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2-5.館の日常

 体力も回復したリンメイは、コーネリアに料理などを教わりながら家事をこなしていた。

 そして気になっていたことを聞いてみた。

「どうしてコーネリアはハーロックさんたちと暮らし始めたの?」

 コーネリアは最初、言いづらそうにしていたが

「私はもともと、この辺りに他のセキュバスと棲んでいたんだけど、人族の魔術師に襲われて散り散りになって・・この大きな館が出来てから住み着いていたの。でも隠れるように住み始めたら、気味悪がられて誰も居なくなって・・そのうちハーロック様たちがやってきて、ハーロック様は私の存在にも驚かないで、私がここに住み始めた訳を聞いてくれて、一緒に住もうと言ってくれたの」

「そうなんだ。一人で生きてきたのね」

「両親も他の仲間も人族に殺されちゃったから・・」

「そうだったの。じゃあコーネリアも私と同じ天涯孤独になっちゃったのね」

「リンメイさんも?」

「うん。私の両親も死んじゃって居ないの」

「私は・・ハーロック様に救われたから」

 リンメイも雅則ハーロックに救われたようなものだと思った。が、このままではみんなに申し訳ないという思いを募らせていった。


 そして雅則に

「身体も回復したのでエドワールの冒険者協会へ、SLの警護に行ってきます」

と言った。すると

「無理するなよ」

と言われた。

「はい」

 雅則に止められることはなかった。リンメイが館で世話になっていることに気まずく感じていることを雅則が察してくれたようだ。

 美緒が

「リンメイにもジーンスをつくったら? 冒険者の仕事をするならなおさらいいでしょう?」

と悠介に言った。

「そうだな。破れにくい生地だしな」

 それは雅則や悠介はもちろん、リサやイビルも穿いているボトムスだった。ソリアも普段着として重宝している。生地が厚く動きやすいものらしい。

「型紙をつくるのに、ソリアが寸法を測ってあげて。悠介さんに測らせないように」

「俺のチャンスを見抜かれたか」

 そして悠介にニナの店に連れていかれた。

「リンメイにもジーンズをつくって欲しいんだけど」

「数日待ってくれる? 注文が増えてきちゃって」

「商売繁盛だね」

 リンメイもジーンスをつくってもらって、その履き心地が気に入った。


 ◇


 そして数日後、エドワールの冒険者協会に行ってみると、クエストボードがちょっと立派になっていた。しかしクエストはあまりなかった。SLの護衛や銀行などの警備の他に、道路工事や部材の運搬などの仕事もある。

 リンメイは誰かに見られている気配を感じて振り向くと、冒険者協会のカラナだった。エドワールに来て冒険者協会で最初に世話になった女だ。

「しばらく見かけなかったから、エランデル国にでも行ったのかな、と思っていました」

 カラナはリンメイが列車の警護をして魔獣に襲われ、怪我をしたことを知らないようだった。

「やっぱりSLの警護ぐらいしか、いい仕事はないかな」

「SLがエランデル国と繋がったから、そっちの方面の警護と組み合わせれば、いい稼ぎになると思います」

「そうね。ありがとう」


 協会内の衛兵隊詰め所から出てきたソーンが

「リンメイさん」

と声をかけてきた。

「怪我をしてワリキュールに運ばれたと聞いて心配していたんだが」

「もう大丈夫です。心配かけました」

「また冒険者をするんですか?」

「はい。それしか出来ませんから」


 リンメイの仕事選びは効率が悪い。仕事はエドワールの冒険者協会に出向いて、それから仕事をもらってこなさなければならない。仕事はSLの警護を選んでいる。鉄道の線路は単線なのでワルコット駅とアリシクル駅のそれぞれの始発は2日に1回のみだ。

 雅則の館に住み始めたリンメイは、まずエドワールに行き、そこで仕事を請け負って翌日、エドワールからの列車の警備をして帰る。

 何回か繰り返していたリンメイは、カラナから

「いつもエドワールとワルコット駅間の警護を選んでいるけど、アリシクル駅との間は受けないんですか?」

と聞かれた。

「今はワリキュールに住んでいるの。だから・・」

「エランデル国よりワリキュール王国のほうが大きいしね」

「それはあまり関係ないけど・・」

 リンメイはエランデル国にも何回か行って親しみを感じるようにもなってきている。

「アリシクル駅間の警備も手薄になるときもあるようなの」

「そう。・・考えてみるわ」


 夕方、仕事を終えて館に戻ると

「エドワールの冒険者協会の依頼で、アリシクル駅までの列車の警護を頼まれたの」

と相談のつもりで雅則に言った。

「アリシクル駅ってエランデル国だったな」

「それで、エランデル国やエドワールに泊りながら仕事をするのも多くなると思うの」

「それはリンメイに任せる。好きなように仕事をして好きなように過ごせばいい。もしエランデルに泊まるときは、『ハナ』に予約をとってやるよ。エランデルにリサのように世話をしてくれる魔族が居て、連絡取りあえるから」

 雅則が相談に乗ってくれた。

「はい」

「俺はこれから忙しくなりそうだから、館は悠介にみてもらうから。彼に相談して」

「はい」


 ◇


 ワリキュール街の郊外の大きな館は、牧場のオーナーのスミスが建てたものだが、雅則たちが牧場付近に現れたオーグを倒してくれたお礼に譲り受けたものだった。

 その館には雅則と悠介、美緒のほかに冒険者協会で働くソリア、元貴族の娘で悠介の弟子になって自動車などの設計図を描いているカリナ、セキュバスのコーネリア、魔族のリサとイビル、他にも何人かが居るが、よくわかっていない。

 悠介も自動車販売の営業所に出かけたりしている。

 雅則は最近は館を留守にすることが多いらしい。エドワール関連の何かに携わっているようだった。そして雅則がエドワールに出かけるときはリサを同行させている。

 スラーレン法国から連れてきた衛兵隊員のミシェールがエドワールの衛兵隊に入隊する話が進んでいて、スラーレン法国に除隊届を出しに行くことになった。その世話を雅則が引き受けた。


 ◇


 リンメイはコーネリアも美緒が牧場に連れて行っているので、館に居るときは朝食のあと、台所の片づけや家事をこなした。

 カリナから

「ごめんね。私も館には居るんだけど、家事は苦手なの」

と言われた。

「ううん。私には今はこれくらいしかみんなの役に立てないから。ほんとうに館に残っているのはカリナだけなんだ」

「うん。美緒さんはスミスコーポレーションの副会長で、スミス企業の全般の経営をみているし、悠介さんは自動車販売の営業所、雅則さんも無線機の開発をしたいそうなんだけど、宮殿やエドワールと行ったり来たり、忙しいみたい」

「無線機って何?」

「電気が使えるようになってから、遠くの場所に居る人と電話というもので話が出来るようになったんだけど、それは電話線が必要なんだけど、無線機は、声が空中飛ぶとか言っていたけど。今はまだ近くでないと会話が出来ないので、その開発をしているらしいの」

 カリナに説明されても、リンメイは理解出来なかった。

「でも今はそれどころじゃないみたい。スラーレンからまた知り合いを連れてきて、エドワールに連れて行ったんだけど、また何かありそうなの」

 リンメイは雅則がスラーレン法国とどう関わっているのか知らなかった。ただ国王がプロティナから魔王のヒュンケルに替わったことは知っている。


 ◇


 エドワールから戻ってきた雅則が館の会議で

「ライアンがエドワールにもSLを走らせたいと思っているらしく、相談されたからトレインのほうがいいんじゃないかと提案してきたんだが」

と悠介と美緒に言った。

 ライアンとはエドワールの新しい統治者で、雅則が推薦したとか聞いている。

「それ、テーマパークとかで園内を走っている乗り物だろう?」

 悠介が思い出したように雅則に言った。

「それがひらめいたので、つい口に出てしまった」

「しょうがない。俺が喜んで検討してやるよ」

 ライアンがエドワールにもSLを走らせたいらしかったようだが、雅則が煙の出ないトレインというものを提案したらしい。それを雅則と悠介が作るようだが、リンメイには理解出来なかった。


 悠介がカリナに

「キャンピングカーの改良は後回しで、つくってもらいたいものがある」

と言うと

「ごめんなさい。キャンピングカーも後回しにして別の自動車を設計しているの」

とカリナが言った。

「悠介さんがスポーツカーと言っていた速く走れる自動車」

「ほんとうにつくる気か?」

 悠介が驚いたような、あきれたような顔をしていた。

 美緒からも

「王宮側からの要望で、エドワールにも電気の明かりを作りたいから、スミス電力の力を借りたいって。それで私たちにいろいろ相談にのって欲しいんだって」

と話が出た。

「マジ、忙しくなりそう」

 雅則がためいきをついていた。


 ◇


 リンメイはエドワールの冒険者協会に出かけ、カラナに

「アリシクル駅までの警護も引き受けていいわ」

と言った。

「じゃあ、来月の予定ですけど・・」

 予定表をもらった。

「検討してくるわ」

 館に戻ると、雅則はスラーレン法国に飛行船で出かけたらしいことを知った。

 悠介に

「仕事を請け負ってきたんですけど、エランデル国の宿を悠介さんにとってもらえとハーロックさんから・・」

と相談した。

「わかった。任せておけ」

 そして仕事に出かける前日、リンメイは悠介から

「エランデルの飯店『ハナ』を予約しておいたぞ」

と言われた。

「ハーロックさんは忙しそうですけど・・」

「ああ、エドワールの領事館とか行き来しているからな。雅も忙しくなってきたようだ」

「統治者のライアン子爵とも仲がいいみたいですけど・・」

「聞きたいなら話してもいいよ。俺は雅ほど面倒くさがり屋じゃないから」

 ワリキュール王国とエランデル国を鉄道で結ぶために、その中間に新しくつくられた新街・エドワール。最初の統治者だったガルファード男爵はサーベルハンターという裏組織もつくり資金稼ぎをしていた。

 そのガルファードが倒され、ライアンが新しい統治者になった。その裏では雅則も動いていた。そしてスミス電力でライアンと一緒に働いていたミリアとユリカもエドワールに移った。

 ライアンも好奇心旺盛で、エドワールにSLを走らせたり、電気の明かりを灯したりという計画を考えていたらしい。

 そして雅則はスラーレン法国で親しくなったミシェールの世話もやいているらしい。

 リンメイは雅則やエドワールとの関連も理解出来るようになっていった。


「魔王ヒュンケルについても教えてもらえますか?」

「よくはわからないけど、スラーレン法国近くの廃墟になった城に住んでいたらしい。スラーレン法国だけでなく、ヒュンケルたちもマルケドーラ帝国の進攻の対象になったため、抵抗したらしい。雅がマルケドーラ帝国を潰し、ヒュンケルをスラーレン法国の国王にしたという流れだ」

 リンメイは悠介の話に、ただ驚くばかりだった。


 話を聞いたリンメイは、館の住人たちの関係もわかってきて馴染めそうに思った。そして雅則がワリキュール宮殿のハンス侯爵やエドワールの領事館に居るライアンとも対等に接していることにあらためて驚いた。


















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