第47話 荷馬車に隠された少女達
「髪色が真っ黒って言われてもなぁ……クロ、わかる?」
『さてな。俺にはさっぱりわからねぇな』
《さっぱりって事はないだろ? 絶対にクロの能力の影響だろ!》
フォルテュナの指摘に一旦は驚くアシュラだったが、自身は異変を実感できないためにあまり深刻に考えていない様子だった。カーリーが物議を醸し出す様子にもうんざりしているようだ。
しかしフォルテュナにしてみれば、離れていたわずかな時間で髪色が変貌してしまった事態を看過できるわけがない。
「お願い、ちゃんと説明して。特にクロの影響がどう出るのか心配なのよ」
「ちゃんと説明するから怒るなって。盗賊を追いかけてからは……あっ!!」
フォルテュナの雰囲気に気圧されたアシュラは、説明しようと記憶を遡ったタイミングで、肝心の事を思い出した。
「荷馬車!! 多分人質か何かいたはず!!」
「えぇ!? それってどういう事よ!?」
「そんな話聞いてないですぅ!!」
アシュラは慌てて荷馬車へと駆けていく。
まさか人質がいるとは思わなかったフォルテュナとククルも彼の後を追いかけた。
アシュラは荷馬車に飛び乗ると、所狭しと山積された品物を乱暴にどけていった。
「誰かいるんだろ!! 返事してくれ!!」
アシュラが大声で呼び掛けるものの返事はない。そこに後から飛び乗ってきたフォルテュナが、アシュラの肩を掴んで引っ張り出した。
「うぉ!? 何するんだよフォル!」
「人質なら、そんな乱暴に怒鳴ったら怯えちゃう。私とククルに任せなさい」
「そ、そうか……そうだよな」
自分が助けたという自負があるのだろう。アシュラは自分の声で全く反応して貰えなかった事にショックを受けたらしく、大人しくフォルテュナの後ろに引き下がる。さらにその後ろから乗ってきたククルによって荷馬車から押し出された。憐れアシュラ。
「助けにきたわよ、もう大丈夫だから返事して!」
「盗賊は倒したのですぅー! だから安心なのですぅー!」
コンコン……コンコン……
すると、自己主張の弱々しい音がどこからともなく聞こえてきた。
「ここにいます…………どうか……助けてください」
木箱か何かに閉じ込められているのか、くぐもって聞き取りにくいが、助けを乞うか細い声も聞こえる。
「何でも……しますから、どうか……どうか……」
今にも命尽き果てそうな声にフォルテュナは焦りを覚える。
「アシュラ! ボサッとしてないでこのガラクタどかすの手伝って!!」
「アシュラさん、急ぐですぅ!!」
「あ、はい」
こうして荷馬車から調度品や絵画や装備品が次々と放り出され、そのたびに外からは破砕音が響き渡る。そして盗賊の亡骸が金品の残骸に埋もれていった。
「あった、この木箱ですぅ!!」
荷物のほとんどが取り除かれたところに、大きな木箱が置かれていた。中からは弱々しい打音が続いている。
「今出してあげるから待ってて!!」
フォルテュナは荷馬車に積まれていた摸造刀の鞘を、上蓋の僅かな隙間に捻じ込み、テコの原理で力づくでこじ開けた。
すると中から、ボロ布に身を包んだ2人の幼い少女が姿を現した。
「……どうか、助けて………神様……」
意識が朦朧としているのであろうひとりの少女は、いまだ一生懸命に箱を叩いている。もうひとりはすでに意識を失って倒れている。
フォルテュナとククルはその姿に涙が出そうになるが、それを必死に堪えひとりずつ抱え上げ、外へと運び出した。
*****
「う……うぅ……ん、あ……あった……かい……」
助けを呼んでいた少女が目を覚ました。
2人の少女は衰弱しきっていたが、フォルテュナの回復魔法によって一命を取り留めた。一旦は安堵した3人だが、殺害された行商人、盗賊の仲間が探しにくる可能性を鑑み、少女達を抱えて急ぎその場から離れた。
しかしどれだけ馬を走らせても、アシュラの『気配探索』には人はおろか、集落のような集団の気配すらも感知しなかった。
そうして陽も沈んできたことから、一行は馬車道から脇に逸れた森林内の川辺で野営する事にしたのだった。
「良かった、気がついたのね……」
パチパチッと焚火の枝が割れる音と、川辺の澄んだ水の音が、フォルテュナの声と共に少女の耳に響く。
「え……ここは……箱の中じゃ……あなたは?」
フォルテュナは少女を膝枕しながら髪を撫でている。少女は正面、いや真上から聞こえる優しい声に、焦点の合っていない目を手で擦りながらフォルテュナを確認しようとしているようだ。
「私はフォルテュナ。行商人も盗賊もいないから安心して」
「……フォル、テュナ様……セレーネ……妹は!? うぅ……」
少女は身体を無理に起こそうとするが、思うように動かない。
フォルテュナは少女のおでこと頬を撫でるように抑えて、気持ちを落ち着かせた。
「一緒にいた子なら大丈夫。ほら、そこで眠ってるわ」
フォルテュナが少女の顔をそっと横に向ける。そこにはククルの膝枕の上で寝息を立てている少女の姿があった。それを見た少女はようやく安心した様子で、目に涙を浮かべる。
「良かった……セレーネが生きてた……ふえぇ……ふえぇ~ん……」
フォルテュナは優しく微笑みながら、泣きじゃくる少女の髪を撫で続けた。
*****
暫くすると、少女が顔を真赤にしてフォルテュナをジッと見つめた。
「(きれいな人……本当に女神様みたい)」
距離のないフォルテュナでさえ聞き取れない擦れた声で少女は呟く。
そして様子の変化に気がついたフォルテュナと視線が合った瞬間、ボフンッと音を立てて、顔から蒸気が立ちのぼった……ような気がした。
「どうしたの? まだ調子悪い?」
フォルテュナがそっと頬を撫でた瞬間、少女は誰も反応できない速度でフォルテュナの前に土下座していた。それを見たアシュラとカリクロも驚いていた。
「フォルテュナたっ様! 私と妹を助けていだっ! いただきまちて、ありがとうごら……ございました」
「どういたしまして。うふふ、そんな緊張しなくてもいいのに」
少女だけでなくアシュラ達にも、フォルテュナの背後から後光が見えた。
「わあぁ……フォルテュナ様……すてき……」
「おぉ、フォルが眩しくて凝視できない」
「フォルさんが光り輝いてますぅ……」
《神々しいってのはこういう事を言うんだなぁ》
『うがああぁぁ!? 目がっ俺の目がああぁぁ!!?』
四者四様の反応。一部悶絶しているようだが、アシュラもカーリーも気にしていない。
ちなみにこの後光は実際には見えていない。雰囲気だけのただの幻である。
「聞き忘れてたけれど、貴女のお名前を教えてもらってもいいかしら?」
「あ、そうでした! 私はルーナっていいます!」
「そう、ルーナちゃん。もう土下座はやめてね、話しづらいわ」
そういうとフォルテュナはルーナの頭を鷲掴みにすると、再び膝の上に戻した。
「この方が話易いわ。それに、回復したとはいえ、無理しちゃ駄目よ」
「あ、あわわ……わかりました………」
「ところで、貴女達はどうして木箱なんかに閉じ込められていたの?」
「あ……は、はぃ……あの、たぶんわかってると思いますけど……」
ルーナは寝息を立てているセレーネに目を向けながらポツリと話始めた。
「私とセレーネは、奴隷……なのです……」
『ところでよ、俺達って主役なんだよな?』
「俺がね。クロは違うでしょ?」
《フォルに美味しい所全部持ってかれたな! あっははは!》
「笑い事じゃないよ? カーリーだって同様なんだから」
《なん……だと!? そんなバカなっ!!?》
というワケで、次回更新は10月23日 26時頃を予定しています。
ルーナとセレーネに焦点を置いたらアシュラ達の存在が薄く……
話の都合上、黒髪の謎は次回に引っ張りました。申し訳ないっす( ノД`)
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




