第50話 まだまだ出る出るカーリーの秘密
翌朝―――
まだ暗い森の川辺で、4人の美女美少女が身を寄せ合って寝ている。
アシュラは皆が寒くならないように焚火に枝をくべながら、寝る事なく『気配察知』で周囲の警戒をしていた。
……いや、正確には寝る事ができなかった。
その原因は、カーリーの事情を聞いたからに他ならない。
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《ブラフマ狼国領主は、私の父親か兄……だろう》
アシュラは自分の精神内に居るカーリーが、これまで感じた事のない怒りを露わにしていた。とてもふざけた様子でもなかった。
(確か、実家の家督を継ぐ事になって、それを辞退して逃げ出したんだよな……それって狼人族の族長……いや国領主?)
アシュラは彼女が『心意の門』を行使した時の独白を思い出していた。
《……ブラフマ狼国領の次期国領主の予定だったカーリー・マー・ブラフマン。それが国にいた頃の私の名よ。ごめんねアシュラ、国に着いてから驚かそうと思って黙ってたのだけど……こんな形で話する事になるなんてね……》
カーリーにしてみれば、狼国領に到着してからのサプライズのつもりだったのだろう。まさかここで身分を明かす事になるとは、彼女も全く想定外だった。
(驚かそうなんてカーリーらしいね。別になにも謝る事はないんだけど……その、全然偽名感がないんだけど。よくそれで身元がバレなかったな)
《騎士団に入った頃はあまり気にしてなかったのよ。幸い、ティミス神教国と獣人連合国はあまり仲良くなかったから事なきを得たわ……ってその話はそのうちにね》
話が少し逸れたので修正する。やはり冗談交じりとはいかない。
《私が国から逃げ出したのが、今からおよそ5年くらい前。あれから国領主は父上のままなのか、兄弟のうちの誰かに継がせたのか、正直何もわからない……だけど》
(だけど?)
《父上も国領主候補だった兄弟も野心家だった。いつか獣人連合国の首席国家にすると、毎日のように息巻いていた。今回の騒動は、それが関係しているのかもね》
何かを思い出しているのだろうか、カーリーは悔しさを滲ませるように、少し声を震わせていた。
《だとしたら……やはり逃げ出した私のせいだ。私の無責任な行動が、多くの女性達に辛い思いをさせてしまった》
(カーリー、でもそれは……)
《私が皆の野心など無視して、自分の思う国造りをすればこんな事には……》
(待てカーリー、俺の話を聞いてくれ)
《…………》
カーリーが考え事をしているのか、少しの沈黙が過ぎる。
《……アシュラ、今はひとりにさせてくれないか》
(待ってくれカーリー、まずは皆で)
《ルーナ達には私の素性を教えてくれて構わない。この魂に誓って、どんな罰も受けよう。だから今だけは…………ごめんなさい》
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それからカーリーは幾らアシュラが声を掛けても反応しなくなった。
アシュラは、会話の情報を待っていたフォルテュナとククルに事情を説明し、3人はこれからすべき事を確認しあった。
目的地は変わらずブラフマ狼国領。だが転移門のある海港都市メリアス街まで距離がある。3人は情報を得ながら、できる限り急ぐ事にした。
ルーナとセレーネは勿論一緒に連れて行く事となったが、カーリーの魂の存在は黙っておく事になった。まだ幼い彼女達に、見えない魂の存在を理解させる事自体が難しい。仮に理解したとしても、カーリーの名を出してどう思うか……3人は余計な混乱は避けたかった。
「背中のこれも、どう言い訳すればいいんだろうな」
アシュラの背中には、銀色に輝く狼の頭部を模った紋様が浮かんでいる。
ちなみに、クロの証明ともされる黒い五芒星は何処かといえば……
「クロ、お前左手の掌に追いやられたのな」
『うっせーな、俺が知るかよ』
「なぁ、この状態でもクロの能力は使えると思う?」
『知るかっての。試してみりゃいいんじゃねぇの?』
「それもそうだな……ん?」
いつ試そうかと考え始めた時、アシュラの『気配察知』に反応が見えた。
「馬車道を走る人の気配が3つ……俺達が向かう方向から来るな」
「……あふぁ……アシュラ、どうしたの?」
大きな欠伸をしながら、フォルテュナが起きてきた。
アシュラが警戒心を出したのが伝わったのかもしれない。
「おはよフォル。俺達が向かう先から3人の人の気配を察知したよ」
それを聞いたフォルテュナの目が大きく見開く。
「盗賊の仲間かしら? それとも行商人の仲間?」
「わからない。関係のない通行人の可能性もあるしね」
アシュラ達がいるところからはおよそ500レール離れているが、念の為に焚火に砂を掛けて消す。シュラは継続して気配の動きに警戒を続けた。
「……動きはどう?」
「荷馬車の辺りで止まってる……ここじゃ様子まではわからないから、ちょっと見てくる。フォルはククルを起こして、静かに待機してて」
「ねぇ大丈夫? 背中の模様の事もあるし……」
「大丈夫。クロの能力の確認も兼ねてるしね」
「それが一番心配なのよ!」
3人の世界人を相手にする事よりも、また能力の影響でアシュラの身に起きる異変の方が心配のようだった。
「ごめん、でも本当に大丈夫だよ」
「………わかったわ。気を付けてね」
アシュラは双剣を手にして、森の中へと消えていった。
*****
「それじゃまず『超加速』から使ってみるか」
アシュラは、荷馬車までおよそ400レールの距離で試してみる事にした。
『感覚は覚えてるよな?』
「あぁ、大丈夫。それじゃ『超加速』……あれ?」
『おぃヘタッピ。何も変化ねぇじゃねぇか』
「いや、確かにこんな感じで……『超加速』!」
アシュラはいくら行使しようとしても能力が発動しない。
「やっぱり紋様が変わった影響だよな」
『そんなハズはねぇ! 獣風情の能力が何だってんだ!』
クロは自分の紋章の位置がズレた事に不満を持っていたのだろう、本音がちょっと漏れ始めた。
「じゃあ……とりあえず掌に意識を集中してみるか……『超加」
意識を掌の黒逆五芒星に向けた途端、アシュラを囲う世界が雰囲気を変えた。
「速』って言い切る前に発動したし」
『やりゃ出来るじゃねぇかよ!! ってちょっと待てや』
「何? ちゃんと発動してるだろ?」
『そうじゃねぇ、風景の動きが早いんだよ。あそこにいる鳥を見てみろ』
「うん? あぁ青い小鳥だ、すごく綺麗だな」
『んな事聞いてねぇ!! あの盗賊の時と違うだろうが!!』
「違う? ん~……あ、動きが思ってるより早い?」
盗賊に使った時の『超加速』は、間近の剣先がほとんど止まっていた。だが小鳥の動きを見てみると、その時ほどの遅さを感じられなかったのだ。
「なるほど……って事は、能力の効果が落ちてるって事?」
『あぁ、おそらくな。ちっ、胸くそ悪ぃぜ』
「って事は、『超破壊』も『超』が抜けてるかも知れないな」
『気に入らねぇがそうだな。だが人間程度なら効果は十分だろうよ』
「むしろ人に使うべきじゃない気がする……」
などと言ってる間にも、アシュラはすでに荷馬車の近くにまで接近した。
木陰から、そっと荷馬車の様子を伺ってみる。
(男が3人……身なり的には、商人っぽいか)
『あんなテカテカ脂のデブデブしたデブが盗賊に見えるか?』
(見えないけどその言い方は……まぁいいか)
デブ商人達は、どうやら荷馬車の中を詮索しているようだ。
そのうち2人は、外に散らかっている金品を漁っている。
「おい! お前達も真面目に探せ!」
「奴隷探すくらい、お前ひとりで十分じゃろ?」
「どうせ居ても死んでますよ? 目先のお金が第一なのです」
まるで好き勝手に動く3人。
(仲間かどうか別として、ルーナ達の事は知ってるみたいだな)
『ま、ひとりだけ生かして吐かせりゃいいんだろ、簡単だな』
(3人から聞くよ。あれくらいなら無力化するのは簡単そうだ)
クロの物騒な言いようにアシュラは軽く反論する。
だがここで思いもよらぬ事態が起きる事となってしまう。
事の発端は荷馬車の中でひとりルーナ達を探していた行商人だった。
「ちっ……箱が開けられてやがる! 逃げられたか」
「どうするんじゃ? ワシは知らんからな」
「私も同じです。金品だけ回収して私は屋敷に帰りますよ」
「お前達は……この事はアグニ様に報告するかなら!」
「そこでアグニ様の名を出すとは、卑怯なヤツじゃ」
「アグニ様はこんな男の何を気に入ってるのかわかりかねますね」
《アグニ……だと?》
カーリーが突然、『アグニ様』に過剰な反応を示した。
(カーリー、聞いてたのか! アグニって人を知ってるのか?)
《アグニ……アグニが、ルーナ達を……?》
カーリーは独り言のように呟く。
アシュラの声が聞こえているかどうかすら皆無な反応である。
(カーリー! 頼む落ち着いてくれ! アグニってのは誰だ!)
《アグニ…………殺してやる!!》
次回更新は10月31日 26時頃の予定です。
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