王は叔父さまが・・」
「マーラがこんなに才女だとは思わなかった。私の娘であったらどんな嬉しいか。オルコックには悪いがマーラがオルコックの娘に生まれたことを残念に思う」
ドルインはマーラの計画にのった。
◇
そしてマーラは15歳の成人を迎えた。
「マーラ、成人おめでとう。これからは一人前の女性として扱わなければならないな。・・しかし父が不甲斐ないばかりにマーラの将来を輝かせられないでいる。許してくれ」
マーラの父、アレイン家のオルコックがマーラに言葉をかけた。
「お父様。私は大切に育てられ、成人することが出来ました。これからは私がお父様に恩返しをする番です」
「マーラ・・」
その後、マーラは国王である魔王ヒュンケルに謁見した。
「国王様、マーラ・アレイン・スラーレンが、成人になったので報告にあがりました」
「ごくろう。そして成人おめでとう」
ヒュンケルはマーラに祝いの言葉を贈った。
「国王さま、私を親善大使としてワリキュール王国に遣わせてください」
「親善大使?」
「国王は先進国になりつつあるワリキュール王国に興味があり、それをスラーレン法国にも取り入れたいとお考えがあることを聞きました」
「うむ」
「それにはワリキュール王国と親交を深めた方がいいと思います。しかしワリキュールにはシルビアやマクレスが乗り込んで、ワリキュールはスラーレンに対していいイメージは持っていないと思います」
「うむ・・それで?」
「それで、それを払拭するために親善大使を考えました。ただ・・またスラーレンの貴族が出向いても受け入れてもらえるかわかりません。そこで女性である私が出向くことでワリキュール王国のスラーレン法国に対する印象をいい方向に変えたいと思います」
「なるほど。・・マーラの考えは分かった」
こうしてマーラは親善大使としてワリキュール王国に来ることになった。しかし・・本当の目的は別にあった。
◇
スラーレン法国では生まれ育ったリンメイは、シャドーコープスの一員だった父、ブライアンが亡くなった後、スラーレン王族のシルビアやマクレスに仕えていたが、自分の生き方に疑問を抱き、スラーレン法国を離れてエドワールで冒険者稼業をはじめた。
列車の警護をしていたとき、魔獣に襲われ深い傷を負う。が、雅則に助けられたのを機に、雅則たちの館に暮らすようになった。
リンメイはジルとスミス電力会社で働いていた。会社では電柱用の木材を山から切り出すという作業もあるが、魔物が現れることがあるので、その対応にあたっている。
雅則はエドワールに電気の明かりを灯すための電気をつくる火力発電所の建設に携わっていた。そのための建設資材はワリキュールの工業団地でつくられている。
「ワリキュールの電気は貯水池の排水口や山の麓の滝を利用した水力発電でまかなっているが、エドワールは荒野の平原につくられた街だから近くに滝などない。そこで火力を用いた発電所を建設しているんだ」
と悠介が教えてくれた。
「火を使って電気をつくれるんですか?」
「そう。飛行船のタービンもSLのタービンも火を起こして発生する蒸気を利用している。火力発電所も同じような仕組みだ。火力で蒸気を発生させ、タービンを回して電気をつくる」
悠介はわかりやすいように話してくれているんだろうが、リンメイにはまだよく理解出来なかった。
工業団地に火力発電所用の鉄鋼材の進捗状況を確認してきた雅則が夕食後の会議で
「ハンス(侯爵)からスラーレン法国から親善大使が来る話を聞いてきた」
と話した。
「マーラという令嬢が成人したのを機に親善大使としてワリキュールに来るらしい。詳しいことはわからないけど」
するとリンメイが
「それはスラーレン御三家のアレイン家のオルコックの娘かも」
と思い出して言った。
「知っているのか?」
「オルコック様は御三家の一人で、私も恩義に思っている人で、娘が居ることは知っていますが、幼い頃しか見たことがありません」
「そう。・・しかし国王ってヒュンケルだよな。ヒュンケルがワリキュールに親善大使を向ける?・・スラーレンにもSLを走らせたいとは言っていたけど・・」
「どうする?」
悠介に聞かれて雅則は
「まあいいか。ハンスたちに任せよう。エドワールの火力発電所の建設を進めないと・・」
と雅則はマーラの件をスルーした。




