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2-7.蝙蝠魔族の凶爪

 リンメイは翌日までエランデルの街を散策して、次の朝のアリシクル駅発の列車の警護の仕事をしながらエドワールに戻った。

 そして冒険者協会で仕事の報酬をもらった。ワリキュールに戻るには明日のワルコット駅向けの列車に乗らなければならない。

 街の安い宿に泊まることにしてリンメイは外食に店を探した。大通りに大きな食事処もあるが、お腹を満たすだけなら路地裏の店でいい。

 リンメイがそこで食事にありついていると、気になる声が聞こえてきた。

 リンメイは聴力魔法イヤーアビリティを働かせ、離れた席で酒を飲みかわしながら男たちが話ているのを聞いた。

「銀行に金貨が運ばれたらしい。この街はまだまだ開発を続けているからな。やるなら今夜だ」

「俺たちだけで?」

「助っ人を呼んでいる。頼りになるやつを」

「わかった。じゃあ乾杯」


 銀行が襲われる?・・リンメイはそう思った。エドワールにも衛兵隊が居て、街には衛兵隊の駐在所があることも知っている。しかし、そこに行って今聞いた話をしても信じてもらえるか、動いてもらえるかはわからない。

 それに冒険者協会は夜は閉まっているから掛け合うことは出来ないので賊を捕まえたり倒しても報酬はもらえない。

 それでも見過ごすことは出来ないと思ったリンメイは一旦、宿に戻り、出かける準備をした。


 夜市が始まった通りは明るく賑わっているが、銀行のある通りは、そこから離れていて薄暗い。夜が更けると油で灯した街灯も消えてしまう。

 そこに集まってきた男たち。銀行の裏手から忍び込もうとしていた。

「金貨は持って行かせないわよ」

 先に潜んでいたリンメイが出て行って男たちを制した。

 賊に魔術師などがいなければ、リンメイの脅威になる者はいないと楽観視していた。

「衛兵隊ではないようだな。冒険者か。女一人だ、片付けてしまえ」

 男たちがリンメイに襲い掛かってきたが、リンメイは男たちを倒していった。魔法攻撃をするまでもなかった。

魔術師マジシャンは居ないようね」

 リンメイは油断した。

 何者かが近づいたと思ったら、リンメイは飛ばされた。

 いきなり強風にあおられた。魔術師ではない。人族には見えなかった。

「風を起こす魔族?」

 脇腹に痛みが走った。油断をして傷を負った。


 襲い掛かる魔族にリンメイは『火炎弾ファイヤーショット』を放ったが、魔族は空中でリンメイの攻撃をかわして襲い掛かってきた。

「宙を舞う魔族?」

 それは蝙蝠魔族だった。リンメイは防御魔法『マジックシールド』で防御した。

「上位魔術師か、吹き飛ばしてやる」

 魔族は風を起こしてリンメイを吹き飛ばそうとした。

 リンメイは宙に飛ばされると建物の壁に足で着地して反動を使って魔族に襲い掛かり

「パワーアタック」

 魔族の胸元に一撃を加えた。魔族は落ちるように倒れた。

 だがリンメイも先に深い傷を負わされてしまっていた。

「魔族が倒された」

 賊たちは魔族が倒されて唖然とした。


 そこに衛兵隊が駆けつけてきた。巡回中に騒ぎを発見したらしい。

 賊たちは衛兵隊に捕らえられた。

 リンメイを見つけたソーンが駆けつけてきて

「リンメイさんが彼らを。ありがとうございます」

と礼を言った。

「傷を負ったんですか?」

「魔族も居たので。かすり傷です」

 ソーンも倒れている魔族を発見した。

「たまたま銀行を襲う話を耳にしたので・・あとはお願いします」

 リンメイはソーンに後始末を頼んで宿に戻った。

 しかし魔族の爪から負った傷は、リンメイに列車で狼魔族に襲われた傷を思い出させた。

 魔族の爪は長い。傷は深いようだった。


 ◇


 翌朝、リンメイは列車でワリキュールに向かい館に戻った。

 館では雅則たちは出かけていてカリナが図面を描きながら居た。

 リンメイは自分の部屋に入ると、痛む傷口を押さえてベッドに横になった。

 魔族に襲われたとき伸びた爪が脇腹に深くえぐりこんだ。爪が伸びるとは思わなかったリンメイは油断した。

 しかし重傷を負ったと知られたくはなかった。何とか我慢して館に戻ってきた。

 自動車販売店の営業所から戻った悠介がカリナに

「まだ誰も戻っていないのか」

と聞いた。

「リンメイさんが戻ったようだけど、すぐ部屋に入って出てこないけど」

 カリナが言うと悠介がリンメイの部屋をノックした。

「リンメイ入るぞ」

 返事がない。

 悠介が部屋に入ると、リンメイはベッドでうずくまっていた。

「リンメイ、大丈夫か?」

 悠介はリンメイを見て驚き

「熱を出しているようだな。前の時と同じか。この世界には医者はいないから、またナターシャに診てもらうか」

と言った。

「大丈夫です。かすり傷です」

 リンメイがそう言うと

「かすり傷で、そんなつらそうな顔をするか。リンメイをほうっておいて症状が悪化したら雅にどんな言い訳をする」

 そう言われるとリンメイは何も言えなかった。


 リンメイはキャンピングカーに乗せられると教会に連れていかれた。

「ナターシャ、また診てくれる?」

 悠介がナターシャに頼んだ。

 ナターシャはリンメイの傷口を見て

「傷が深くて出血が止まらないようです。傷口を塞いで出血は止めることが出来ますが、どこまで回復させられるかわかりません」

と診断した。

「出来るだけのことを頼む」


 ナターシャはリンメイに治癒魔法を唱えた。傷口は塞がり、出血は止められた。

「またナターシャの世話になった。ありがとう」

「私の治癒魔法がもっと強ければいいんだけど。ポーションがあれば私が居なくても治せると思います。でもポーションを作るには薬草が要ります」

「薬草が手に入れば作れるのか」

「ポーションをつくる技術も会得しました。でも、薬草がどこにあるのかわかりません」

「そうか。作れると役に立ちそうだな」


 ◇


 リンメイは館に戻されると悠介に

「俺のライフをやってもいいが、コーネリアも雅と出かけている」

とすまなそうに言われた。

「迷惑かけてすみません」

「怪我人が心配するな。そうだアリスでも出来るかな。館に来てくれなくなったからな。俺も飽きられてきたか」

 悠介は戻ったイビルに

「アリスの居場所を知らないか? だめもとで聞くけど」

と聞いた。

「お店かな? スナックの評判がよくて儲かっているそうだから」

「来てもらえるか頼んでもらえないか。リンメイをなんとかしたい」

「わかった」


 待っているとアリスがやってきた。

「悪いなアリス」

「お店に来てくれれば館にもたまには来てあげるけど」

「悪いけど、俺はあまり飲めないから」

 悠介はアリスとリンメイの部屋に入った。

「俺のライフをリンメイに分けてくれ」

「私がもらいたいけど」

「俺には飽きてきたんだろう?」

「そんなことを言うと、ほんとうにもう一緒にお風呂に入ってあげないわよ」

「それはこれからもお願いしたい」

「どのくらい分ければいい?」

「俺が倒れないくらい」

「私が倒れちゃうわ」

 アリスも悠介にジョークを返した。


 ◇


 雅則が帰ってきて、悠介からリンメイがまた負傷したことを聞いた。

「リンメイがまた深手を負った。冒険者の仕事をしてだと思うが・・」

 リンメイが目を覚ますと、ベッドの近くに椅子を持ってきて雅則が座っていた。

「ハーロック様・・」

「冒険者でも何でもいいけど、自分の体を大切にして」

 雅則に言われてリンメイは

「はい」

と素直に言った。

「俺の世界なら病院があって輸血も出来るし、外科手術も出来る。この世界では治癒魔法に頼っている。あとは本人の回復力次第だ。俺は祈ることしか出来ない」

「・・心配かけてすみません」

「元気になってくれよ」

「はい・・どうして私にそこまで・・」

「さあな。縁を感じるからかな」

「またナターシャさんのお世話になりました。それと、悠介さんがライフを分けてくれました」

「悠介が? そんなこと出来たかな。コーネリアは俺が連れ出しちゃったし」

「アリスとかいう人が・・」

「アリスが居たか。彼女もセキュバスだった」

「ワリキュールもエランデルも、本当にいい人ばかりですね。人族ばかりじゃないけど」

 リンメイは雅則にゆかりのある者たちが、みんないい人であり、生き物であることを館に来てから実感した。

「そうだね。俺もこの世界が気に入りはじめている。魔族も悪魔も関係ない。みんな仲良くなれる気がする。・・人族だけは欲が深いのか、なかなか難しい」

 リンメイは雅則と話をして少し安心し

「エランデルのナルーシャから、またオーグ討伐キャンペーンに参加してほしいと言われました」

と雅則に言った。

「そう。・・そうだモディナ族にもまたアズパイアや野菜を届けないと。石炭は需要が伸びているからモディナ族を頼らなければならない」

「魔族から、何かをもらっているんですか?」

「うん。協力してもらっている。そのお返しにアズパイアや野菜をあげているんだ」

「ほんとうに魔族でも誰とでも仲良くなってしまうんですね」

「そのほうが楽しいだろう?」

「ハーロック様」

「なに?」

「私は父を失い、他に家族は居ず、今は冒険者としてしか生き方を見いだせていません。・・こんな私ですけど、私にハーロック様たちのお手伝いをさせてもらえませんか? みんなに迷惑をかけっぱなしじゃ申し訳ないので」

「それはいいけど。・・リンメイなら頼りになりそうだし・・」

 雅則はリンメイの手を握ると

「今は身体を治すことだけ考えて」

と言って部屋を出て行った。































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