第38話 報われぬ功績(★)
2020.4.5 一部文章を修正しました。
アシュラの中に息を潜めていたカーリーの魂は、ミテュラによって見つけ出され……拳によってボッコボコにされた。
『あふあをあふへはほひ……ほほはへひはふへほ……』
「アシュラの命を救ったのは確かよね。少しボコって悪かったわ」
『……ほほほほはふほひはほ?』
さすがに少しやり過ぎたミテュラもミジンコ程度に反省したようだ。
「『心意の門』を使ったのは、彼から離れたくないからって事ね」
『まぁ、正直に言えばそういう事だ。それに狼人族としての直感が働いたんだよ。彼の魂に触れれば、自分の力が継承されるかもって』
「直感じゃないわよね。確か“獣人族の魂の継承魔法”と聞いてるわ」
『なんでミテュラがそれ知ってるんだ!?……あ』
「やっぱり確信犯じゃないのっ!!」
ミテュラの見立ては正しかった事が証明された。
そして再びボコろうとする彼女。
しかしカーリーはそれを必死で止めた。
『ちょ、ちょっと待ってくれ! それだけじゃないんだ! アシュラの戦闘技術を磨きながら思ったんだよ。一度でも使った魔法や技術をそのまま我が物にするのを目の当たりにして、それがアシュラの能力じゃないかって』
「なるほど、カーリーもその結論には至ってたワケね」
2人はアシュラの能力について、同じ見解を持っていたようだ。
「私もそれを確信したのは、今回アシュラに『心意の門』を行使させてからだけどね。例えカーリーの能力を継承したとはいえ、獣人族にのみ継承される魔法なんて使えるはずないんだから」
アシュラの能力が使った魔法や技の吸収となれば、この先、魔王をも凌ぐだけの力を手にする可能性すらある。ミテュラは我が息子ながら末恐ろしいと思わざるを得なかった。
「この先、進むべき道を間違えないようにしないとね。それとその能力に呑まれないように気をつけなさいよ、アシュラ」
「わかったよ母さん。カーリーもその……ありがと」
『気にするなアシュラ。それにな、私はここでずっとお前の中でお前の匂いに包まれながら生きていくんだ。未来永劫片時も離れる事なく、いざとなれば夢に出てあんな事やこんな事だって出来るんだ! ぐふふ、もう最高じゃないかっ!!』
カーリーが何やら精神的に危険な言動を言った。
これが彼女の本来の目的なのか……とアシュラは戦慄する。
しかし、それを直接聞いた2人の女性が見逃すはずがない。
「カーリーさんズルイです! 反則です!! 役得すぎます!!!」
「精神的貞操の危機なのですぅ! この場で即刻燃やすのですぅ!!」
当然、非難轟々である。
『あ、いやちょっと待て! ミテュラ! 彼女達を止めてくれ!!』
「自業自得よ、カーリー」
結局、魂とはいえ現実以上にボコられるカーリーだった。
~~~~~
こうして現実に戻った4人。
勿論ボコられたカーリーは肉体に戻れないのでアシュラの中に滞在中だ。
むしろそれが厄介なのだが。
《おおぅ、これがクロと同じ視点になるのか……便利だな》
『お師匠さん……俺のポジション取らないでくれよ』
《あら、この声がクロ? 精神的に居場所違うけど、宜しくね♪》
『だから俺と役回りが被るから出てくんな駄雌犬!』
《あら、私はアシュラと魂が結ばれた仲なんだからね、立場は私のが上よ》
『……あぁもう面倒くせぇなぁ!!』
(……あのさ、本当に面倒臭いのは俺なんだけど!?)
開き直ったカーリーの声が、クロ同様に聞こえるようになっている。
自分の中に別人格が2人いるという事態に気が滅入るアシュラであった。
そしてその声が聞こえるミテュラからも憐みの眼差しが注がれる。
「もう内部事情はアシュラに任せるわ。それよりも今後が問題よ」
ミテュラが真剣な表情で3人を見る。
「今後って……アスモディウスは倒したから、その後始末って事?」
「確かに後始末だけど……その答えは宰相さんが持ってくるわ」
「「「??」」」
3人の頭上には疑問符が浮かびあがる。
「あの状況で魔王の亡骸を前にしていた事……これがどういう意味か、きっとわかるわよ」
*****
暫くすると、ローブを被ったハンスとその娘ハンナが戻ってきた。
4人はハンス達を迎え入れ、ようやく一堂に会する事となった。
「本当にありがとうございました。どう感謝してもしきれません!」
アシュラ達を前に、土下座でハンスとハンナが謝意を伝えてきた。
「宰相さん、顔を上げてください。俺は何の力にもなれてないし……」
「何をおっしゃいますか! あの国王を倒したのです。おかげ様で娘のハンナも取り戻す事ができました。この御恩は一生忘れませぬ」
ミテュラを除き、アシュラ達は皆一様に対応に困って苦笑いである。
「あ……あの、私からもお礼を……この度は助けていただきありがとうございました。そして父の命も救っていただきまして、その……どう恩返しすればいいのか……」
ハンナにとってはアシュラ達は初対面。
しかし拠点に戻るまでにおおよその経緯は聞いたのだろう。
ハンナは戸惑いながらも、洗脳されていた自分と父の助命の礼を尽くそうと一生懸命考えているようだ。
ミテュラはそんな父娘を少し羨ましそうに見ながら、2人に言葉を掛ける。
「宰相さん、ハンナさん。お礼なんて気にしないでください。私達は国王を騙る魔王アスモディウスを打倒する事が目的だったのですから。それに国王がいなくなった今、権力争いによって混乱を来たす事になると思いますし、今後の対応を任せてしまう事の方が心苦しく思います」
「それは確かにそうなのですが……」
「ハンナさんも洗脳されていたとはいえ、その間の記憶が残っているはずです。自分の意志ではなかったとはいえ、実の父親を手に掛けてしまった罪を感じてるかも知れませんが、今こうしてまた言葉を交わし合える事の大切さを忘れないで、宰相さんの力になってあげてください」
「……はぃ、ありがとうございます」
ミテュラが見事に父娘の気持ちに応える。さすがの対応力である。
『すげぇな、この猫被りな感じ』
《伊達に歳くってないという事だな、はっはっは》
【……あんた達、あとで覚えときなさい】
『《ひいぃ!?』》
(クロ、カーリー……殺気向けられる俺の身にもなってくれ……)
うっかり自爆するクロとカーリー。
そして殺気を受けるアシュラが憐れである。
殺気を漏らしたミテュラは、気を取り直してハンスに声を掛けた。
「宰相さん、それよりも……国都内の様子はどうでしたか?」
おそらくこれから聞くのは、アシュラ達に指摘していた事の答えだ。
「洗脳された人々はまだ混乱した様子でしたが……一部、国王が忌み子に殺されたという目撃情報が出回っておりまして、その……皆様が国王殺害、国家反逆罪等の罪に問われ、国から指定重犯罪者として追われる可能性が……」
ミテュラの不安が的中した瞬間である。
彼女がアシュラ達へと振り向く。
そして少し怒りを滲ませた様子で諫めはじめた。
「3人とも、私が言いたかった事がわかったかしら? それと魔王は魔力を使い切った直後、その姿が元の国王に戻っていた事に気づいてた?」
「「「……いいえ」」」
「魔王が国王の姿で倒れている。そのすぐ傍に私達がいる。洗脳解除されて逃げ惑う女性達の中には、冷静な人もいたと思うわ。そういう人達が、パッとみた状況を鑑みて嫌疑をかけるのは当然の流れよ」
「そ、それじゃ俺達は……」
「救国の英雄どころか、国に追われる立場になったって事よ」
まさかの事態に、3人は血の気が引く思いに駆られた。
「そんな……カーリーさんが(肉体的な意味で)命を懸けてくれたのに……」
「何も知らない人達にとって、目の前に広がる事象こそが真実なのよ」
「それじゃ、ククル達は指名手配犯という事になるのですぅ……?」
「そういう事よ」
ミテュラは現実を突きつける。これも成長の為の試練と思わせるようだ。
それを聞いていたハンスとハンナがアシュラ達を励ましてきた。
「皆さん、時間は掛かるかも知れませんが、このハンスが全力を以て疑いを晴らしてみせます。だから今暫く、何処かに隠れるか、国外に避難してはいかがでしょうか」
「あ、あの……私も洗脳された偽りの忌み子という経緯があります。父と共に、皆様の嫌疑を晴らす為に尽力いたします。これで返礼になるかわかりませんが……」
「「「……ありがとうございます」」」
アシュラ達は感謝を述べる。
救った側ではあるが、逆にこの2人の言葉に救われる気持ちになった。
「私達は今夜にでもここを発つわよ。ここは危険だわ」
「「「はい」」」
こうして、アシュラ一行は国都を脱出する事となる。
~~~~~
『なぁ、お師匠さんよぅ』
《なんだクロ》
『あのババアはよ、数多の警備兵を蹂躙したんだよな』
《うむ》
『クズ王の死体より、そっちのが余程インパクトなくね?』
《同意だな。鬼神様は自分の棚上げっぷりもまさに鬼の如しだ》
【ねぇ、アナタ達。それわざと聞こえるように言ってるの?】
『《ひぃ!?》』
【アナタ達の生殺与奪権は私が握ってると肝に銘じておきなさいね♪】
『《……畏まりましたご主人様》』




