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2-4.仲間

 館にまた新しい同居人が増えるようだ。リンメイは雅則たちが何をしているのかよくわかっていない。

 翌朝、部屋のドアがノックされて

「どうぞ」

と言うと雅則が入ってきた。

「体はどうだ?」

「もう大丈夫です。今日は起きられます」

「無理するな。これから一緒に暮らしてくれるんだろう?」

 雅則に言われて

「いいんですか? ほんとうに」

とリンメイは聞き返した。

「もちろんだ。リンメイの強さはわかっているから頼りに出来る。朝食が出来たら、また持ってくる」

「いえ・・もう起きられるから」

 リンメイは雅則の気遣いに思わず言った。

「そうか。じゃあ下で待っている」

 雅則が部屋を出て行くと、雅則にそうこたえたものの、下に降りて行ってみんなに顔を合わせるのが恥ずかしい気がしてきた。

 ベッドからは起きられるようにはなったが、まだ歩くのがやっとだった。誰が用意してくれたのか、新しい衣装が置かれてあった。リンメイはそれを着て二階から下りていった。


 リビングやダイニングルームは賑やかだった。

「悠介、ソアラを営業所で使ってやったら?」

「使えるかな? 世間知らずのお嬢さんタイプだけど」

「それとも美緒ちゃんにチーズつくりかワインつくりを教えてもらおうか」

「そっちのほうがいいんじゃないか?」

「俺は何をすればいい?」

「電力会社で働いてもらおうか」

「電柱用の木材を伐採しているんだが、山に魔物が出る場合があるから出てきた魔物を退治する仕事だ。以前はスラーレンの衛兵隊魔法戦士だったミリアとユリカが居たけど、今はエドワールに行ってしまって、代わりに冒険者を雇っているらしい」

「なら、私がスミスさんにジルとソアラを紹介して、それぞれ電力会社と牧場で働いてもらうわ」

「何でもいいけど、そこって何をするところ?」

「ジルも電気は知らないか。例えば、この館の明かりも電気で灯している」


 雅則たちが住人たちと気軽に会話をしている。

 リンメイは現在、館に何人が住んでいて、何をしているのか全く理解出来ていない。

 リンメイが下りてきたのを知ったソリアが

「リンメイさん、もう起きられるの?」

と声をかけてくれた。

「さ、こっちに来て座って」

 座るところを用意してくれた。ソリアの隣だ。

 リンメイは一緒に食べてくれるソリアも、声をかけてくれない他の住人も、自分に気遣ってくれているように感じた。

 食事を済ませると、みんなそれぞれの仕事に出かかていった。雅則も食事を済ませると自分の部屋に戻った。ソリアだけが冒険者協会に出かける前に

「行ってくるわね」

とリンメイに声をかけてくれた。

 そしてソリアが冒険者協会に出かけるときも、美緒が牧場方面に出かけるときも、自動車なる自力で動く乗り物に乗って出かけて行く。リンメイが負傷して駅からナターシャの居る教会に向かったときも、悠介が作ったらしい自動車に乗せられた。


「カリナ。コーネリア一人で片付け大変だから設計の仕事の前に台所手伝って」

 悠介がカリナに声をかけていた。

「一人で大丈夫です」

 コーネリアが悠介に言った。

「まったく、みんな料理もコーネリアに任せているんだから、片付けぐらいしていってね。俺も同じか」

 それを聞いたリンメイが

「私、手伝います」

と立ち上がった。

「リンメイは身体を治すことに専念して。出血が酷かったらしいから、この世界では病院も無いし、輸血も出来ないんだろう? 雅が必死だったよ」

 リンメイは悠介の言うことがよく理解出来なかったが、雅則ハーロックが心配してくれたのはわかった。

「リンメイは俺も美緒ちゃんも心配しているからな。リンメイと雅のなれそめ、違う、いきさつはよくわからないけど、仲間になるんだろう?」

 悠介が親しげに話しかけてくれた。

「私のことをハーロック・・さんから聞いてないんですか?」

「あいつはずぼらで面倒くさがりやだから、いちいち話をするのを嫌うんだ」

 リンメイはエランデル国で初めて悠介に声をかけられてから、悠介に好意は感じられなかったが、今は思っていたより良い男のように思える。悠介が教会のナターシャのところまでキャンピングカーなる自動車で運んでくれたのもわかっている。

「ほんとうに私が仲間になっていいなら・・ここの住人について教えてもらえますか?」

「そうだな。じゃあ俺から話すか」

 悠介がリンメイに話してくれた。

「俺と雅則、美緒は異世界から来た人族だ」

「異世界から?・・それは何処ですか?」

「ああ、この世界とは別の世界。俺達も信じられなかったけどね。俺たちのことや、この世界に転移してきた説明をすると長くなるから省くけど、雅則はエランデル国で伯爵の爵位をもらってハーロックを名乗るようになった。三人ともエランデル国のギルド協会の魔力検査でレベル500はあるとわかった」

「レベル500?・・」

 雅則たちが只者ではないことはうすうす感じていた。しかしレベルが500あるらしいことにはもっと驚いた。

「異世界の人だからですか?」

「それはわからないけど。この世界に来てとてつもない力があることがわかった。俺たちも信じられなかった。だが、その力は発揮して本物だと確信している。

 ジルも異世界から召喚されてきたが、俺たちとは別の世界だ。ソアラはアリオン神国から来た女神らしい。ソリアとカリナはこの世界の人族。リンメイを治してくれた教会に居るナターシャはスラーレンから来た結界魔法士。以前はここにも住んでいたこともある。

 コーネリアはセキュバス。リサとイビルは魔族。知らない者はここで紹介しなくていいだろう。その他、ここに住んで他に出て行った者も何人か居る。こんなところかな?」

「どうしていろんな種族と住んでいるんですか?」

「まあ、成り行きかな? はじめからそうするつもりはなかったし、ただこの世界は人間、いや人族以外にいろんな種族がいる。雅は種族を超えて共存出来るのがいいと考えている。こうして一緒に暮らしてみると、種族などどうでもいいと思うように俺もなった。一緒だと楽しい」

「なんとなくわかってきました」

「リンメイには家族はいないのか?」

 悠介に聞かれてリンメイは返事に困った。

「まあ、いろいろあったんだろう。雅がリンメイを誰よりも心配していたから」

「どうしてですか?」

「きっとリンメイが自分と似ていると感じたんじゃないかな」

「似ている?」

「雅は元の世界ではいじめられっ子だったらしい。見た目も強そうに見えないし。リンメイがシルビアのもとでエランデルに探りに行ったり、セキュバスのコーネリアを襲ったり・・でも、その後はナターシャやコーネリアを助けたりしてくれた。雅はそんなリンメイに思うところがあったんだろう」

「私を理解しようとしてくれた?」

「さあな」

「それと電気とか自動車とか・・」

「ああ、みんな俺が設計・開発した。SLもね」

「そんなことが出来るんですか?」

 リンメイは信じられずに声を上げてしまった。

「魔法じゃないよ。物理や化学の知識があれば誰でも作れる。この世界の人間、いや人族は魔法に頼ってそういうものを学ばないようだ」

「異世界の人族だから出来るんですか?」

「そうかも。俺もよくわかっていない。ただ・・俺たちがSLや電気、自動車を開発しながら思っていることがある。この世界で、こんなことをしていいのかと」

 リンメイは、悠介が本当はいい人族じゃないかと思うようになっていた。

「今、館に残っているのは?」

「俺とカリナとコーネリア。それに雅、ハーロックだ。雅はリンメイに気遣って近づかないんだと思うよ。俺より社交性はないから」


 ◇


 数日後にはリンメイは結構動けるようになった。

 料理は作ったことがないが、食事の後の片づけを手伝った。

 リンメイは雅則に

「身体を治療してくれたナターシャに礼を言いにいこう。これからも世話になるかも知れないし」

と言われた。

「あのう。・・館に居る住人については悠介さんから聞きました。ハーロック様たちが異世界から来たことも。ハーロックというのはこっちの世界での呼び名らしいですけど、ハーロック様のことを何と呼んだらいいですか?」

 リンメイは雅則に確認しようとした。

「そうだな。・・本名は照れくさいからハーロックで通している。それにエランデルで伯爵の爵位をもらったが、貴族になるつもりはない。『様』を付けられるものこそばゆい。だからリンメイも気軽にハーロックと呼んでくれていい」

「・・わかりました」

「コーネリアもナターシャへのお土産のチーズケーキを作ってくれた。だからコーネリアも連れて行く」

 雅則が悠介から自動車を借りて、コーネリアも連れて教会に向かった。リンメイは自動車に乗って教会に向かいながら、自力で走る自動車に

「これ、悠介さんが作ったんですよね」

と雅則に聞いた。

「うん。大学でちゃんと勉強していたみたいだ」

 リンメイの知らない語句がまた雅則から発せられた。


 教会は人々で賑わっていた。

「あ、ハーロックさん」

 ルナが雅則を見つけてやってきた。リンメイはまだルナを知らないでいた。

「すごい人だね」

「ほとんどナターシャ様に診て欲しい人たちです」

「この世界には医者はいないから、ナターシャは繁盛だな」

「夜はぐっすり眠れるそうです」

「それ疲れが溜まっているんだろう。休む日もあるんだろう?」

「いえ、毎日頼ってきていますから」

「週に1日は休まないと。そういえば、この世界には曜日とかないのか」

 雅則が

「今日はリンメイがナターシャの世話になったのでお礼に来たんだが・・これ、コーネリアが作ったチーズケーキ、ナターシャと食べて。悪いから今日はナターシャに会わずに帰るけど、あとで休みを取って館に来るように言ってくれる?」

とルナにチーズケーキを渡した。

「ありがとうございます。なかなかお店にも買いに行けなくて。それと、館には大きなお風呂がありましたよね」

「ああ、あるけど」

「入りに行っていいですか?」

「え? いつでもいいけど。館はホテルか」

「教会にもお風呂はあるんですけど、小さくて、館のような大きなお風呂に入りたいなと思って」

「いつでもおいで」

 そう言って雅則はリンメイとコーネリアを自動車に乗せた。


 教会から戻るとき

「たまにドライブもいいだろう? 『マキバ』にも寄っていくか」

と雅則がコーネリアに聞いた。

「はい」

 コーネリアは嬉しそうに返事した。

 リンメイは雅則とコーネリアの笑顔を見て、暖かいものを感じた。リンメイは一人っ子で、両親も亡くなり、今は天涯孤独の身になった。雅則の館で過ごしているうちに、仲間がいることの喜びを感じるようになった。


 リンメイもチーズの店『マキバ』の存在は知っているが、店の中に入ったことがない。

 リンメイが雅則とコーネリアの後から店に入っていくと

「こんにちは・・え?」

 スレーンに驚かれた。

「これからリンメイも俺たちと住むからよろしく」

 雅則がスレーンに言った。

「もう驚くのには慣れてきたけど、驚いていい?」

「スレーンの店長も板についているね」

「冒険者はずっと休業しているので」

 スレーンが

「コーネリアちゃん。お客さんの要望なんだけど、新しいケーキを考えてもらえないかな」

とコーネリアに頼んだ。

「いいですよ」

「じゃあ、あとで相談に行くから」


 『マキバ』を出ると雅則が

「リンメイにはワイン工場とか他にも教えたいところがあるけど、今日は館に戻ろう。まだ無理をしないほうがいいから。チーズやバター、それにワインは美緒が作ったんだ」

とリンメイに言った。リンメイは

「電気やSL、自動車は悠介さんが作ったと言ってました。ハーロック様たちはどうしてそのようなものをつくれるんですか、異世界の人族だからですか?」

とあらためて聞いた。すると

「異世界の者だからといって誰でも作れるわけじゃない。それなりに勉強したから、知識があるだけだ。この世界には学校も無く、知識を学ぶ場所もない。生活の不便さは魔法に頼っている印象だ」

と雅則はこたえた。

 リンメイは、雅則たちの異世界に興味が湧いて来た。そして雅則や悠介の人柄にも悪くない印象を受ける思いがした。


「ハーロック様・・いえハーロックさん。館に戻ったらお風呂に入っていいですか?」

「え?」

 傷が癒えた後、リンメイはソリアからお風呂に誘われたことがあるが、その館の浴場の大きさに驚いた。

「教会の彼女ルナが入りたいと言ったので、わかるような気がして。館のようなお風呂は大飯店にもないと思います」

「そうなんだ。そういえば大飯店には泊まったことがないな。いいよ。自由に入って。もしかして俺と入りたいとか?」

「そんなことは言ってません」

 リンメイは無意識に拒否した。


 ◇


 リンメイは館に戻ると一人でお風呂に入って身も心も癒した。

 リンメイは湯に浸かりながら、ソリアにこの浴室に誘われた時のことを思い出していた。

「リンメイさん、体はもういいの?」

「ええ、歩くことぐらいなら・・」

「一緒にお風呂に入らない?」

「え?」

 リンメイはソリアにお風呂に誘われた。浴室は見たことの無い大きさだった。一度に何十人も入れるようなお風呂だった。

「この館は、もともとは牧場のスミスさんが建てたものなんだけど、ハーロックさんたちが牧場近くに棲みついたオーグを倒したお礼にもらった館なの。私もこんな大きな館に住みたくなって、ハーロックさんにお願いしたの」

「そうだったの」

「でも驚いちゃった。ハーロックさんたちは、魔族やセキュバスまでも一緒に住まわせちゃうんだもの。ハーロックさんは、人族や魔族や種族にこだわらずに共存を望んでいるようだけど、最初は信じられなかった。でも・・一緒に住み始めると楽しいの。コーネリアは料理が好きだし、イビルは面白いし」

「ハーロック・・さんたちが異世界の人族だから成せること?・・」

「わからないけど。・・私はまだハーロックさんたちが異世界から来たとは信じられなくもあるし・・だけど強いのは間違いないわ。実際、オーグも倒しているし」

 リンメイもこれからここで暮らすようになる。雅則たちが勧めてくれた。スラーレンでは考えられない暮らしだ。スラーレンに戻りたい気持ちは薄れている。





























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