第55話 危険回避したハズなのに
「はぁ、ふっはふひようは!!」
アシュラは4人の女性(と幼女)の裸体を目に焼き付けた代償として、両頬にメイスと杖の直撃をくらい、見事なまでに頬を腫らせた。その結果、言い放つ言葉が全て“は行”になるという締まりの悪さである。
「だから私が仕切るからアシュラは大人しくしてなさい」
「……はい」
当然だが、ルーナとセレーネはそのままアシュラ達に同行する事になった。
しかし服装は荷馬車から拝借してきたもの。どれもフリルのあしらわれた煌びやかな高級貴族の子供服である。
さすがに馬での移動では目立ってしまう為、地味なフード付マントでその身を包んで誤魔化す事にした。
「こんなドレスみたいな服、初めて着ました……」
「アシュラ、セレーネ可愛い?」
ルーナは慣れない服装に緊張し、セレーネはアシュラにアピールする。
「2人とも凄く可愛いと思うよ」
「……ありがとうございます、アシュラさん」
「えへへ、アシュラだいすきー!」
幸せそうな2人の姿に、アシュラ達は安堵と不安の入り混じった感情を抱く。
「魔王を倒すのも重要だけど、こうしてルーナ達を見てるとさ……」
「助けられる命がたくさんあるわね。こうした積み重ねが最も大切よ」
「……世界人の強欲はある意味、魔王よりも質が悪いのですぅ」
改めて世界を救く事の大切さと重さを実感していた。
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「ところでアシュラ、近辺に通行人がいなかったのに、どうしてわざわざ森の中を抜けていくの?」
フォルテュナは森林地帯を抜けながらアシュラに問い掛ける。
「簡単な事だよ。俺達が通ってきた馬車道は、ほぼ一本道。その道のすぐ脇に、商人達の遺体や荷物の散乱した荷馬車がある事は、関係者だけじゃなく周囲の集落にも情報が伝わるよね。これから先、万が一誰かに情報を求められた時に、俺達は何も知りませんなんて言い訳が通じるとは思えないんだよね」
旅に慣れていないとはいえ、フォルテュナは警戒心が少し薄れていた事に気がつく。おそらくはアシュラが助けてくれるという安堵感の表れなのだが、それこそが長旅の慣れからくる油断。
フォルテュナは改めて気持ちを引き締めた。
「……そうよね。ルーナ達を助けられて、少し浮ついてたのかも」
「気持ちはわかるけどね。でもこの先何があるかわからないから気をつけよう」
一行はこれまで駆け抜けてきた道から大幅に迂回する事となった。
通ってきた馬車道から離れるように、森林地帯をゆっくり抜けていく。
本来であれば、ブラフマ狼国領へと急ぎたいが、その前にまず壁となるのがアグニ達、人族至上主義団体になると、アシュラは考えていた。
そしてそれを確認するように、カーリーにも考えを伝える。
(転移門のあるメリアスにアグニがいる段階で、確実に衝突する気がするよ)
《私はな、アグニがメリアスの市場を牛耳ってるんじゃないかと踏んでいる》
(あぁ、俺もその可能性を考えてるけど、その方が都合がいいんじゃないかな)
《都合がいい……とは?》
(ここで奴隷を奨励する商業団体と人族至上主義団体を潰せればいいなって)
《なるほど、故郷に戻る前に憂いを取り除ければベストって事ね》
『……すでに魔王を打倒するのか人族を打倒するのかわけわからんな』
クロが呆れるように横槍を入れるが……
(《汚物は消毒するもんだろ?》)
『俺もその汚物の一部なんだがね』
アシュラとカーリーの正義感の前では、クロの皮肉すら通じないのであった。
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一行が森林地帯を抜け、最初とは違う馬車道へと辿り着いた。
荷馬車を放置した道は、大陸南から北西へと続く道。だがアシュラ達は森林を抜け大きく迂回した事によって、大陸中央から西へと続く道に繋がる田舎道に出たのだ。
すなわち、迷いの大森林からではなく、国都ウラノスガイアからメリアスに向かうという体を整えた形になる。
実際には、カーリーの騎士団時代の知識に救われた危険回避作戦だ。
「カーリーさんには本当に助けられてばかりね……」
「カーリーさん……って……ブラフマの姫様の事……ですか?」
フォルテュナがうっかり口から滑り出た名に、ルーナが即座に反応する。
だがアシュラが動揺したフォルテュナに助け船を出して事なきを得た。
「この国の騎士団に所属するカーリーさんから教えて貰った知識なんだ」
「そ……そうでしたか、それじゃ姫様とは別人、ですよね」
「ん~女性といえば女性だけど、姫様が人族の騎士団にいるかな?」
「そうですよね……」
ルーナが寂しそうに苦笑する。
(もしかしたら姫様に助けを求めてるのかな……どう思う? 姫様?)
《私はもう姫でも何でもない。さっさと先を急げ》
ルーナ達にとってカーリーの存在がどういうものだったのか……いずれ聞いてみようと思うアシュラであった。
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メリアスに向かう途中で小さな村を見つけたアシュラ達は、ルーナとセレーネの体調を考慮し、この村で一泊する事にした。
幸いにも、迷惑料として回収した財貨のおかげで、村でもそれなりの旅宿に宿泊する事ができたのだ。
「いらっしゃいませ。お泊りは5名様でよろしかったですかな?」
「あら、可愛らしい女の子がたくさんね」
「まだ空き部屋は残ってますか?」
人の好さそうな老夫婦が出迎えてくれた。
アシュラはその老夫婦に受付してもらう事にした。
「1部屋でよろしいかな?」
「いや、1人部屋と4人部屋があれば……」
アシュラの言い分は正しい。男女を分けるのは現状では最善。
しかしこれに異を唱える者がいる。
「こここ恋人は同じへへ部屋でもいいわよね!?」
「フォルさんばっかり贔屓するのは看過できないのですぅ」
「やー!セレーネはアシュラと一緒がいいのー!!」
「セレーネ、わがまま言っちゃダメよ?」
「あらあら、皆本当に可愛いわねぇ。お婆ちゃんと一緒にどう?」
4者4様。唯一まともなルーナがアシュラの救いであろうか。
ちなみに一部別人が紛れているがスルーだ。
「6人用の大きな部屋が空いとるから、そこでよろしいかね」
「お爺さん、人の話聞いてました? 男女別で2部屋……」
「女子の我儘を受け入れるのが漢ってもんじゃよ?」
アシュラは混沌と化しつつある受付に宿の選択ミスを感じ始めるが、抜け出すにはすでに時すでに遅すぎた。
「いや、あの……幼女を受け入れるのは倫理的にどうかと……」
「漢なら黙ってその胸筋で女子の気持ちを受け止めるのじゃ!」
「あらやだ可愛い女の子を汚すなんてお婆ちゃん寂しいわぁ」
「ククルはルーナ達の世話役よ? そろそろ私だってアシュラに……」
「フォルさん、最近ククルの絡みが少ないのですぅ! ズルいのですぅ!」
「アシュラー! 早くいっしょに寝よーよー!!」
「セレーネ、お願いだから困らせないで……私だって……ごにょごにょ」
すでに収拾がつかない状況に、アシュラはドン引きしかなかった。
(これ……どうすればいいんだろうか?)
《ここはひとり部屋を選択するといい、夜は精神的に私と夜伽タイムだ!》
『俺は興味ねぇから寝てるわ』
外も内も落ち着けないアシュラであったとさ。
次回更新は11月10日 26時頃を予定しています。
あまり進みが良くなかったので連日投稿します。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




