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第57話  狼化

 「まさか部屋の外に露天風呂があるとは思わなかったなぁ」


 そんな一言を呟くのは、混沌とした宿部屋争いの中、見事ひとり部屋を手中に収めたアシュラである。


 あのままでは宿主のお婆ちゃんまで参戦し兼ねない状況になった為、お爺さんを説得した上で勝ち取った結果である。決して据え膳にヘタれたわけではない。


 という事で、屋外にあった部屋専用の露天風呂を見つけたアシュラは、今こうしてひとり湯舟に浸かっている。当然、乙女達に割り振られた部屋にも露天風呂は用意されている。


 ……もし、うっかり全員一部屋に纏められていたら、今度はお風呂騒動に巻き込まれていた。それこそ老夫婦まで一緒に。


 アシュラは色恋よりも平穏を選んだ自分を誇らしく感じていた。


 「アシュラ~、湯加減は大丈夫かしら?」

 「かしらー?」

 「ア、アシュラさんの裸体……エロイベントなのですぅ」

 「お。お邪魔しまぁす……」

 「なんで皆勢ぞろいしてるの!?」


 しかし彼を取り囲む者達は、平穏など与えてくれないのかもしれない。

 皆、部屋に用意された部屋着に身を包み、部屋と風呂を繋ぐ扉から顔を覗かせている。


 【厄災】の言い伝えはあながち嘘でもないと思い始めるアシュラであった。


 「私達に、ここにいちゃいけない理由なんて存在しないのよ」

 「それはそうだけど、せめて風呂くらいのんびりさせて?」


 フォルテュナは彼に対して基本的に遠慮など皆無である。

 ククルも同様思考だが、まだ若干遠慮気味だ。


 「ところでアシュラ、これからの事なんだけどね」

 「メリアスに入る方法を考えないとなのですぅ」

 「あのね、それ風呂出てからで全然遅くないよね?」


 子供が2人同伴してる事もあり、アシュラは変なイベントが起きないように2人を説き伏せ、風呂から出るまで待つように促した。


 「せめてお風呂くらい堪能させて欲しかった……」


 翌日出発前にもう一度入ろうと心に決めたのであった。



 *****



 「アシュラは、メリアスにどう入るつもりなの?」


 フォルテュナが開口一番、アシュラも悩んでいた問題を指摘してきた。


 「うっかりしてたけど、私達もお尋ね者じゃない? メリアスは主要都市のひとつ。国都と同様に入場審査があると考えるべきよ」


 フォルテュナの懸念はもっともだった。

 銀髪の人はアシュラ以外にも存在はするものの、その殆どは神族がこの世界に隠居した者達ばかり。すなわち、銀髪の若人となると、アシュラ以外にはいないのだ。


 「それは俺も考えてたんだけど、また黒くすれば何とかなるかなと」

 「それって、またクロの力を使うって事?」

 「うん。フォル達は気が進まないかも知れないけど、それが一番安全策だよ」


 最も目立つヒントさえ隠せれば、多くの人が行き交う都市の入り口で、そう時間を掛けて調べる事はしないだろうというのが、アシュラの見解だ。


 「装備品は収納石に入れとけば何とかなるでしょ?」

 「それはまぁそうだけど……まぁ仕方ない、わね」


 フォルテュナは神族としての矜持が強いのだろう。あまりクロの能力を快く思ってはいないが、目的の手段として今回は妥協したようだ。

 そこでククルが2人に割って入ってきた。


 「フォルさんばっかりズルいですぅ。ククルを仲間外れにしないで欲しいですぅ」

 「あ、うんごめんねククル」

 「もう……それでさっきのお話ですけど、ルーナ達はどうするのですぅ?」


 そう。最も重要なのはルーナとセレーネの存在。

 交易の場であるメリアスには奴隷も数多くいるが、それでも今回の騒ぎでこの2人は行方不明扱いなのである。奴隷商であるアグニがどう考えてるのかわからない以上、迂闊に2人を人目に晒すのは得策ではない。


 「それなんだけど……ルーナ」

 「何ですか? アシュラさん」


 アシュラはルーナを呼び寄せた。セレーネはルーナに抱っこされている。

 本当に仲の良い姉妹だと感心しつつ、アシュラは彼女に問い掛けた。


 「ルーナとセレーネは、その……獣化とかってまだ難しいよね?」


 獣化とは、獣人族特有の化身術である。

 つい先日アシュラとフォルテュナが『心意の門』で、カーリーと対話した際に見せた狼の姿。アシュラはそれを思い出し、一応聞くだけ聞いてみようと考えていた。


 《アシュラ、獣化は高度な化身術だ。まだ幼い2人にそれを求めるのは……》

 「はい、それならできますよ?」

 《出来るんかい!?》


 どうやら難度の高い術のようだが、ルーナは出来て当然のように返してきた。

 カーリーがツッコんできたが、残念ながらアシュラ以外には聞こえない。

 彼女の驚く様子から、アシュラはおそるおそるルーナに聞き返す。


 「知り合いの獣人族の人が、子供には難しいって聞いてたんだけど……」

 「狼化はおかあさんから習いました。万が一の時の護身術にって」

 「セレーネもできるんだよー!」


 《私が幼い頃に狼化なんて聞いた事もなかったのに、こんな子供が……》

 (カーリーはお姫様だったなら、温室育ちだったからじゃないか?)


 「「せーの、『狼化(メイクオーバー)』!」」


 ルーナとセレーネは声を合わせ言葉に魔力を込め、胸に手を当てながら『狼化』の術を行使した。

 すると白煙が2人の身体から発生し、変身姿を隠すように包み込んだ。ほぼ待ち時間もなく、その煙が水蒸気のように消える頃には、アシュラ達の前には狼……というより、ちんまりとした灰色の狼の子供がそこに佇んでいた。


 「がう、がうがうがうっ(見て見てアシュラ、すごいでしょ!!)」

 「ぐるるぅ、がうっ(セレーネ、この姿じゃ言葉が通じないのよ?)」


 2人はカーリーのように姿を変えて言葉を発する事は出来ないようだが、そのふさふさした尻尾は、褒めて欲しいと言わんばかりにブンブンと回転していた。


 しかし狼の子供姿に真っ先に反応したのはフォルテュナとククルだった。


 「「かわいい~~~~!!!!!」」


 フォルはルーナを、ククルはセレーネに瞬時に抱き上げた。

 2人に成すがままにされる狼少女達も、まんざらでもないらしく、2人の頬を舐めまくっていた。


 「凄いな……っていうか、普通に人の言葉は喋れないんだね」


 アシュラな素直に驚きつつも、狼少女に問い掛ける。


 「がうっ……くぅ~~ん(そうですね……って聞こえませんよね)」

 「いや、聞こえるよ」

 「わふっ!?(嘘!?)」


 ルーナが驚いて尻尾が逆立った。人の言葉を理解するのは人だけである事と同じ。狼の言葉もまた、狼にしか理解できないはずなのだ。


 (間違いなく、カーリーの影響なんだろうけどな)

 《私も同感だ。だが、理解してる事をどう言い訳するのだ?》

 (適当に誤魔化しとくよ)


 「ルーナもセレーネも、狼化すれば大丈夫だな。サイズ的にもうまく荷物に紛れ込ませれば大丈夫そうな気がするし」


 アシュラは「これならいいでしょ?」とフォルテュナに目配せする。

 フォルテュナもさすがにこれならと納得もできたようだ。


 「そうね、これなら見つかってもルーナとセレーネだとはわからないものね」


 こうしてアシュラは黒髪に、ルーナ達は狼化する事でメリアスの入場対策とした。


 ちなみに設定的に、アシュラを筆頭とした無所属冒険者パーティーとした。

 アシュラは剣士、フォルテュナは回復術士、ククルはテイマーで狼姿のルーナ達の世話役である。



 ~~~~~



 その後、夜のエロい展開に期待を寄せたカーリーだったが、そんな事など微塵もなかった。そもそも子供がいるのに無理があるとアシュラに窘められたのだ。


 《だったら、幼女姉妹がいなければアリだったんだな?》


 という言葉に動揺したアシュラが逆ギレするというオチがあった程度である。

 だがアシュラも二十歳の年頃の男なのだ。その心中は察して余りあるものとして理解していただきたい。


 翌日、一行は旅宿を後にした。


 宿主の老夫婦からは、孫でも見送るかのように、最後までアシュラ達に手を振って見送ってくれた。


 「さぁ、メリアスに向かおう! 皆、出発だっ!!」

 「もう、アシュラってば、リーダーは私なんだからねっ」


 いつものやり取りも、すでにこのパーティーの風物詩となっている。


 「いつかフォルさんみたいな親密な関係になるのですぅ」


 そしてククルの独り言もまた同様の風物詩だったりする。


 こうしてアシュラ一行にとって最初の試練となるメリアスへの旅が再開されたのであった。

 お読みいただいている皆様、この度は更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありませんでした。

 実の処、体調不良が続いたと同時に、ちょっとしたスランプに見舞われました。

 その為、暫く更新ペースを落とす事となりますのでご了承くださいm(__)m


 そしてこれを機に、初期から改稿をしていこうと思います。

 話のベースを変える事なく、不要な部分の削ぎ落しと、わかりにくい部分の追加を考えています。

 改稿話につきましては、タイトルの後ろに改稿表記していくので、改めて見て頂ければ幸いです。


 という事で、これからも「銀の勇者」をよろしくお願いいたしますm(__)m


 なお、次回更新につきましては、18日の深夜帯を予定しています。


 いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m

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