< 幕間 ジル・トラバート その3 >
ジルたちは飛行船でワリキュールへの帰路についた。
イビルが雅則に
「もうひとつ、話しておきたいことがあるんだけど、飛行船のことでソマルに意地悪なことをしちゃった」
と話した。イビルの話を聞いた雅則は
「まあ、ソマルの態度が大きくなってきたのは確かだが、俺を悪者にしてないか?」
と咎めるように言った。
「それを謝っておこうと思って」
「正直に話してくれたから、今回のことは咎めないけど。それと変な女が現われたって?」
「金貨でチーズを買いに来たときには、スレーンも驚いたそうだ。名前はたしかソアラとか」
悠介の話にジルが
「女神だ」
と言った。
「女神の名はソアラ。でもまさか女神が・・」
それを聞いて悠介が
「ソアラねぇ。・・俺が知っているゲームのキャラには、そういう名前の女神がいなかったなぁ」
と思い出そうとした。
「顔を見れば同一人物かどうかわかるだろう。たまたま名前が同じだったとうこともありえなくない」
すると
「そのソアラの泊まっている大飯店は確認してあるから」
とイビルが言った。
「上出来。さっきのソマルの件は、それで帳消しだ」
雅則はイビルの仕事ぶりを褒めていた。
ジルは、雅則とリサやイビルの関係をまだよく理解していない。
ワリキュール空港に着くと、自動車を飛行船から下ろし
「みんなは乗れないな。乗っても重量オーバーで走らないだろう」
と雅則が気づいた。
そこにソリアが自動車で迎えに来た。
「1台じゃ乗り切れないと思って迎えにきました」
「ありがとう」
「お帰りなさい。無事戻ってこられて安心したわ」
ジルは
「ソリアも俺の館に一緒に住んでいる」
と雅則から説明された。
館に着くと、少女が玄関から出て来た。
「ただいま」
ウルっとした小女を雅則が抱きしめた。そして
「鳥獣クックだ。預かってきた」
雅則がクックを少女の手のひらに乗せた。
「可愛い。私が面倒を見ていいですか?」
「いいよ。じゃあ、クックはコーネリアに預けるから」
この少女はコーネリアというセキュバスらしい。・・セキュバス?
雅則の妹として扱われているらしい。
リサやイビルは魔族らしいし、ジルは館に色んな種族が住んでいることに、改めて驚いた。
それから、ジルとミシェールはあらためて館の住人に紹介された。
「今日からジルも館の住人だ。ミシェールはお客様」
「無期日で休隊届けを出してきたので・・よろしくお願いします」
ミシェールは深く会釈した。
「今日は外食してきましょう」
美緒が提案した。
「料理作れる人・・そんなに居ないものな」
「で、女神はどうするんだ?」
悠介に聞かれて
「しばらくほうっておいていい? ミシェールをエドワールに連れて行きたいし。ただミリアはミシェールが来ても喜ばないと思うけど」
と雅則が言うと
「その時はスラーレンに戻ります」
とミシェールがあきらめるように言った。
悠介が
「女神に狙われているのは雅だからな」
と念を押した。
少女はコーネリアというセキュバスらしい。セキュバス?
◇
翌日、雅則は、ミシェールとコーネリアを連れてエドワールに出かけた。
ジルはイビルから聞いたソアラが居るだろう大飯店に行った。
「ソアラに会いに来たんだけど」
「お名前は?」
「ジル・トラバート」
「ソアラ様から、もし訪ねてきたら通すように伺っています」
ソアラの部屋を聞いたジルは、ソアラの部屋をノックした。
「ジルです」
「入って」
ジルは部屋の中に入り女神のソアラと確認した。
「ハーロックは見つかったの?」
「はい」
「倒したの?」
「いいえ」
「あなたでも倒せない?」
「力はハーロックのほうがあります。しかし・・なぜハーロックを倒さなければならないんですか?」
ジルはあらためてソアラに聞いた。
「ハーロックはこの世界の秩序を乱すからよ」
「ハーロックは魔王なんかじゃありません。いい人間です」
「何を言っているの?」
「ハーロックはこの世界に貢献をもたらしています」
「そんなことないでしょう。げんに彼はマルケドーラ帝国を潰しているのよ」
「それは・・」
「噂ではひとつの国を人族の国から魔族の国にしたらしいし」
それを言われると、ジルは反論出来なかった。
ジルは館に戻らず夜になるとスナックに入った。
イビルが見つけてくれることを期待して酒を飲んでいた。
だが、イビルは現れなかった。
その日、リンメイは冒険者の仕事で、列車の警護を担っていたが、機関士を守ろうとして狼魔獣に襲われ、重症を負った。そして偶然、列車に居合わせた雅則とコーネリアに救われた。
イビルもそれに関わり、エドワールに出かけていた。
◇
館を二日空けてしまったジルがスナックで飲んでいると
「やっぱり飲んでいた。探したのよ」
とイビルが現れた。
「女神のことで悩んで、どうしたらいいか迷っていて・・」
「女神のことなんか知らないけど、館もちょっと大変な状況になっているの」
「え?」
「ハーロックが、エドワールに行ってまた騒動に巻き込まれて・・」
ジルは雅則が助けたリンメイという女を館に連れてきた話を聞いた。
翌朝、ジルが雅則に
「昨日、女神に会って話してきた。だが、話は平行線で俺も悩んでしまってスナックに入ってしまった」
と話した。すると
「もとの世界に戻りたければ、俺が女神に頼んでやろうか。俺のために召喚されたんだろう?」
と言われた。
「女神がハーロックの頼みを聞くと思うか?」
「さあな」
イビルが館に戻ってきて
「ソアラは金塊を取りに行ったそうよ。大飯店の部屋が気に入ったみたいだけど」
と報告した。
ジルは
「きっと塔に戻ったんだ」
と雅則たちに言った。
「マルケドーラの跡地には行けないな。ソアラが戻ってくるのを待つか」
雅則は動こうとしない。
するとヒュンケルが突然現れた。スラーレンから転移してきたらしい。
「クックの居場所に転移出来るからな。SLに乗せてもらえるか」
ヒュンケルはSLに乗るのを楽しみにしているようだ。
「いいけど。その前に頼みがある。マルケドーラ跡地に転移出来るか?」
雅則がヒュンケルに頼んだ。
「それは容易だが、跡地の何処に転移するかは分からないぞ」
「行くだけ行ってみるか。女神が金塊を取りに戻ったらしい」
「こっちに戻るのは簡単だから転移させてもいい」
そう聞いたジルは
「俺も連れていってくれ」
と雅則に頼んだ。
◇
ジルと雅則はヒュンケルにマルケドーラ帝国の跡地に転移してもらった。
「ほんとうに荒野になってしまったようだな」
雅則は建物も花も何もない荒地眺めて言った。
「ハーロックの極大魔法には驚いたよ」
ヒュンケルも雅則の魔法に立ち会ったようだった。
「女神は何処に居るんだ?」
遠くに巨大なタワーが見えた。
「女神はあの塔に居ると思う」
ジルが言った。
「場所はわかっても、歩いて行くのは大変だな」
「なら転移するか。見えるところなら転移出来る」
「ヒュンケルについてきてもらってよかった。頼む」
ヒュンケルがまた魔方陣を出し、塔に転移した。
「ここへの訪問者ははじめてだわ。誰かしら」
ソリアが現れた。
「女神さま」
ジルが声を上げた。
「ジル・・ハーロックを倒したの?」
「そのハーロックというのは俺らしいが」
雅則が前に出た。
「あなたがハーロック? 魔王と聞いているけど」
「俺はこの世界でハーロックを名乗り、魔王と名乗っているだけだ。普段は街の中に暮らしている」
「あなたは魔族に加担し、人族を滅ぼしている。許せない存在・・と聞いています」
「誰に聞いたかは知らないが、この世界を乗っ取る気など毛頭ない」
「でも、一国を潰して魔王に統治させたり、ここにあったマルケドーラ帝国をも消滅させたというのは嘘なの?」
「それは・・本当だ。だが、それらにはそれなりの事情がある。この世界には人族以外に魔族や魔獣その他いろんな生き物が存在している。だが、人族は自分たちの都合で魔族たち他のものを追いやったり殺したり身勝手すぎる。意に沿わない他の生物との共存を拒み、この世界を乱しているのは人族だ」
「あなたは異世界の者と聞きます。異世界のあなたがこの世界のことに口を挟むことは許せません」
「好きでこの世界に来たのではない。それに、人族も魔族も他の生き物も懸命に生きている。そんな彼らを見ていると共存することがこの世界の秩序にはいいと思える。魔族とか人族ではなく、秩序を乱すものを始末はしている。神はこの世界ではどういう立場なんだ」
「神は・・この世界のあらゆる生き物の頂点に立つもの。それに私が選ばれた」
「では神は人族だけでなくあらゆる生き物の命を尊ばなければならないのではないか」
「文明を発展させるのは人族。それを妨げるものは排除しなければなりません」
「愚かな。文明が発展しようがしまいが命があってのこと。どんな世界であろうと自分たちのために他を排除することは許されない」
「あなたとは意の相違を縮めることは不可能と考えます。異世界から来たあなたは倒さなければなりません」
「意に沿わないから排除する・・か。」
「でも、私には戦闘能力はありません。だから異世界からあなたを倒すために勇者を召喚したのです」
「その行為は、召喚されたジルやノクトには迷惑な話だ。自分が何をしているのかわかっているのか!」
「私は召喚魔術以外はほとんど使えません。この世界のために彼らを呼び寄せたのです」
「誰のために」
「それは・・この世界の人族のために」
「そのために俺が邪魔なら、元の世界に戻れるなら戻ってやる。しかし・・人族に翻弄される他の生き物はどうなってもいいのか。この世界を乱しているのは人族だ。それを優先し、他の生き物を粗末に扱う者は、それがたとえ誰であろうと俺が始末する」
「ジル。ハーロックを倒しなさい」
ジルはソアラに命じられた。だが・・。
「俺も女神のほうが間違っていると、この世界に来て思った。ハーロックはこの世界で何ひとつ悪いことはしていない。逆にこの世界に貢献している。種族を越えて共存もはじめた」
とジルは反発した。
「私が聞いている話とちがうわ」
ソアラは困惑した。
「誰から俺の話を聞いた」
雅則が問い詰めると
「アスターよ。スラーレン法国というところで大神官を務めていた」
とソアラがこたえた。
「アスター? あいつはプロティナに言われて命だけは助けた。女神とどんな関係なんだ」
「アスターは神殿で私を育ててくれた父のような存在よ」
「神殿?」
「アリオン神国のベナ神殿。アスターはそこで上位魔法を会得しながら私を育ててくれたの。そして私が神殿の女神に選ばれ神殿に入ると、アスターは下界の地、スラーレンにたどりつき、そこに法国を築いたの」
「そういう流れ」
「魔王ハーロックによって重症を負ったアスターは命からがら神国に転移して戻ってきたのよ」
「それで俺の話を聞いたのか」
「このままでは世界はハーロックに潰されると・・」
「言いそうだな」
するとヒュンケルが
「ソアラはアスターに騙されている。俺はスラーレンの国王になって、スラーレンのこれまでを調べた。すると、そのアスターがスラーレンの国王に近づいて法国を築いた。彼はそうして権力を得たのだ。そして邪魔になった女王のプロティナを幽閉した。それをハーロックが救い出したのだ」
とソアラに話した。
「私がアスターに騙されたと言うのですか?」
「彼はハーロックに復讐するためにソアラを利用したのだろう」
「父のように思っていたアスターが・・」
「現実を直視してみるがいい。どちらが正しいか」
「たしかにワリキュールの街に出向いてハーロックの噂は何一つ気かなかったわ」
「それでも俺を倒したいと言うなら、俺は相手になる。容赦はしないぞ」
「私は闘うのに必要な魔法は持ちません。それに・・今は異空間転移の魔法も使えません」
「え?」
「女神としてもまだ駆け出しなので、ノクトとジルを召喚したら魔力がほとんどなくなってしまったんです」
「ええ!それじゃ、ハーロックを倒したとしても、もとの世界には戻れないということなのか?」
ジルが問い詰めると
「・・はい。すぐには。でも・・魔力が回復すれば戻すことは出来ます」
とソアラはすまなそうにこたえた。
「それはいつになる」
雅則が聞いた。
「わかりません。自分でも」
「そんな無責任な」
ジルは膝を落として愕然とした。
「無責任な女神だな」
雅則がきつく言った。
「ごめんなさい。後先を考えずにジルたちを召喚してしまいました」
「どうする気だ?」
ヒュンケルが雅則に聞いた。
「どうしたものか。・・ジルはもう少し、この世界に居るようだな。俺は転移魔法を使えないし。・・ソアラも魔法が回復するまで館で暮らすか?」
「え?」
「え?」
みんな唖然とした。
「ここで過ごすより見聞が広がっていいだろう」
ソアラはとまどった。
「それともアリオン神国に戻るか?」
「スラーレンやワリキュールには空間転移出来ます。でも神国に戻る力はありません。空間転移も遠距離だとライフを使うんです」
「じゃあどうする?」
「よろしくお願いします」
ソアラは雅則に頭を下げた。
「ヒュンケル。館に戻してくれ」
雅則がヒュンケルに頼んだ。
「わかった。SLに乗れるか? スラーレンにも戻らなければならない」
「この時間ならまだ乗れるかも」
ジルたちはヒュンケルに館に戻してもらった。
戻ってきた雅則たちを見て悠介が
「もう女神を倒してきたのか?」
と雅則に聞いた。
「いや、連れてきた」
「え?」
「詳しい話はあとでするから、今からみんなで街を走っているSLに乗りにいこう」
雅則はヒュンケルやジル、連れてきたソアラ、それにコーネリアを連れて駅に向かった。
ソアラはSLを見て
「これをハーロックたちが作ったのですか?」
と驚いていた。
「そうだ。人間も知恵の出し方、使い方を間違わなければ、いい生き方が出来る」
「SLは素晴らしい。スラーレンにも走らせることは出来るか?」
ヒュンケルに聞かれて
「それはヒュンケルの国王としての執政による。ワリキュール国として協力はするよ」
と雅則はこたえた。
SLに満足したヒュンケルは
「国を空けることは出来ない。また来る」
とスラレーンに転移して戻っていった。
◇
夕食の時間に雅則がソアラについて館のみんなに話した。そして
「今日からソアラも館の住人になる。よろしくね」
とソアラを紹介した。
「ソアラとソリアか、間違えないようにしないとな」
悠介が注意喚起した。
「ソアラは料理とか出来るの?」
美緒が聞いた。
「いいえ。出来ません」
「期待した私が甘かったか」
「美緒が出来るようになればいいだろう」
「私を館で働かせる気?」
悠介がソアラに住人を紹介した。
「俺と、雅則、美緒、ジルは異世界からの転移者。ソリアは冒険者協会の職員。カリナは貴族出身の研究開発者。コーネリアはセキュバス。リサ、イビル、イーナは魔族。それとスラーレン出身の冒険者のリンメイ。彼女は怪我をして部屋で横になっている。今はこれだけかな?ああ、セキュバスのアリスたちもときどき泊まりに来る」
「いろんな種族が同居している?」
ソアラはさまざまな種族が一緒に暮らしていることに驚いた。
「仲良くね。楽しいだろう?」
「どうしていろんな種族と同居を?」
「ああ・・いつのまにかそうなった」
雅則もソアラにうまくこたえられないでいた。
翌朝。
「悠介、ソアラを営業所で使ってやったら?」
聞かれた悠介は
「使えるかな?世間知らずのお嬢さんタイプだけど」
ととまどっていた。
「それとも美緒にチーズつくりかワインつくりを教えてもらおうか」
「そっちのほうがいいんじゃないか?アリオン神国の何とか神殿の女神って、どんな暮らしをしていたかわからないけど」
「俺は何をすればいい?」
ジルが聞くと
「電力会社で働いてもらおうか」
悠介が提案した。
「電柱用の木材を伐採しているんだが、山に魔物が出る場合があるから出て来た魔物を退治する仕事だ。以前はスラーレンの衛兵隊魔法戦士だったミリアとユリカが居たけど、今はエドワールに行ってしまって、代わりに冒険者を雇っているらしい」
悠介が説明すると
「なら、私がスミスさんにジルとソアラを紹介して、それぞれ電力会社と牧場で働いてもらうわ」
と美緒が言った。
まだまだこの世界について理解出来ていないジルは
「何でもいいけど、そこって何をするところ?」
と聞いた。
「ジルも電気は知らないか。例えば、この館の明かりも電気で灯している」
「そうなんだ」
「ジルの世界では、夜の明かりはどうしている?」
「油や松明を使って明かりをとっている」
「じゃあ、この世界とほとんど変わりないのかな」
二階から女が下りてきた。この女がリンメイらしかった。
魔獣に襲われ、雅則が助けて連れてきたと聞いてる。
「リンメイさん、もう起きられるの?」
ソリアが
「さ、こっちに来て座って」
と気遣っていた。
朝食のあと、ジルとソアラは美緒に牧場に連れていかれた。
そしてスミスに紹介された。
スミスは牧場のオーナーで、総合商社・スミスコーポレーションの会長でもあるらしい。
それから、ソアラはワイン醸造工場へ、ジルはスミス電力に案内された。
そしてジルもスミス電力で働きはじめた。
怪我から回復したリンメイはエドワールで冒険者をしているらしく、仕事に出かけていった。しばらくしてまた怪我を負ったらしく、今度は回復したあと、コーネリアと家事をこなしていた。
そしてジルとリンメイは悠介に誘われてエランデルに行き、オーグ討伐キャンペーンに参加した。
リンメイはエランデルから戻ったあと、コーネリアと家事をこなしていたが
「リンメイのことだが、家事をさせておく気か?」
といわれた雅則が
「前は冒険者の仕事で出かけていたけど、また怪我をされても困るしな。ジルと一緒に電力会社で働いてもらおうか」
ということになった。
リンメイも美緒に牧場に連れて行かれ、スミスに紹介された。
そしてジルとリンメイは電力会社で一緒に働きはじめた。




