2-2.リンメイ負傷
冒険者の中ではSクラス(エランデルのギルド協会の判定だが)のリンメイは、比較的危険な仕事を請け負っている。そのほうが報酬も高い。
エドワールの冒険者協会は冒険者の魔法検査どころか、レベルも判らずクラス分けも出来ない。新米の協会のようなものだ。だから仕事は冒険者が自分で選ぶ。命を落とす冒険者も多い。
エドワールの冒険者協会のクエストボードの、あるクエストがリンメイの目に止まった。
ワリキュールのワルコット駅からエドワールにSL列車が走っているが、ときどき客車と穀物を載せた貨物車が繋がれるときもある。この穀物を狙って魔獣が襲ってくる可能性があった。
列車は貨物車を連結していなくても魔獣などに襲われることもあるから、冒険者が護衛に乗り込んで報酬を受ける仕事も毎日あるが、貨物車が繋がれるときは報酬が高い。それだけ危険も伴うらしい。
リンメイがワルコット駅からエドワールの駅まで走るSL列車の警護に就いた日、同じ列車に雅則とコーネリアも乗り込んでいた。しかしリンメイはそれに気づかずにいた。
雅則がスラーレン法国に行ったとき、衛兵隊のミリアやミシェールと知り合いになった。
ミリアは訳あって今はエドワールで衛兵隊をしている。雅則がスラーレン法国で世話になったミシェールを、ミリアが居るエドワールに連れて行くところだった。そのいきさつについては、リンメイは知る由もない。
列車がワルコット駅を出発する前に車内アナウンスがあった。
「最近、SL列車の近くに魔物が近づくことがあります。エドワールに近づいたら、列車の窓は閉めてください」
こういうアナウンスはいつものことで、リンメイは聞き流している。だが雅則はそれを聞いて
「楽しい旅になりそうだ」
とコーネリアとミシェールに言った。
コーネリアは笑顔になった。雅則の強さを知っているからだ。
だがミシェールは
「魔物が近づくって?」
と不安そうな顔をした。
「ワリキュールの街は結界が張られているから魔物は近づけない。でもSL列車は結界が張られていないところを走るから魔獣とかに襲われることがある。だから列車には警護に冒険者が乗っていたり、窓も壊れにくいガラスを採用しているんだ」
雅則がミシェールに説明した。
「・・そ、そうなんだ」
◇
列車がエドワールに近づいていくと
「敵感知発動」
コーネリアが何かが迫ってくるのを感知した。
「もう魔物が現れるのか?」
雅則もSLに近づく群れを発見した。
「狼魔獣のようだな。足は速そうな魔獣だ」
「魔獣って、列車を襲ってくるのか?」
とミシェールが聞いた。
「列車を守るために冒険者を雇って警護させているし、そう心配しなくていい」
狼魔獣がSLに近づいてくると車掌が
「魔獣が近づいています。窓を閉めてください」
と列車内を知らせて回った。
「冒険者の活躍を見てみるか」
雅則はミシェールとコーネリアも連れて来ているので、狼魔獣は冒険者に任せようと思った。
リンメイは客車の一番後ろに車両に乗っていた。魔獣が狙うのは人族より穀物だろうと思っている。
そして狼魔獣が近づいてくるのはリンメイも確認していた。
狼魔獣は攻撃魔法は出せない。しかし力はある。体当たりされれば列車が脱線する危険もある。
冒険者はリンメイ以外にも乗っているが、魔獣に対し攻撃魔法を放っている冒険者はそう多くない。力量のない冒険者を雇っても意味がないとは思うが、協会は冒険者のレベルは見れないし、誰でも雇っている。
「機関車が襲われている!」
と声がした。
客車は鉄分を含んだ窓ガラスで覆われているが、機関車には窓すらない。
「機関手が危ない」
リンメイは後方から先頭の車両の客車に向かった。
すると雅則とコーネリアも乗っているのを発見した。
「ハーロック・・」
「リンメイ」
雅則もリンメイを確認した。
「機関手を助けないと」
リンメイは雅則にそう言って前の車両に向かった。
車掌が
「今日はいつもより沢山で襲ってきている。一番後ろに穀物などやつらの食料になるものを載せているから」
と誰ともなく言った。
「それでリンメイは列車の警護をしていたのか。ローウルフは列車を止めて食料を奪うつもりだ」
雅則もコーネリアとミシェールに
「前の車両に行くよ」
と連れ出した。
機関車のあとの一番前の客車にやってきたリンメイは襲って来る狼魔獣に火星魔法を発したが、数が多くて効き目が薄い。だが他に頼りになる冒険者はいないようだ。
リンメイは機関手を守るために機関車に飛び移った。が、狼魔獣がリンメイに飛び掛かってきた。
一瞬だった。リンメイはわき腹に痛みを感じた。魔獣の爪が食い込んだようだ。以前に狼魔獣を倒したことがあるリンメイは油断した。
魔獣は口を大きく開けてリンメイに嚙みつこうとした。電撃を浴びせようと思ったが、力が出ない。
「ここで殺られる?・・」
そう思った瞬間、狼魔獣がリンメイから離れた。雅則の指弾で倒れたようだ。
魔獣たちがいなくなると、雅則が機関車に乗り移ってきた。そして機関手たちに
「怪我は・・」
と聞いていた。
「大丈夫です。でも冒険者が・・」
リンメイは動けず床に横たわっていた。
「大丈夫か」
雅則の声にリンメイは起き上がろうとして体に痛みを覚えた。腕やわき腹から出血していた。
「動くな。出血する」
雅則に言われた。
機関手が
「また襲ってきます」
と叫んだ。
「次の集団か。襲って来る前に片付けるか」
雅則は近づく狼魔獣たちに「散弾攻撃」を放った。
エネルギー弾が炸裂し、ローウルフたちの体内に突き刺さると、ローウルフたちの体を破壊した。
リンメイは雅則が上位魔術師だとは思っているが、雅則の攻撃魔法を見て、あらためてその強さを知った。
列車がエドワールに着くと、リンメイは駅の救護室に運ばれた。
痛みは耐えられるが、動くと出血する。
雅則がコーネリアを連れてきて
「コーネリア。リンメイを治してやる気はないか」
と聞いていた。
リンメイはコーネリアを襲ったこともある。コーネリアからすればリンメイは助けるような相手ではない。そして雅則はコーネリアに治癒魔法を強要しなかった。
リンメイは
「大丈夫です。致命傷じゃないから。それに・・私はコーネリアを襲ったし」
と手当をしてもらうのを拒んだ。助けてもらう相手ではない。
だが
「コーネリアを助けてくれたこともあった」
と雅則が言ってくれた。
コーネリアはリンメイに手をかざして治癒魔法を施した。
コーネリアが私に?・・。助けてくれようとしている。
「力はあまりないので傷口を塞ぐ程度ですけど」
コーネリアが雅則にすまなそうに言った。
「ありがとう」
雅則がコーネリアに礼を言った。
「どうして私のために・・」
リンメイの疑問に
「さあな。・・ほうっておけなかった」
と雅則はこたえた。
リンメイは領事館に運ばれた。どうして優遇されるのか。リンメイにはわからなかった。
「そういうわけだから、リンメイの面倒を見て欲しい」
と雅則がライアンに頼んでいた。
「リンメイは冒険者として働いてくれていると聞いています。承知しました」
雅則がエドワールの統治者であるライアンと?・・リンメイはまた雅則に驚かされた。
この世界に医者はいない。病気や怪我は自分の免疫力や魔法に頼っている。傷口はコーネリアに塞いでもらったが、これで助かるとは限らない。
リンメイは大量出血は免れたものの、予断は許されない体だった。痛みはあるし、寒気もしてきた。熱が上がっていった。今は身動きさえままならない状況だった。
リンメイは領事館に運ばれてからのことは分からないでいた。自分の怪我と闘っていた。
リンメイを寝かせた後、雅則は
「夕方には館に戻る予定だったが今日は帰れなくなった。リサも連れてくればよかった。悠介たちと連絡がつかない」
とリサを連れてこなかったことを後悔した。
だが、陽が落ちて窓を叩く者がいた。
「イビル」
「まさか領事館に居るとは思わなかったわ。街を回っていたら、ワルコット駅舎で列車が襲われた話を聞いたから、悠介さんに見に行ってくれないかと言われて・・」
「来てくれてありがとう。イビルは頼りになるな」
「褒めてくれる?」
「早速、悠介と話がしたい」
「わかった。館にはリサを待機させているから」
イビルとリサはオウムで話が出来るようにした。
雅則は悠介に乗っていた列車が狼魔獣に襲われた件を話した。
「リンメイは冒険者の仕事をしているのか」
「スラーレンに帰れないんだろう」
「でも、雅たちが無事なのが確認出来て安心した」
「俺もコーネリアも領事館で世話になっているから。ただ、この世界には医者はいない。魔法に頼っているからな。エドワールに治癒魔法を使える者がいるかもわからない」
「ワリキュールでも聞かないな。ナターシャが居るか」
「いいことを思い出してくれたな。今夜は様子を見てみる。また連絡するから」
雅則が悠介と交信を終えるとコーネリアが
「今夜は私が(リンメイを)看ますから」
と雅則に言った。
「じゃあコーネリアとイビルに任せるよ。イビル、今夜はお酒は抜きな」
「持ってきてないから安心して」
◇
そして翌朝、リンメイは高熱に襲われた。傷口はコーネリアに塞いでもらったが、痛みはあった。それより意識も朦朧としていた。
看病していたコーネリアがそれに気づき、雅則に報告した。隣の部屋に居た雅則がリンメイを見て
「破傷風かな」
と言った。
「何ですか、それは」
コーネリアは破傷風を知らない。
「この世界に医者はいないと言っていた。治癒魔法に頼るしかないか」
雅則も悩んだ。
イビルも
「私は治癒魔法は使えないし、他に使える者は知らないし」
と心配してくれた。
心配して早起きしたライアンに雅則が
「治癒魔法を使える者はいないかな」
と聞くと
「心当たりありません」
とライアンはこたえた。
「イビル、リサと連絡しあって、悠介に教会に行ってナターシャに治せるか確認してきてもらって」
「了解」
しばらくしてリサからイビルに連絡が入った。
「診てみないと何とも言えないらしいわ」
「じゃあ、朝のSLでリンメイをワリキュールに連れていこう。ワルコット駅に自動車を待たせて」
昨日、エランデル国から走ってきたSLがワリキュール国のワルコット駅に向けて出る。
雅則は、それにリンメイを乗せてワリキュールに戻り、ワルコット駅から悠介が用意する自動車でナターシャが居る教会に連れて行く手段を考えた。
リンメイは領事館から駅に運ばれると、そこからSL列車に乗せられた。
ワリキュールのワルコット駅に着くと、悠介が待っていた。
悠介はキャンピングカーに乗ってきた。そこにリンメイを寝かせて教会に急いだ。
「キャンピングカーをつくっておいてよかったな。救急車もつくるようか?」
「つくっても運びこむ病院はないぞ」
「そうだった」
リンメイは教会に運び込まれた。
「ナターシャ、診てくれ」
雅則がナターシャに頼んだ。
ナターシャは呪文を唱えてリンメイの治癒療法をはじめた。
するとリンメイは身体が熱くなるのを覚えた。
「あとは祈るしかないな」
雅則たちが心配してくれていた。
◇
リンメイの治癒療法をしていたナターシャが部屋に入って来て
「熱が下がり始めたので大丈夫だと思いますけど、私は彼女の体力を回復することは出来ません。体力を高めないと免疫力を高めることは出来ません」
と言った。
「ありがとう、ナターシャ。体力は俺が回復させる」
リンメイは館に連れて行ってもらい雅則たちに面倒をみてもらうことになった。
再びキャンピングカーで館に運ばれるとベッドに寝かされた。そして
「コーネリア、俺のライフをリンメイに分けてくれ」
と雅則がコーネリアに頼んだ。
コーネリアが雅則とリンメイの首にそれぞれ手を添えると、雅則の精気をリンメイに流した。リンメイは体力も落ちていたが、楽になるような気分になった。
「あとはリンメイの生命力次第だ」
「もし体力が回復して、またどこかに去ったらどうする?」
悠介に言われて
「そのときはそのときだ。リンメイをどうこうするつもりはない」
と雅則はこたえていた。
「しかし、なぜリンメイを助けた。倒したい相手だったんじゃないのか?」
「前はな」
雅則がどうしてリンメイを助けたか明快な回答はなかった。




