第64話 誰が為に
「ククル、こうなった理由を説明してくれないか?」
「夕食を頼みに行っただけで、どうしてこうなったのか聞きたいわね」
アシュラとフォルテュナが、目の前に広がる光景を眺めながら呟いた。
2人仲良く抱き合って雑魚寝しているルーナとセレーネ。
酒瓶を抱いてこれまた雑魚寝しているレオナルド。
いそいそと食事の後片付けをしているアウローナ。
「後始末とお布団が準備できたらお話するのですぅ」
そしてククルは、アウローナの後片付けをせっせと手伝っている。
「ククル様はお客様なのですから、どうかくつろいでてください」
「そうはいかないのですぅ。こうなったのはククルの責任なのですぅ」
2人は気遣い合いつつ、手際よく部食器を片付け終えると、ルーナとセレーネをアシュラ達に抱えさせ、レオナルドを廊下へと弾き出し、人数分の布団を広げる。
最後に部屋の扉を背にアウローナが一言。
「皆様、お風呂は何時でもご利用できますので、ご自由にお使いください。それと……今夜は久しぶりに楽しい食事でした。ありがとうございました」
ぺこりとお辞儀し、部屋の引き戸が静かに閉まる。
また寝たままのレオナルドを引き摺る音が、次第に遠ざかっていった。
「それではルーナとセレーネをお布団で寝かせるのですぅ」
アシュラ達が抱えていたルーナとセレーネを、ひとつの布団に寝かせる。すると2人は吸い寄せられるように、再び抱き合いながらスヤスヤと寝息を立てていた。
ククルが幸せそうな2人にそっと布団を掛けると、隣り合って座っていたアシュラとフォルテュナに提案を申し入れる。
「あの……折角ですから、場所を変えてお話したいのですぅ」
*****
「……どうしてこうなったんだろう」
「ナイスアイデアね、ククル」
3人が移動したのは、いつでも利用を許可されたお風呂である。
レオナルドも酔い潰れているし、アウローナも暫くは片付けで忙しい。
宿泊客もアシュラ達しかいないので、まず邪魔が入らない貸切状態なのだ。
疲れを癒しながらゆっくりできるというメリット付だ。
若干一名ほど、顔を真赤に染めて落ち着かない者もいるが。
広々とした湯舟に浸かり一息ついたところで、ククルが口を開いた。
「それでは簡単にお話するのです」
語尾を伸ばさないククルの本気モード発動。
これを見るのは初めてのアシュラとフォルテュナだが、ククルの本気度を窺える様子に、余計な口を挟む事はしなかった。
「夕食の支度をお願いした後、レオさんとアウローナさんに、ククル達の事情を説明したのです。端的には、この国の南端に位置する小さな集落を飛び出して、冒険者として旅を始めて、この街に来た……という事にしてあるのです」
端的に……というだけあってかなり端折った説明である。
勿論、2人も理解している。それであの状況になるとは考えられないのだ。
2人の様子を窺ったククルは、そのまま説明を再開した。
「ただ、旅の途中で盗賊からルーナ達を救い出した事、彼女達から事情を聞いた私達が奴隷商から話を聞き、場合によっては奴隷商と敵対する事、その後に転移門を使ってブラフマ狼国領へと向かう事もお話したのです。カーリーさんの事は話せないので、少し嘘を混ぜてしまいましたが……」
ククルは嘘に対して罪悪感を感じているのか、少し落ち込んだ。
長年アシュラを騙して生活していたのが影響しているのかもしれない。
「それを証明する為に、ルーナちゃんとセレーネちゃんの狼化を解くように指示したのはククルです。お2人に無断でルーナちゃん達の正体を明かしてしまい、本当にごめんなさいです」
ククルは湯舟から勢いよく立ち上がり、2人に深々と謝罪した。
少しの間、お湯が流れる音だけがその場を支配する。
その沈黙を最初に破ったのはフォルテュナだった。
「ククル、どうしてそんな独断で話を進めたの? アシュラが部屋で話を切り出した時、言葉で確認しなかったとはいえ彼のやり方に同意していたハズよね?」
「はいです。確かに最初はそれでいいと同意したのです。ですが、レオさんの目を見たアウローナさんの悲しそうな顔を見て、彼女の心にとても深くて暗い闇を落としていると思ったのです。そして厨房でギクシャクした2人を、そのまま放っておくという選択肢など持ち合わせていなかったのです。だからククル達がやろうとしている事を話す事で、レオさんもアウローナさんも危険に晒す真似はしないと、信じて貰いたくて……そしたら、お2人は厨房に戻って、一緒に食事すると言い始めて……その結果はアシュラさんとフォルさんが見た通りなのです」
フォルテュナは強烈なショックを受けていた。
確かにその現場には居合わせているから、レオナルドとアウローナのやり取りは見ていた。しかし、アシュラを信じて行動するという理念に拘り過ぎていた為に、2人の気持ちを軽視してしまっていた。
つまり、最も大切にしなければいけない感情を見落としていたのだ。
フォルテュナは目を瞑り、アウローナがレオナルドに掛けた言葉を思い出す。
『また私を置いてくの?』
大切な人が消息を絶った時の感情がそれに重なる。かけがえのない人が自分の手を離し遠くへ行ってしまう感覚が、胸の奥底から蘇る。眼尻から涙がじわりと浮いてきた。
「私ってば、私情に感けて大切な事を忘れてた……」
「フォルさんがアシュラさんを想う気持ちはわかります。それはそれでとても大切な事なのです。ですが、今は目の前で恐怖に怯えながら、毎日を過ごす親子がいるのです。母の無事を切実に願う姉妹がいるのです。私達だけが幸せになんてなれないのです。だから、だから……」
気持ちが高ぶったのか、ククルの目に涙が溜まっていく。
それが零れ落ちないように必死で堪えようとするが、瞬きすると同時に雫が頬を伝った。
「あっ……」
「ククル、迷惑掛けちゃってごめんね」
それを隠すように、フォルテュナがククルを抱き締めた。
「アシュラも、わかってるわよね? 私達がすべき事」
裸で抱き合う2人を見て赤面こそしているものの、アシュラも理解している。
「俺は母さんみたいになりたくて、慣れない駆け引きみたいな事ばかり考えて……でもそれは間違いだった。俺は母さんじゃない。俺は、いや俺達は3人でもっと親子の気持ちに、ルーナ達の気持ちに寄り添ってあげたい」
「そうね。ミテュラさんみたいに駆け引きなんて性分じゃないもんね」
「あぁ。母さんとは違う、俺達の精一杯のやり方で皆を助けよう!」
アシュラも抱き合う2人を包むように抱き締める。
「ありがとうな、ククル。俺もフォルも君に救われたよ」
「そ、そんな……ククルは思った事を伝えただけで……」
「これからも何か間違った事があったら、遠慮しないで言ってくれな」
「は、はい……なのですぅ」
ククルの語尾が元に戻った。
伝えたかった事を理解して貰えた事が嬉しかったのだろう。ずっと張り詰めていた心の緊張の糸が切れ、いつものククルに戻ったといったところだろう。
こうして3人は、一層絆を強めていった。
「……ねぇアシュラ? 私の背中に何か固いモノが当たってるんだけど」
「あ、あはは……申し訳ない、その……自己主張が激しくて……あはは」
「エッチなのですぅ~。でも、そんなアシュラさんも大好きですぅ」
フォルはアシュラの右頬に、ククルは左頬にキスをした。
実のところ、3人はすでにそれ以上の関係に進展しているのだが。
2人のアクションに興奮したアシュラは、2人を強く抱き締めた。
「あの、その……アレだ」
「アシュラ、言葉にしなくてもいいわよ……私達に任せて」
「まま、まだ不慣れですが、よよよろしくお願いしますですぅ!」
こうして3人は火照る肌を重ね合わせる。
はずだった。
ガララララララ!!
夜の大運動会が繰り広げられようとしたその瞬間、更衣室から温泉へと繋がる扉が勢いよく開いたのである。そしてそこに現れたのは……
「ふぅ、今日は久しぶりに疲れた~~~今夜はゆっくりと湯舟に…………」
厨房の仕事を終え、疲れを取りに来たアウローナだった。
ちなみに彼女は12歳。まだまだ色々と若さに満ち溢れている。
そして色々と発展途上の真っ最中である。
何一つ隠さずに温泉へと飛び込んできたアウローナは、すでに目の前の光景に硬直している。唯一の宿泊客であるアシュラ達が、裸で絡み合っているのだ。
アウローナももちろん、大人の男女がする事の知識は得ている。
そして互いがとるべき行動といえば……
「きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「アウローナさん叫ばないで! 頼むから叫ばないでえぇぇぇ!!!」
アシュラの願いは虚しく、アウローナの叫びに呼応しするように、酔い潰れて寝ていたはずのレオナルドが現れ、その場は混沌と化すのであった。
*****
『チッ、折角チチクリ合う3人を明るい場所で見れると思ったのに……』
(カーリー!? 静かだと思ったらそんな事考えてたのかっ!!?)
『当たり前だろ? 私だっていつかアシュラに精神的処女を……』
(それ全然意味わかんねぇから!! 頼むから静かにしてて!! あっ!?)
この直後、レオナルドの鋼の肉体から繰り出された投げ技によって、温泉に沈むアシュラであったとさ。
投稿がすっかり遅くなりました。
まぁ言い訳はしません、ホントごめんなさいですm(__)m
ちなみに新作を公開しました。
題名は『異世界もみほぐし紀行~神も認めた至高の癒しはいかがでしょうか~』です。
こちらも不定期ですが、評価次第では更新頻度が高くなるかも?
モチベはそれだけ大切なのですよ。ぬふふ。
リンクは後書き欄の下にありますので、閲覧いただけると嬉しいです。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




