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第69話  救いの手


 アシュラが地下へと繋がる隠し階段を発見した。

 2レール四方程度と狭い入り口からは、冷気が流れ出ている。


 「奥は暗くて全然見えないな」


 この先に、何の罪もない子供や女性が捕まっている。

 彼の憶測の範疇ではあるものの、その可能性は高い。

 だが本当にそうだったら……

 この冷たく暗闇に包まれた空間というだけでも拷問そのものだ。


 「アシュラさん、落ち着いてくださいなのですぅ」


 「……ククル?」


 明かりになるものを探そうと焦るアシュラをククルが制止する。


 「ククルが出すのですぅ。――四元素・灯の炎――ちょやっ!」


 彼女が詠唱すると、掌から手のひらサイズの炎が現れた。

 それをアシュラの左掌へと移した。


 「加護付なので熱くないし、落としても消えないので安心なのですぅ」


 「これなら明るいし安心だ。ありがと、ククル」


 「お役に立てて嬉しいですぅ♪」


 アシュラは手渡された炎を暗闇に照らす。

 思いのほか地下は奥にあるらしく、それでも階段の先が見えなかった。


 「それじゃあ先を急ごう。2人とも後からついてきて」


 「「はい(ですぅ)」」


 アシュラを先頭に、フォルテュナ、ククルの順で階段を下りて行く。

 建物内にはひとり、失神した簀巻きの商人を残して。



 *****



 3人は暗闇の中、ひとつの炎を頼りに階段を進む。

 罠などは何も設置されていない。

 不審者の侵入は想定していないのか、罠らしいものは何もない。


 そしておよそ20レールは進んだであろうか、ようやく階段が終わる。

 だがそのには鉄の扉がアシュラ達の行く手を阻んでいた。


 「やっぱり錠前がついてるな」


 「どうするの? 扉ごと壊すと反対側に被害が出ちゃうし……」


 力ずくで破壊しようものなら、扉の向こう側に被害が出てしまう。

 もし捉えられている子供がいれば巻き込んでしまう可能性があった。

 フォルテュナはそれを懸念し、不安を口にした。

 だがアシュラには無用の心配だったようだ。


 「大丈夫だよフォル。俺には()()がある。まぁ見てて」


 彼が手にしているのは、黄金色の宝玉のついた双剣である。

 その剣先を頑丈そうな錠前に添える。


 「俺の声に応えろ……『雷塵』」


 彼の声に呼応するように、宝玉が輝きを放つ。

 接触部分からバチバチバチッと弾けるような音と共に、火花が散った。


 「よし、これで大丈夫だ」


 火花に驚き目を伏せていた2人が、アシュラの手元を覗き込む。

 すると、そこにあったはずの錠前が跡形もなくなくなっていた。


 「すごい……そんな使い方もあるのね」


 「ぶっつけ本番だけどな。うまくいって良かったよ」


 思い付きだったのを伝えると、双剣を手に持ったまま扉の押し込んだ。

 錆びついた鉄の擦れ合う音を響かせて扉が開く。

 開いた隙間から明かりらしい光が広がっていった。



 「「「………」」」



 その先に広がる光景に、3人は声を失った。


 視界に広がったのは、1000人は入ると思われる大きな広間。明かりは壁に据え付けられたランタンが数個点在しているのみ。蝋燭によって灯された火が小さく揺らめいていた。


 そして広い面積の床には、汚れ切ったボロ布に身を包んだ子供達が数十人。

 しかし、その子供達は誰ひとりとして、開かれた扉に反応しない。

 誰もが、全く動かずに倒れていたのである。


 「アシュラ……まさか皆……」


 絶望に襲われたフォルテュナが、声を震わせてアシュラに声を掛けた。

 だが彼は諦めてはいなかった。


 「気配があるって事は、生きてる証拠だ! フォル、片っ端から『癒しの光(ヒール)』を頼む!! ククルは魔法で水を出して!! 少しずつ飲ませるんだ!!」


 「は、はい!!」


 「お任せなのです!!」


 間に合わせ程度ではあるが、体力の回復と水分補給の指示を出す。

 当のアシュラには子供達を救う能力も水魔法もない。だからひとりひとり声を掛け、助けに来た事を伝えた。そうする事で希望を、死に抗う力を少しでも与えたかったのだ。


 (こんな時に何の役にも立てないなんて……くそっ!!)


 声を掛ける事は出来ても、手を差し伸べる事はできても、2人のように生命を繋ぎ止める為の術を持たない自分自身に憤りながら、ひとりひとり子供達を抱き抱えた。


 「しっかりしろ! 助けにきたからもう大丈夫だ!」


 「…………」


 「頑張れ! すぐここから出られるんだ!!」


 「…………」


 「頼む……生きてくれっ! 頼むから……っ!!」


 「…………」


 衰弱しているものの、まだ生命の灯は燃え尽きてはいない。

 アシュラの気配察知にはちゃんと反応を示しているのだ。

 だが子供達は誰ひとりとして反応してくれない。


 「アシュラ! 誰も目を覚ましてくれないわ!」


 「誰も水を飲んでくれません! 口に含ませるのが精一杯なのです!」


 そしてアシュラだけでなく、フォルテュナもククルも焦燥感を露わにする。

 依然として子供達の声が聞こえない。


 「なんで……どうしてっ!!」


 焦りは冷静な判断力を失わせる。

 3人はすでに動揺し、この後どうすべきかわからなくなっていた。


 だが、こんな時だからこそ、頼れる者がすぐ傍にいた。


 『アシュラ、落ち着け。私もここにいる事を忘れるなよ』


 《ったくよ、それで世界を救おうとか聞いて呆れるぜ》


 「カ、カーリー………クロ…………」


 そう。

 アシュラには心強い仲間がいるのだ。


 「俺は……どうすればいいんだ……これじゃ皆……」


 アシュラの目には、今にも零れそうな程に涙が溜まる。

 子供達を助けられない自分の無力さゆえに。

 戦う事でしか力を発揮できない自分の無能さゆえに。

 仲間がいなければ何もできない自分の価値の無さゆえに。


 そんな感情は、カーリーとクロにも直接伝わった。


 《まーた腐ってやがるな、兄弟。しっかりしろよ馬鹿野郎が》


 『ひとりでなんでも出来ると思うのはただの傲慢よ、アシュラ』


 「だったら俺はどうすればいいんだよ!!」


 いつもならカーリー達との会話は声に出さずとも成立する。

 だが完全に我を失っているアシュラは声に出していた。

 突然怒り出した彼に、回復に努めているフォルテュナとククルは驚いて手を止めてしまっていた。


 「アシュラ、どうしたの!?」


 「アシュラさん……大丈夫です?」


 「あ……あぁ、2人ともごめん……こっちの話だから」


 彼の様子に不安を覚えながらも、2人は救助に注力する。

 それこそが今彼女達の出来る精一杯だとわかっているから。


 『何やってるのよ、全く。まずは冷静になりなさい。それからじゃないと話にならないわ。こんな時に実体がないのが悔やまれるわね。あれば一発引っ叩いてやるんだけど』


 《違ぇねぇ。俺も同感だ》


 (……ごめん、もうどうすればいいのかわからなくて……)


 『まずは深呼吸! 冷静になったと判断するまでは何も教えないからね』


 (……わかったよ)


 アシュラはカーリーの言われた通り、落ち着く為に深呼吸を繰り返した。




更新予告を少し超えた上に、今話は中途半端に終わらせてしまいました。

次回はあまり間隔を空けずに22日に更新する予定です。


いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m

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