第54話 出発前によくある風景
カーリーは過去、獣人としての誇りも尊厳も踏みにじられた。
それでもその強靭な精神力で彼女は生き続けてきた。
幼馴染だったアグニへの、そして理不尽な差別による暴力への復讐を糧にして。
アシュラもフォルテュナも、カーリーの気持ちを想い、自然と涙が零れていた。
《アシュラ、フォル、何を泣いている? 別に同情は必要ないぞ》
カーリーは気を削がれたのか、彼女は狼化を解除しいつもの姿に戻っている。
「……同情じゃない。これはその……俺はまだまだ甘いなって」
『そうね。私達は恵まれた生活の中で生きてきたから、精神的に脆弱よね』
《そうか? 私もすぐ感情的になるからな、決して強くはないと思うが……》
アシュラもフォルテュナも辛い境遇はあっても、カーリー程の地獄を味わった経験はない。もし自分が同じ立場だったら、彼女のように強く生きて行けるとは到底思えなかった。
そんなカーリーに対して、2人は心から敬慕の念を抱き、そして彼女の魂を救いたい、復讐の柵から解放しようと心に誓った。
《それより、そろそろ外に出なくていいのか? ほら、見てみな》
外の様子を映し出した空間を、カーリーは神妙な面持ちで見ている。
促された2人が、その空間を見たものは……
「アシュラー! フォルー! いちゃいちゃしちゃダメなのー!!」
「アシュラさーん、フォルさーん、もう無理ですぅーー!!」
ククルの追走を振り切り、突進してくるセレーネの姿が映っていた。
「これ、絶対に勢い殺さずに飛び込んでくるよ……な?」
『……その標的がアシュラか私かわからないけど、間違いないわね』
《向かってくる角度からしてアシュラだな……ぷっ、あっははは!》
幼女の突進に悶絶するアシュラを想像したカーリーが笑う。
そんな彼女の笑顔に、2人は愛おしさを感じた。
「カーリーは笑ってる顔が一番キレイに見えるよな」
《なっ!? そ、そんな恥ずかしい事をよく言えるな!?》
『私もアシュラと同意見よ。カーリーさんは笑顔がよく似合うわ』
《あぁもうわかったから、さっさと外に出ていけっ》
カーリーが顔を赤くしてそっぽを向く。本人的には照れ隠しのつもりだ。
「わかったよ。まだ話す事あったんだけど、外からでも話せるしね」
『カーリーさん、また会いましょう』
2人はカーリーに微笑みながら、精神の部屋からスッと姿を消した。
《本当にお人好しばっかりなんだから……でも、ありがとうね》
カーリーはすでに消えた空間でひとり呟いていた。
~~~~~
『心意の扉』を解除したアシュラとフォルテュナの意識は元に戻る。
そしてそのアシュラの目に映ったのは……
「アシュラーーーー!!!」
走ってきた勢いそのままに、頭からダイブしてきたセレーネの頭部だった。
「ぐふぉっ!?」
気持ちでは警戒していたとはいえ、流石に身体が反応するには一足遅かった。
セレーネの頭部は、それを掴もうとしたアシュラの両手をすり抜け、見事に鳩尾に直撃したのである。
「アシュラ! いちゃいちゃするのはあたしだけなのー!」
「セレーネちゃん……アシュラの顔を見てごらんなさい」
「ほえ?」
フォルテュナは内心「最近の子供ってマセてるわね……」とかちょっと思いつつ、セレーネに現状を理解させる事にした。
セレーネはフォルテュナの言われた通りにすると、そこには白目を剥いて口から涎を垂れ流すアシュラの顔があった。
「ア、アシュラしんでる!?」
「死んではいないけど……幼女の頭突きで撃沈っていうのも凄い絵面ね」
フォルテュナはアシュラに憐憫の目を向け、合掌した。
*****
「セレーネ、アシュラさんにちゃんと謝りなさい!」
「アシュラ、ごめんなさい……」
意識を取り戻したアシュラの正面では、ルーナに窘められ謝罪するセレーネの姿。
「あはは、俺は大丈夫だから……それよりセレーネは頭大丈夫?」
「うん、あたしは大丈夫だよ!」
受け取り方によっては失礼に聞こえるアシュラの問い掛けに、心配されたセレーネは嬉しそうに答え、アシュラに抱きついた。
「もうセレーネったら……アシュラさん、本当にごめんなさい」
「ルーナも気にしなくていいからね。寧ろ元気になって良かったよ」
荷馬車から助け出してから1日と経過していないが、2人は奴隷として拘束され、憔悴しきっていたとは思えない程の回復ぶりを見せていた。
《獣人族の子供は、人族に比べて回復力が高いから心配いらんよ》
(そっか、それなら良かったよ)
カーリーもいつもの様子に戻っている。
早朝から思わぬ来客、カーリーの暴走、尋問、カーリーの再暴走にセレーネの一発。アシュラは1日が始まったばかりとは思えない濃厚な朝を過ごしていた。ちなみに今は朝食中だったりする。
「さて、とりあえずこれからの事なんだけど……」
「アシュラ、このパーティーのリーダーは私よ」
「あ、はい」
現パーティリーダーのフォルテュナに出鼻を挫かれたアシュラ。
「アシュラは『気配察知』で周囲に気をつけながら、荷馬車から子供の着れそうな服を探してきて。その間に私とククルで2人の身体を綺麗にして旅の支度を済ませるわ。準備が整ったらすぐにメリアスに向かいましょう」
「もし現場を通行人に発見されたら?」
「この森林地帯から別ルートを探し出して抜けるわ」
~~~~~
そしてアシュラは荷馬車周辺に人の気配がない事を確認し、散乱した現場から衣類や使えそうな物を物色している。
『魔王と駆逐して救世する勇者様が荷馬車の物色とか笑えるよな』
「クロは黙ってろ。過酷な過程を経て成り上がるのが、勇者の運命なんだ」
『言ってる事は正論じみてるがよ、やってる事は盗賊と同じだぜ?』
「時として苦渋を舐めるのも経験だよ……っていちいち煩い!」
『服はまぁいいけどよ、その袋一杯の金はなんだよ。やっぱり盗人じゃん』
「これは旅の必要資金に……じゃなくて被害を被った迷惑料だよ」
『それ盗人の言い訳だからな?』
ルーナとセレーネの着替えと多少の路銀を手にしたアシュラは、周囲に人の気配がない事を確認しながら皆の所へ戻るのだが……
「皆ただいまー。ちょうどいい服が見つかっ」
「あ、アシュラおかえりー!!」
アシュラを迎えてくれたのは、まだ全身濡れたままで素っ裸のセレーネの突進。
「ちょっと待ちなさいセレーネ!」
そしてそれを追走してくる、これまた素っ裸のルーナ。
「ちゃんと身体拭かないと風邪ひいちゃうですぅ~~!!」
それをさらに追走してくる、やっぱり素っ裸のククル。
「もう、早くしないとアシュラが戻って……!!!?」
言わずもがな、最後尾にはすっぽんぽんのフォルテュナ。
獣人姉妹はまだおこちゃまだ。そこに女性としての魅力はまだない。
そしてククルも残念な事に同体型。年齢は大人に近いが、同体型。
だがフォルテュナは年相応の体型。それはまだ絶賛成長中の双丘にも輝かしい未来を感じさせ、まだ濡れたままの美肌にスレンダーな体躯は、アシュラを男として誘うには十分の色気を放出していた。
「アシュラ、待ってたぼっ!?」
懲りずにダイブしてきたセレーネの頭を、ガッチリと両手で鷲掴みしたアシュラの目に映るのは、太陽に照らされ眩い光を放つ、生まれたままのフォルテュナの姿。
「フォル……凄くキレイだ……」
まるで初めてを交わすかのように見惚れるアシュラなのだが……
「いつまで見てるのよ、バカアシュラアァァァ!!!!!」
「ククルにも見惚れて欲しいのですぅ~~~!!!!!」
フォルテュナから投擲されたメイスと、ククルから投擲された杖によって、その意識を刈り取られるのであった。
次回更新は11月9日 26時頃を予定しています。
いつもスローテンポですみません。
次は話が進むはずです(´・ω・`)
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




