第66話 レオナルドの覚悟
「レオナルドさん、ルーナとセレーネを宜しくお願いします」
「おぅ、任せとけ!」
「3人とも気を付けて行ってらっしゃい!」
「ローナのことはまかせてね!」
装備を整えたアシュラ、フォルテュナ、ククルが紺碧の海亭を出発。
玄関口ではレオナルド、ルーナ、セレーネが見送りに出ていた。
「アウローナさん、結局顔出してくれなかったわね……」
風呂の件によって露骨に避けられてしまい、寂し気に呟くフォルテュナ。
そんな彼女に、アシュラがそっと耳元に顔を寄せて囁いた。
「フォル、受付の後ろにある扉を見てごらん」
「受付の後ろの扉? ………あ」
彼の言葉に従い、さり気なく受付に視線を向けると、扉の向こうに隠れたアウローナが顔を覗かせていた。彼女は大人になりかけの子供、多感なお年頃というやつである。3人を避けているのも、単純に恥ずかしいだけなのだ。
「帰ったら、ちゃんと仲直りしような」
「……うん。その為に、無事に帰ってこなきゃね」
フォルテュナは彼女に小さく手を振る。
まさか気づかれているとは思わなかったのだろう、アウローナはオロオロと挙動不審になりながらも、ほんの少しだけ手を振り返してくれた。
「もう、2人とも、早く出発するのですぅー!!」
2人だけでコソコソしているのが気に入らなかったククルが、頬を膨らませながら外へと向かっていく。
「あぁ、悪い。それじゃ行ってきますね」
「「「往ってらっしゃい!!」」」
「……行ってらっしゃい……」
こうしてアシュラ達は、晴れ渡る街道を港に向かって歩いていくのであった。
*****
「さて、こうして港に来てみたものの……」
「どう調査するつもりなの?」
「2人とも、まさか何も考えてなかった……です?」
「「…………」」
ククルの語尾に伸びがない。ちょっと苛ついてるようだ。
「もう、夜な夜なイチャイチャしてるからです!!」
「「……ごめんなさい」」
まさかの事態に、ククルがお冠である。
半分はやっかみも含まれているが、2人は何ひとつ反論出来なかった。
「今夜はククルも交ぜてくれたら許すのです!!」
「……ぷふっ、わかったわよククル」
「あぁ~~! フォルさん何が『ぷふっ』なのですぅ!?」
ククルの強かさに思わず含み笑いをするフォルテュナ。
だが、そんな和やかな雰囲気を醸し出す3人に対して、多忙を極める港の人々の視線は冷ややかなものである。
「……チッ、昼間からイチャコラしやがって……」
「何処かの貴族か? ガキの癖にいい気なもんだ」
「姐御の玩具にでもなりゃいいんだ……」
ボソボソと囁かれる妬み嫉みの言葉。
その中の、とある奴隷商の一言が3人の動きをピタリと止めた。
「フォル、ククル。今の聞こえたか?」
「えぇ。姐御の玩具に……ってやつよね?」
「ククルにもそう聞こえたのですぅ」
『姐御』と言われた人物に、3人の脳裏に思い浮かぶのはただひとり。
「……アグニ・イグナイトの事だよな」
「間違いないわね」
「あの商人を尾行してみるのですぅ?」
この港を行き交う商売人の殆どが、イグナイト商会と接点を持っている。だがその付き合いが浅い者もいれば、事情をよく知る者もいる。
だから3人は、無作為に動き回って周囲に怪しまれるよりも、確実に繋がりのある商人に目星をつけて話を聞き出そうと思ったのである。
無計画から始まった3人の調査行動は思わぬ形で功を奏したのであった。
*****
一方、紺碧の海亭。
アシュラ達が出発した後、遅い朝食をとったレオナルドとアウローナは宿内外の清掃を、狼姉妹は自室の清掃をしていた。
「すまんな、ルーナちゃん、セレーネちゃん。客なのに掃除させちまって」
アウローナの護衛を頼まれた狼姉妹は、さすがに暇を持て余していた為、レオナルドに掛け合い率先して掃除を始めたのである。
元々母子家庭で育っていた2人にとって、掃除は母の手伝いで日々こなしていたので、何一つ苦にしていなかったのだ。
「気にしなくていいよ、レオおじちゃん! セレーネ、お掃除得意だもん!」
「皆さんがお帰りになるまで何もしていないのは申し訳ないですし、これくらいさせていただけると私も嬉しいです」
まさかアウローナだけではなく、幼い姉妹にまで手伝わせてしまっている事に背徳感を感じていたレオナルドだが、嬉々として掃除をする2人を見ていたら、まるで娘が2人増えたような錯覚を覚えてしまっていた。
(こんな温もりのある家庭だったら、どんなに幸せだっただろうな……)
「……レオおじちゃん、どうしたの?」
感慨に耽っていたら、セレーネがふと顔を覗き込んできた。
レオナルドは慌てふためいて、うっすらと目に浮かべた涙を拭う。
「いや、ははは……娘が増えたようで嬉しくてな、つい」
「そうなんだー。でもきっと大丈夫だよ!」
「大丈夫って……何がだい?」
「オレおじちゃん、凄くいい人だから、新しいお嫁さんきてくれるよ!」
「ぶふうっ!?」
「セ、セレーネ!? 何言ってるの!? ごめんなさいレオおじさん……」
「アハハハハハ……」
セレーネの発言に驚いたルーナがバツが悪そうに謝罪する。
思わず吹き出してしまったレオナルドは、ただただ苦笑いするしかなかった。
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「さて、それじゃ俺はちょっと出掛けてくる。アウローナ、俺が戻るまではしっかり戸締りしておけよ。誰が来ても絶対に出ない事。わかったな」
「うん、大丈夫。気を付けて行ってきてね」
「レオおじさん、行ってらっしゃい!」
「ローナちゃんはセレーネがしっかり守るから、安心してね!」
宿の仕事を一通り終えたレオナルドは、3人を宿に残し港へと向かっていった。
いつもの食材の仕入れ。アウローナにはそう伝えてあった。
(いつもの事だが……この時ばかりは気が滅入るな)
食材を詰める大きな袋を背負いながら歩くその姿には、いつもの気丈夫さが全く感じられない。それどころか、親に突き放された子供のような、そんな哀愁さえ漂わせていた。
(もうこれ以上アウローナに心配を掛けたくはない……今日で最後にするんだ)
レオナルドは苦々しい表情を浮かべながら、ある決意を固めていた。
やがて交易港へと辿り着いた。
その足はそのまま市場へと向かわず、とある建物へと歩を進めていく。
(……アシュラ達はいない……な)
その巨躯を縮こませるように背を丸くし、周囲を警戒しながら歩く様は、いかにも怪しい大男そのものだが、それを怪しむ人は誰もいない。それがいつものレオナルドの姿だったのだ。
彼が目的の建物へと辿り着き、その扉を開こうとする。
すると、その上から艶めかしい声がレオナルドの耳に突き刺さった。
「あら、いらっしゃいレオ。どうしたの? こんな早くに」
色香を漂わせる女性の声。
だがその声には見えない棘がある。
「今日は言いたい事があってな」
背を丸くしたままで説得力に欠けるが、レオナルドは怯えている事をひた隠すように、声に張りを持たせてその声に抵抗した。
「あら奇遇ね。私も聞きたい事があるの。さっさといらっしゃい」
外気を拒絶するかのように、扉をピシャリと閉める音が響く。
それを見届けたレオナルドは、ひとり呟きながら建物の中へと入っていった。
「これで最後にしようぜ………姉御」
お待たせしてすみません。
なんだか常習的になって本当にごめんなさいなのです( ノД`)
2作品同時はちょっと無謀かなと思い始めてますが、始めた以上は責任を持って更新していきたいと思います。いや、思うじゃ弱いですよね……更新頑張ります!
……あ、改稿もしなきゃ(´;ω;`)
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




