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第53話  獣人狩り

 狼に変異したカーリーの頬を、アシュラは容赦なく引っ叩いた。

 実際には頬なのか口なのかわかりにくいのだが。


 「俺……俺達はそんなにも信頼できないのか?」

 《信頼……してるよ》


 聞かれた事に対して必要な一言だけではあるが、その様子には何か躊躇いを感じられる。アシュラを殺す勢いで襲い掛かった気概が、嘘のように鳴りを潜めていた。


 「それならどうしてルーナ達を探しにきた3人の時、勝手に暴走したんだ?」

 《そ、それは……奴の名を聞いた時に、ついカッとなって……》

 「その行動こそ、俺達を信頼していないとしか思えないんだけど。やっぱり俺は、ただの魂の器でしかないんだな」

 《ち、違うっ!》


 カーリーは慌てて否定した。しかしそれでもアシュラは執拗に責める。


 「騎士団長を務める程ストイックな精神力を持った貴女が、ひとりで引き籠ったんだ。そのアグニって奴とはただならぬ関係か何かだろ?」

 《………………》


 沈黙は肯定。言い返さないところ、図星を突かれたのだろう。


 「どうして相談してくれないんだ? 貴女がアグニに対してどれだけ怒りの感情を抱いてるかくらいは理解してる。俺でさえ貴女の感情に浸食されたんだから」

 《…………これは私だけの問題だから巻き込みたくない》

 「俺は貴女を助けたい。貴女の敵は俺にとっても敵だ。それに巻き込みたくないなんて、俺の中で言う言葉じゃないからな?」

 《それでも……『ゴツンッ』あいたっ!?》


 突然、頭部にフォルテュナの拳骨が入った。


 『アシュラに任せて黙って聞いてたけど、もういい加減にしなさいよね』

 《……フォル》

 『彼氏の精神(アシュラの中)に勝手に居座っておいて、何都合の良い事ばっかり言ってんの?』

 《あ……いや、その》

 『脳筋が考えるだけ無駄な努力よ!』

 《な……いくら何でもそれはないだろう!》


 珍しくフォルテュナが言葉を荒げる。

 それだけ無理を押し通そうとするカーリーに苛々したのだろう。


 『無駄な努力よ。貴女はずっと後先考えないで頑張ってきたんでしょ? 私には、それが貴女の美徳だと思ってるわ』

 《私の美徳……?》

 『そうよ。ただの猪突猛進にも見えるけど、貴女の生前を知ってるからこそ、そう思うのよ』

 《……だが、そのせいで私はアシュラだけじゃない、フォルやククルだって》

 『おだまりっ!!!!!』

 《キャウン!?》


 『拘束』によって動けないはずのカーリーがお座りの体勢を取る。

 人の姿であれば直立したような状態と言っていいだろう。


 『貴女はアシュラを頼った。それは信頼したからでしょ? だったらウジウジ考えてないで、素直に私達を頼りなさいっ!!』

 《がうっ!!》


 まるで飼い主に躾けられている犬のような光景。

 アシュラは唖然として2人のやり取りを見届けている。


 『はい、アシュラ。あとは任せるわ』

 「あ、はい」


 美味しいところを横取りされた気分のアシュラだった。



 *****



 《アシュラ、フォル……本当にすまなかった》


 狼化を解除し、元の姿に戻ったカーリーは、2人に土下座する。


 「謝罪はいいよ。頼りない俺にも原因があったと思うしね」

 『そうね。アシュラはもう少ししっかり男を磨いた方がいいわ』

 「……手厳しいなぁ」


 アシュラは、将来嫁の尻に敷かれる予感に襲われながら苦笑した。


 「カーリー、外はそろそろ時間的に厳しくなってる。手短に教えてくれ」


 カーリーの暴走が収まり、3人がいる精神世界の色は再び真っ白に戻っている。そして外の風景もまた映像のように見えているわけだが、ククルがセレーネを抑えるのに精一杯な状況が見える。

 今にもアシュラに襲い掛かりそうな雰囲気だったのだ。


 《わかったわ》


 カーリーが感情を抑えるように、淡々とした口調で過去を話始めた。


 《ブラフマ狼国領内では数少ない人族の旅商人の一人娘、それがアグニだ》

 「一人娘って……男じゃなくて女!?」


 アシュラは男だと思いこんでいただけに驚いていた。


 《そうだ。私は別に男だとは言ってないはずだが?》

 「確かにそうだけど……流れからして男性だと思ってた」

 『そうね、しかも奴隷商の親玉なら余計にそう思うわ』


 フォルテュナも同意見だったようだ。


 《彼女の親は獣人族に対して見下す事もなく、気さくで人柄の良い立派な旅商人だった。だから我が狼国領でも商行が認められ、我が一族ともよく交流していたのだ。そのためアグニとは幼い頃からよく遊んでてな。それこそ姉妹のようにさえ感じていたものだ》

 「ようは幼馴染だったってところか」

 《……そうだな。だが12歳頃だったか……その頃、親の事業が頓挫したらしく、それからというもの、アグニの様子が別人のように豹変した。獣人族そのものに嫌悪感を剥き出しにするようになったのだ》

 『旅商の失敗の影響かしらね……』

 《おそらくな。実際、私どころか両親や兄弟にすら、殺意を込めて睨みつける始末でね。その後4~5度会う機会はあったが、鞭で威嚇してきたり、その様子は酷くなる一方だった》


 事業の失敗に何か裏があるというべきだと2人は思慮した。


 《それからは交流が途絶し、会う事はなくなったのだが……暫くして、アグニ本人が奴隷を扱う事業を立ち上げたという噂を耳にしたんだ》

 「なるほど……でも、それだけでカーリーが憤怒する理由としては薄くない?」

 《…………話は変わるが、2人は私が狼人族だとわからなかったよな》

 「『うん』」


 アシュラとフォルだけではない。ククルは勿論、騎士団員ですら気付いていなかったのだ。せいぜい気付いたのはミテュラと、接触した際のアスモディウスくらいだろうか。


 《どうしてわからなかったと思う?》

 「それは、獣人族なら誰もが持つ耳や尻尾がわからなかったから」

 『そうね。私もわからなかったわ。うまく隠してるわよね』

 《……そうじゃないんだよ》


 カーリーは再び狼の姿へと変える。


 《よく見てみるといい》

 「……耳が、ほとんど無い……?」

 『耳だけじゃないわ……尻尾は根元から……』


 戦闘中は気がつかなかったが、カーリーの狼姿には、立派な耳はおろか、勇敢な尻尾すら見当たらなかった。


 《獣人狩りってヤツさ》

 「『獣人狩り……?』」


 カーリーの言葉から感情が漏れ出す。


 《獣人の象徴であり誇りである耳と尻尾を斬り飛ばし、蹂躙する人族至上主義団体の仕業だ》

 「まさか……カーリーもその勢力に?」

 《あぁ、騎士団に入る前、国を離れ傭兵として流れていた頃に……な》

 『……それって……そんな……』


 屈辱、凌辱、恥辱、汚辱……どれも似た意味を持つそれを、カーリーはその身に受けたのだ。フォルテュナはそれを察知し、思わず口に手を当て動揺を隠した。


 《私は、それでも耐え忍び、生き長らえてきたのだ。その勢力の幹部といわれる、アグニをこの手で殺す為にな》



 抑えきれない怒りによって、狼化したカーリーからは全身の毛が逆立っていた。

 次回更新は10月8日 26時頃を予定しています。


 申し訳ありません、前回の更新予定情報の日にちを間違えてましたm(__)m

 連休で日付感覚が狂ったというか……以後気をつけます(´・ω・`)


 いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m

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