第40話 親子愛(★)
2020.4.5 一部文章を修正しました。
ミテュラの口から離別を宣言されてから3日―――
あれからのミテュラは変わった様子もなく、アシュラ達を連れ、大森林の魔物相手に訓練する日々が続いていた。そしてこの日も魔物の群生地帯で3人の連携を見守っている。
「フォル! そこはククルの魔法の射線上! 位置取りを考えて!」
「は、はい!」
「ククル! 火攻撃じゃなくて風支援! 前衛を火炙りにしたいの?」
「ご、ごめんなさいですぅ!!」
彼女の指導に、2人は少しでも教えを吸収すべく一生懸命に訓練に励んだ。
しかしひとりだけ、訓練に集中しきれていない者がいた。
ご存知、アシュラである。
訓練を再開してからというもの、動きに全くキレがない。
判断ミスも多く、集中力がまるで無い。
当然ながら、それを見逃すミテュラではない。
「アシュラ何してんの? 突っ込み過ぎって何度言えばわかるの!?」
「あ……ご、ごめん」
「2人の援護がなければ、アナタ何回死んでると思ってるの!?」
「じゅ……10回、かな」
「25回よ25回!! 今日全戦全敗よ!! 馬鹿じゃないの!?」
『……マジ重症だな』
《実体があれば身も心もしっぽり慰めてやれるのになぁ》
『お師匠さん、アンタ完全に猥褻キャラになったな』
《何をいうかクロ。見てわからないか? これが私の真の姿だ》
『見えねぇからわからねぇ。見えてもわからねぇけどな』
……カリクロの会話内容はともかく。
アスモディウスとの戦で見せた雄姿はどこへやら。
アシュラの覇気のない姿に、さすがのミテュラがキレてしまった。
「はぁ……もういいわアシュラ。ストップ。訓練は中止よ」
ミテュラがアシュラと魔物の間に割り込み、一撃で魔物を粉砕した。
「か、母さん! いきなり割り込んできて危ないじゃないかっ!!」
「危ない? そんな萎びた剣筋で、私が斬れると思ってるの?」
「それはっ……」
「今日の訓練は終了。それと、アシュラは明日から訓練に参加しない事。戦意のない前衛なんて、邪魔者以外の何物でもないわ」
アシュラを冷めた目で一瞥すると、彼女はそのまま村へと歩いていく。
これを見兼ねたフォルテュナとククルは、アシュラに詰め寄っていった。
「アシュラ、それじゃミテュラさんが怒るのも仕方ないわよ?」
「今のアシュラさん、ククルは好きになれないですぅ」
アシュラは自分の事を慰めてくれるとでも思ったのだろう。
だがそれが甘かった。2人はミテュラを擁護したのだ。
そして2人は彼の寂しそうに背を向けた。
「今の貴方は自分の事しか考えてないわよね? すごくみっともないわよ」
「自分の事……? それは母さんだって同じじゃないかっ!」
「全然違うわよ。頭冷やして、よく考えて……」
そう言うと、フォルテュナは小走りでミテュラの後を追っていった。
「アシュラさん。ミテュラさんの立場を考えてあげてほしいのですぅ。ククル達から見れば羨ましいと思うくらい、親馬鹿なのですぅ。それはわかってあげてくださいなのですぅ」
ククルも俯くアシュラに一言声を掛けて、トボトボと歩いていった。
「どうしてそう思えるんだよ皆……」
アシュラはその場に佇んだまま独り言ちた。
*****
《全く、アシュラは寂しがり屋だな》
「別にそんな事は……」
今のアシュラにはカリクロが傍にいる。
本来ならアシュラがひとりで考えるべき案件。
しかし、それをさせないのがカリクロの存在だったりする。
『兄弟。クソババ……様が居なくなるのが、そんな寂しいってか?』
「……違うよ」
『俺には親離れ出来ない拗ねたガキにしか見えないんだがな』
「そういうんじゃない」
《だったら何を不貞腐れている?》
誰がみても今のアシュラは、カリクロの言った通りにしか見えない。
当の本人も実のところわかっている。
「俺は母さんの期待を裏切った……母さんをまた孤独にしたのは俺のせいだ」
『孤独? 元々そうだったろ? それを今更――』
《なるほど……そういう事か》
クロにはよくわからないようだが、カーリーは心当たりがあるのだろう。
彼女はアシュラの言いたい事が何となく理解できた。
『どういうこった? 俺にゃ全然わかんねぇんだけど?』
《まぁまぁ、ここは私に任せておけ》
カーリーが胸を張ってクロの前に立った……ような感じがする。
《覚醒した際、魔王の欠片の能力も継承した。それは元々、ミテュラに掛けられたはずの呪いだ。敢えてその力を振るい、皆を助けるつもりだった。それを背負わせたという自責の念を持った彼女の為にもな。だが、力になるどころか逆に足手纏いになってしまった。そんな自分が赦せない……ってところじゃないか?》
「そう……だね。俺はあの時、自分を責める母さんの力になれる事が嬉しかった。ずっと孤独だった母さんの役に立てる事が嬉しかった。母さんも“親馬鹿って言われてもずっと離れない”って言ってたんだぞ? ずっと離れていた母さんと、同じ目標を持って一緒に旅が出来る力を得たのに……」
《結局、彼女と共に戦うどころか、頼りっぱなしで足手纏いにしかならず、失望と離別を選択させてしまった自分が赦せないって言いたいわけだ》
「あぁ、そうだよ! また母さんを孤独にさせてしまった! 無意識に母さんに頼り切ってしまった! 俺は俺が赦せないんだ!」
《その程度で拗ねて、訓練に身が入らなかったのか?》
「その程度ってどういう意味だよ!」
《その程度でしょ? どうして余計に彼女を裏切るような事をしている? それこそ構って欲しいだけの駄々っ子と何も変わらない。彼女の……母親の為を想うなら、一分一秒も時間を無駄にしている暇なんてないはず。違うか?》
「そ……それは……」
《行きつく先は同じなんだろ? その過程が違う道だってだけの事。アシュラが母親と肩を並べて戦えるだけの力をつけられたら、その時はきっとまた一緒に戦う事ができるはずだ》
『結局は脛かじりのクソガキが拗ねてただけか……アホくさ』
《この先、力も統率力もある彼女と共にすれば、それはそれでアシュラにとって得難い経験となるだろう。だが、それでは彼女を超えるどころか、肩を並べて戦う事はできない。無意識の中で、必ず彼女の一挙手一投足に頼る事になる。それは彼女にとって思う所ではないはずだ。血を分けた息子から離れる辛さよりも、アシュラの未来の為に選んだ彼女の意思をしっかり汲んでやれ。甘えるなんて事は、平和になってからすればいいだけの事だ》
「…………」
『ただマザコンってだけじゃん……つまんねぇな』
《何を言うか! 私にも甘えていいのだぞアシュラ! ミテュラ以上の母性愛で包んであげちゃうぞ! 精神的な意味でくんずほぐれつ肉と肉のおしくらまんじゅうだ!!》
『いや何言ってんのかわかんねぇんだけど』
カーリーによって導き出された答え。
自分で考えて出すべきはずのアシュラは、余計に落ち込んだ。
*****
大森林でそのまま居続けたアシュラ(とカリクロ)は、これまでの鬱憤を晴らすかのように、朝まで単独で魔物と戦い続けた。
自分が強くなれる事で、いつか魔王を倒して母の呪いを解く手助けができる。全てが終われば、普通の親子として、失い続けてきた親子水入らずの時間を過ごす事ができる。
アシュラの眼に明確な意思が感じられた。
この先、アシュラはもっともっと強くなれる。カリクロは一安心していた。
『ま、ただの開き直りだけどな。八つ当たりされる魔物共が不憫だ』
《……あまりぶっちゃけるとまた拗ねるから黙ってろ》
「全部丸聞こえなんだけど……静かにしててくれないか?」
*****
朝食を食べる時間帯に村に戻ったアシュラは、3人にこっぴどく叱られた。
だが、叱られる彼の表情に、数刻前の拗ねた様子は感じられない。
ミテュラは吹っ切れた息子の様子を見て、彼の訓練参加は許可した。
暫くはフォルテュナとククルの補助役として参加する事となった。
ミテュラは安心して別行動を取れると、心底安堵した。
【カーリー、クロ。今回はありがとう】
《大した事はしていない。だから気にする事はないさ》
【このままだとどうなるかと思ったけど、これなら再会した時にどれだけ強くなってるのか、今から楽しみになってきたわ】
『まさかとは思うけどよ……あの時全部盗み聞きしてたのか?』
【さて、どうかしらね? ところでカーリー】
《なんだ? 礼なら及ばんぞ?》
【精神的な意味でくんずほぐれつ肉と肉のおしくらまんじゅうって何?】
《それは勿論、私の魂の裸体が彼の裸体とのコラボレーションを……》
【そんな事、私が許すとでも思ってるのかしら? カーリー? クロ?】
『ちょっと待て! 俺は全然関係ねぇだろ!!?』
【問答無用よ、相方の不手際は連帯責任よ】
『いつから相方になった!? 理不尽すぎる!!』
……カリクロはミテュラにボコられた(精神的に)。
だが一体どうやってそれを可能にしたのか?
【母の愛に決まってるじゃないの♪】
親馬鹿は健在であった。




