第48話 奴隷少女と黒髪と匂い
「私とセレーネは、奴隷……なのです……」
ルーナは真赤だった顔色を青ざめさせ、その目に涙を浮かべながら、自分が奴隷である事を告げた。
この世界では、一部の国を除き『奴隷制度』が認められている。
重犯罪を犯した者、貧困に苦しみ家族に売られた者、身寄りのない孤児などその内訳は様々だが、奴隷と認められた場合、種族もそれまでの身分も関係無く忌避される存在となる。
そして奴隷は奴隷商を通じて物として売買され、買主の目的によっては、個人の尊厳など皆無な扱いを受け、命を落とす事が日常と化している。
そんなご時世でも、この人なら救ってくれるかもしれない。
ルーナはフォルテュナの眼を見て、僅かな希望に縋りつく思いで身分を晒したのだ。しかしそれと同時に、怖くもあった。もしこれで見捨てられたら、待つのは絶望だけ……。
だがそれは彼女にとって杞憂に終わる事となる。
「そっか……2人とも辛かったのね……」
フォルテュナが涙を流しながら、膝枕されているルーナの顔を抱き抱えた。
「大丈夫、私達が守ってあげる。だから安心してね」
「ふぁい……あふぃふぁふぉうふぉふぁいふぁふ……ふえぇぇ~~ん」
フォルテュナに抱えられた息苦しさよりも、温かさと喜びに感極まって再び号泣したルーナであった。
*****
暫くするとルーナは泣き疲れたのだろう、膝枕の上で再び寝息を立てはじめた。
「アシュラ、ククル……その……ごめんね。勝手に2人の事……」
フォルテュナが申し訳なさそうに謝罪する。2人の少女を見捨てられない、とでも言おうとしたのだろう。だが相手はアシュラとククルだ。理解を示さないはずがなかった。
「フォル、俺も同じ気持ちだから謝る事はないよ」
「当然なのですぅ! ククルも一緒に面倒見るのですぅ!」
「うん、ありがとうね……アシュラ、ククル」
こうして優しい気持ちに浸りながら、夜も静かに更けていく―――
……はずがないのが、この3人(と2人)。
「ところでアシュラ。有耶無耶になる前に聞くけど、その髪は何?」
先程までのフォルテュナの慈悲深い微笑みが、瞬時に消え失せた。
「銀髪は神族の証のひとつよ? それがどうして黒くなったのかしら?」
「えっと……先に言っておくけど、これは頑張った結果というか……」
「言い訳は見苦しいわよ? ちゃっちゃと白状しなさい」
アシュラの事、ずっと離さないからね!
……なんて言ってた頃が懐かしいと思い出しつつ、アシュラは話始めた。
「荷馬車に追いついてから、5人の盗賊と戦った」
「それで?」
「4人は双剣で無力化して、最後に大男も倒そうとしたら」
「……したら?」
「クロが『自分も戦闘に参加させろ』って」
「参加できるものなの?」
「出来ない。だからクロの能力を使う事になって……使った」
「どんな能力なの?」
「クロが言うには、魔王の持つ能力で『超加速』と『超破壊』」
「その効果は?」
「時間の流れがすごく遅くなった。軽く叩いただけで身体に風穴が空いた」
アシュラはまるで尋問されているかのような錯覚に陥っていたが、フォルテュナにとっては、アシュラの為を想ってこその行動なのだ。
神族でありながら、魔王の欠片とカーリーの魂を内に秘めている。それがアシュラにどう影響を及ぼすか想像もつかないのである。
「クロの能力の影響以外に考えられる要因が無いわね」
「ククルもフォルさんに同意ですぅ」
『そう言われてみると、俺もそう思えてきたな』
《クロ、明らかにお前の能力のせいだからな!?》
原因は突き止めた。だがどうして髪が黒くなっているのか?
クロの能力が関係するとしたら……他に考えられる要因はひとつしかない。
「アシュラ、上着脱いで背中を見せて」
「あ、あぁ……神名の証ってやつを見るのか」
アシュラは言われるままに服を脱ぎ、フォルテュナに背中を向けた。
すると、黒い逆五芒星を中心に据えていた銀色の五芒星が消えていた。あるのは黒い逆五芒星のみ。そしてカーリーの魂の象徴たる狼の催した紋章すらもない。
フォルテュナもククルも、一目でわかる変化に……
「「犯人はクロで確定だあぁ(ですぅ)!!!」」
『な……!? 俺は無実だああぁぁ!!』
静かな夜にクロの声が木霊した。アシュラの中限定で。
そして背中の状態をアシュラにも伝え、皆で考える事となったのだが……
「どうすれば元に戻るのかしら……?」
「クロさんの能力が影響してたなら、アシュラさんの能力で上書きするですぅ」
《クロ、私のアイデンティティたる狼の紋章はどこへやった!?》
『知らねぇよ……どっかに移動したんじゃねぇの?』
アシュラにしてみれば、外も内も物議が醸されている状況に疲れていた。
「なぁクロ、以前母さんに言われて背中の五芒星をぼかした事あったよな」
『あぁ、何となく勢いでな。イメージして気張ったらなったはず』
「その要領でやってみるか……イメージ、イメージ……」
アシュラはその場で立ち上がると、おもむろに気張り始めた。
「ふんぬうぅぅっ!!」
「アシュラ、何やってるの? お花摘みなら森の奥でお願いね」
「アシュラさん、汚いですぅ……」
「~~~~~ぬはぁ!! そんなんじゃないから!!」
アシュラはそれからも何度か息んでみるものの、変化はなかった。
「違うのかな……クロ、以前みたいに試してみてよ」
『俺がか? めんどくせぇなぁ……』
《ちょっと待て。私にやらせてはくれないか?》
珍しくカーリー自らやってみるという。そしてそれをアシュラもクロも止めるつもりもない。何せ、カーリーの魂の象徴たる狼を催した紋章が消えているのだから。
「カーリー、大丈夫?」
《うむ、我が狼人族の力を見せてやる!! ぬおあぁぁぁぁ!!!》
『実際には全然見えないんだけどな』
カーリーが大声を張り上げる。アシュラの中では騒がしい事この上ない。
「アシュラ、カーリーさんがどうしたの?」
「いや、試しに変化するかどうか試してるみたいだ」
「きっと黒い五芒星が狼の形に変化するですぅ!!」
ククルは何か楽しそうだ。というか他人事のように楽しんでる気がする。
「いやいや、そんな簡単に変化するなんて……熱っ!?」
『お、これは期待できそうじゃねぇか?』
「何をそんな悠長なあっちちちちっ!!?」
アシュラはあまりの背中の熱さに仰け反っている。
そして周囲の騒がしさに、寝ていたはずの少女が目を覚ましてしまった。
「う、ん……あ……フォルテュナ様、ごめんなさい、寝てしまいました」
ルーナが申し訳なさそうにその身を起こし、フォルテュナに謝罪する。
「気にしないでね。それよりも騒々しくてごめんね、ルーナちゃん」
「いえ、私は大丈夫です。それよりセレーネは……」
「まだククルの膝の腕で寝て……あれ?」
フォルテュナがククルに視線を送ると、そこにはもうひとりの少女、セレーネが起き上がっており、アシュラをずっと見つめていた。
「あ、急に動いたらだめなのですぅ!」
「わあぁーー……おにーちゃんのかみの毛、きれい!!」
フォルテュナもククルも、再びアシュラを視界に収める。するとアシュラは背中の熱さに四つん這いになっていたが、その髪色はいつもの銀色へと戻っていたのだ。
さらに背中の黒い逆五芒星が、今度は銀色の狼の紋章へと変貌を遂げていた。
そしてセレーネはさらに一言、突拍子もなく大声を出した。
「おにーちゃん、おねーちゃんと同じ匂いがするー!!」
セレーネは目を輝かせながら、アシュラをずっと見続けていた。
ボサボサの頭髪から飛び出した、獣の耳をピョコピョコと動かしながら。
この回は正直、話がうまく纏められなかった気がします。
いずれ他の回も含め、改稿するかも知れません(´・ω・`)
次回更新は10月25日か26日の26時頃の予定です。
ただ冠婚葬祭の関係で確実とは言えませんのでご了承ください。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




