第62話 首を突っ込むのは仕様です
「吹っ飛んだ扉は後で替えとくから、気にせず入ってくれ」
アシュラ一行は大柄な男性に先導されながら、受付のある入り口へと入る。
どうやら壊れているのは扉だけで、他は壊れているものはないようだ。
「ここが受付だ。おぃ、アウローナ!」
「お父さん……商会の人は帰ったの?」
おそらく15歳くらいと思われる女の子が、奥からおそるおそる出てきた。
お父さんと呼称している。どうやらこの男性の娘らしい。
「もう追っ払ったから安心してくれ。それよりもお客様連れてきたぞ」
「本当!? あ、いらっしゃいませ! 『紺碧の海亭』へようこそ!」
「「「いきなりですみません、お世話になります」」」
アシュラとフォルテュナとククルは口裏を合わせたかのように挨拶を交わす。
ぶっちゃけ、ようやく泊まれる処を見つけたので粗相のないように決めていた事だったりする。
アウローナと呼ばれた女の子は、満面の笑みを浮かべながらアシュラ達を迎え入れてくれた。
「それでは、宿帳にお名前をお願いします」
3人は手渡された宿帳に名前を記入する。
最後にククルが書き終え、彼女に返すと声に出して確認し始めた。
「アシュラ様、フォルト様、ククル様……あれ、ルーナ様とセレーネ様は?」
「御主人からこの狼達も大丈夫って……書かなくても良かったですぅ?」
名前を書いたのはククルだった。
ビーストテイマーという職業設定を律儀に守り、きっちり名前を記載したようだ。
「名前は3人で大丈夫ですよ。ルーナちゃん、セレーネちゃん、よろしくね」
ククルの両肩にちょっこりと乗っているルーナ達の頭を、アウローラは怖がる事もなく優しく撫でた。すると2匹は気持ち良さそうに、目を細めながら喉を鳴らした。
「あはは、可愛いですね。お部屋ではお手洗いだけお気をつけてくださいね」
「はぃ、ありがとうなのですぅ」
「それじゃご案内しますね、こちらへどうぞー」
こうしてアシュラ達は宿を確保する事ができた。
*****
アシュラ達が案内された部屋は、大人が6~7人寝られる程の広さ。
全面が板の間で、中央には足の短いテーブルと座椅子。部屋も調度品も古めかしいが、それが温かみのある雰囲気を感じさせている。
「後程、宿長から説明にあがります。それまでごゆっくりお寛ぎください」
アウローラは案内を終えると、部屋からそそくさと退出していった。
彼女の足音が遠ざかり、聞こえなくなった瞬間。
気が緩んだアシュラ達は、思い思いに次々と床に突っ伏していった。
「あぁ~~~~~~~……疲れた」
「アシュラ、この後ご主人が来るのよ……まだ気を緩めるのは早いわ」
「フォルさんこそ、床に張り付きそうなくらい弛緩してるですぅ」
「クウゥ~~ン……(眠たいです)」
「グルルル……クウゥン(お姉ちゃん……お腹空いたよぅ)」
皆、身体をピクリとも動かす事なく、口だけが器用に動いている。
今この瞬間に誰かが入ってきたら、凄惨な殺人現場に見えるかも知れない。
そしてそれは現実のものとなった。
「ボウズ共……じゃないお客様、待た……お待たせしましたああぁ!?」
出入口の引き戸が唐突に開き、主人が慣れない丁寧語で対応してきたのだ。
「わああぁ!? す、すみません大丈夫です生きてますごめんなさい!!」
油断していたアシュラは、瞬く間に起き上がり大慌てで謝罪する事となった。
*****
「ったく、心臓に悪いぜボウズ……じゃないお客様」
「すみません……それと畏まらずにお話ください。その方が合ってますよ?」
「そ、そうか? そう言って貰えると助かる。どうも接客は苦手でな」
主人は頭を掻きながら苦笑いする。
いかにも接客は駄目そうな感じだが、裏を返せば根が馬鹿正直というか、裏表のない性格なのだろう。
アシュラ達にとっては、それが逆に好感を持てた。
「この度は、突然の申し出に応じていただきありがとうございました。俺……私はアシュラと言います。隣にいるのがフォルト、その隣がククルです」
アシュラが紹介し、丁寧にお辞儀する。
「アシュラにフォルト、ククルだな。俺はこの民宿『紺碧の海亭』の主をしているレオナルド・アムルタート。長ったらしいから、レオと呼んでくれて構わん」
「わかりました、レオさん。改めて宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく頼む」
お互いが挨拶を終えると、早速レオから宿の説明が始まった。
「食事は朝、昼、晩の3食。必要ない時は、食材の無駄を省く為に、前日の夜までに申告して欲しい。布団は見ての通り部屋の隅に畳んであるから、思い思いに広げて使ってくれ。本当ならこちらで全てするんだが、いかんせん人手不足でな。そのぶん宿泊代は勉強するから頼む」
3人は黙って頷く。ルーナとセレーネも習って頷いた。
「ははは、賢い狼だな。庭に出る扉があるから、そこから外で遊ばせても構わん。狼の手洗いは庭先で済ませてくれ。説明はこんなもんだな。何かわからない事はあるか?」
「大丈夫ですけど……その、別の事でお聞きしたい事が……」
レオはアシュラ達が何を聞きたいのか、すぐに察したようだ。眼光が鋭くなり、口が真一文字になった。
「……余計な詮索は無用だ」
お家事情を、その場に出くわしただけの宿泊客に話す事など考えられない。身内であるならまだしも全くの赤の他人なのだから。アシュラに対するレオの反応は至極当然。
だがアシュラはここで爆弾を投入。レオの反応が一変する事となる。
「俺達は訳あってイグナイト商会会長アグニ・イグナイトと知り合いました」
「どういう事だ……まさか商会の新手か!?」
レオは立ち上がり、今にも追い出しそうな勢いで怒りを露わにする。
だがアシュラは勿論、フォルテュナもククルも真剣な眼差しでレオから目を離さず座っている。
「いいえ、違います。むしろ逆です」
「逆……だと?」
「そうです。俺達はアグニ・イグナイトと敵対します」
「商会長と敵対? このメリアスで? 随分とまた滑稽な人」
「滑稽? レオさんこそ、その滑稽な人のひとりじゃありませんか?」
「俺は……っ!」
レオが何かを言おうとした瞬間、部屋の扉が突然開かれた。
部屋にいる全員の視線を浴びたのは……
「お父さん、いつまで説明してる……の?」
レオの娘、アウローナだった。
「……お父さん、その目……」
アウローナが最初に気に掛けたのはアシュラ達ではなく、父親であるレオの目に宿った殺気だった。
レオは狼狽える娘を見て、冷や水を浴びる思いだった。
「アウローナ! 違うんだ!」
「何が違うの? また私を置いてくの?」
『また』という言葉に、アシュラは引っかかりを覚える。
民宿とはいえ、それなりの人数が宿泊できる宿に誰もお客がいない事。
黄金色のフードの男とのやり取り、そして従業員は親子2人だけ。
《アシュラ……ブラフマの事、さらにアグニの事……忘れてないよな?》
声が聞こえない事をいい事に、カーリーがアシュラに問い掛ける。
だがその答えはすでにわかっているような聞き方だ。
(あぁ、忘れてない。でも……この親子の抱えてる闇を放置できない)
アシュラの心はすでに決まっているようだった。
フォルテュナとククルも、会話は聞こえないものの、すでに暗黙の了解といった様子でアシュラを見ている。だがその視線は呆れたものではない。同じ考えを持つ者の視線だ。
《全く、どいつもこいつも……》
(悪い、どうしても見て見ぬふりなんてできないんだ)
《ま、今は文字通り一心同体だ。アグニも絡んでるみたいだし、文句はない》
(ありがとな。あとで思う存分匂い嗅がせてやるよ)
《本当だな!? 忘れるなよ!? 夜通し吸い込んでやるからな!!》
ひとり興奮に身悶えする(ように見える)カーリーを余所に、アシュラはレオとアウローナに決意を伝える事にした。
「レオさん。貴方が大切にしているこの宿、そしてアウローナさんを、俺達が守ります。だから、事情をお聞かせ願えませんか?」
文字通り、ギリギリ年内投稿出来ましたね(-_-;)
ちょっと問題を抱え過ぎてる状態ですが、アシュラならきっとまとめて解決してくれると信じています(笑)
何はともあれ、2019年はお世話になりました。
2020年も頑張って投稿していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
そして皆様が良いお年でありますように(-人-)
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




