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第37話  見抜かれた魂胆(★)

2020.4.4 題材および一部文章を修正しました。


 偽ハンナがミテュラに死霊兵を押し付け闘技場から姿を消した。

 ミテュラは死霊となり果てた多くの警備兵を相手取る。


 (もうっ! ティミスに繋がる手掛かりだったのに!)


 数だけの雑魚たる死霊兵を、半ば憂さ晴らしで殴り倒す彼女であった。




 *****




 一方、アシュラは途方にくれていた。

 カーリーが最後に別れを伝えたのはアシュラだけだった事が原因である。


 「カーリーさん、アシュラにばっかり酷いよ……」


 「ククルも最後にちゃんとお話したかったですぅ……」


 アシュラがうっかり説明した事で、2人はすっかりいじけてしまった。

 カーリーの最後の行動は、『師匠』としてではなく、『ひとりの女性』としての意味合いが強かった。


 だがその代償として、女性陣への配慮が抜けていたのだ。

 カーリーらしい話だが、残された者にしてみれば、たまったものではない。


 「フォルテュナ、ククル、2人にもごめんなさいって伝言を……」


 アシュラは彼女のフォローに徹するつもりだったのだが……


 「アシュラはいいですよね。最後に2人きりでお話ができたんですから!」


 「ククル達にだってお話したかった事があったんですぅ!」


 ……苦し紛れ過ぎて火に油だった。


 『あぁ、もうウダウダ面倒臭ぇな。女ってのはよ』


 (クロ、それ皆に聞こえてなくて良かったよ)


 『いろんな意味で油断は禁物よ、貴方達は……』


 そういって背後から来たのは、死霊を殲滅したミテュラであった。

 クロの言葉は、一定距離内では彼女に筒抜けなのだ。


 『げっ!! クソババア……様!!』


 『……それって誤魔化せてないからね?』


 ゴツンッとアシュラの頭部に拳骨をいれる。


 「あ痛っ!? 母さん、俺は何も……」


 「アンタタチ、コンナトコロデ何シテルノ?」


 ミテュラはブチギレていた。

 だがそれも当然だろう。戦場で悲劇に浸っているなど言語道断である。


 付け加えれば、ハンナの相手をミテュラに丸投げしたのだ。

 大切な人の死を目の当たりにしたとはいえ、戦場でこれはお粗末すぎた。


 「仮にも生死を懸けた戦いの最中、よく泣いていられるわね。私が逆の立場だったら、貴方達は3人ともすでにあの世行きよ」


 「あ……ご、ごめん母さん」


 フォルテュナもククルも、事の重大さに気がついたようだ。


 「本当にすみません、ミテュラさん……」


 「ご……ごめんなさいですぅ」


 だが彼女は3人の謝罪など素気無くあしらい、即座に行動を切り替えた。


 「今はこの場から離脱!! 急ぎ拠点に戻る!!」


 ミテュラはカーリーの遺体を乱暴に担ぎ上げ、元の通路へと走り出した。

 3人は黙って彼女の指示に従い、後を追いかけるしかなかった。




 *****




 「皆さん! ご無事でしたかっ!! 国王はどうなりましたか!?」


 拠点で迎えてくれたのは、元宰相のハンスだ。


 「宰相さん、只今戻りました」


 「ただいま、ハンスさん」


 「ただいまですぅ……」


 「皆さん? あの……ハンナは……ハンナはどうしましたか?」


 ハンスは3人の陰湿な雰囲気に、不安を覚える。


 「ただいま、宰相さん。説明はちょっと待ってくださいね」


 ミテュラは背負ってきたカーリーの遺体をそっと広間に寝かせる。


 ハンスは目を疑った。

 愛娘のハンナの姿がないだけではない。

 屈強を誇る騎士団長の姿を見れば、誰もが不安を煽られるというものだ。


 「カーリーに関しては後程お話します。ハンナさんに関しては……」


 ミテュラはこの日の出来事を全て話した。


 「おぉ……という事は、ハンナはアストライア城にいるのですね!?」


 「はい。おそらくは無事だと思います」


 「それでは、私が直接行ってもよろしいだろうか?」


 「大丈夫だと思います。魔王はすでにいませんし、影で動いていた連中もすでに撤収しているはずですから……ただ気を付けてくださいね」


 「ミテュラ殿、本当にすまないが、ハンナを探してこようと思う」


 「わかりました。身の危険を感じたら、すぐに戻ってきてくださいね」


 ハンスは踵を返すと、急ぎ拠点から城へと向かっていった。

 残されたのは沈痛な面持ちで俯いているアシュラ達3人とミテュラ。


 「さて……貴方達には幻滅したわ。殺し合いの場を何だと思ってるの?」


 3人はぐうの音も出ない。


 「クロから一部始終は聞いてるわ。魔王を倒すまでは良かったと思う。ただ最後の油断がカーリーの身を犠牲にした事、そしてまだ私が敵と戦っているにも関わらず、感傷に耽ってしまった事、そして敵地にも関わらず魔王の亡骸を前にしていた事……事の重大さを理解していない証拠よ」


 3人は沈黙しかできなかった。


 折角の初陣を勝利で飾れたのに、反省しか出てこないのが現状。

 だが、そんなミテュラの様子に、納得のいかない部分もあった。

 カーリーの死に関して、ここまで一度も悲しむどころか、気にしている様子すらない。

 アシュラはそれが気になり、反論覚悟で指摘した。


 「……母さんは、カーリーが……師匠が死んだ事を何とも思わないの!? 仲間の死を何とも感じないの?」

 「そりゃ悲しいわよ。でも完全に死んだってワケじゃないでしょ」


 アシュラ達は『何言ってんの?』と心でシンクロする。

 ミテュラの言っている事の真意が全く理解できないのだ。

 しかし彼女はお構いなしに話を続ける。


 「カーリーが使った魔法って『心意の門(スピリテュアルゲート)』でしょ? どこぞの獣人族が使う魔法としては有名な話よ? まさか知らないの?」


 「「「知りません(ですぅ)」」」


 ミテュラは眉間に皺を寄せ、『……嵌められたのね』と呟いた。


 「アシュラ、『心意の門(彼女の魔法)』を受けた後の顛末を……いや、直接聞いた方が早いわね」


 「直接って、カーリーの精神はもうここには……」


 「論より証拠ってね。アシュラ、背中を見せてごらんなさい」


 アシュラは魔王によってボロボロにされたプレートを脱ぎ捨て、ミテュラに背を向けた。

 アシュラの神名の証は、銀色の五芒星をベースに、その中心に黒い逆五芒星という異形のものだ。

 しかし、今背中の紋章は違うものに変化していた。


 銀色の五芒星の頂点の一角が、狼を催した紋章に変化していたのだ。


 「これは推測だけど、カーリーは狼人族だったんじゃない?」


 「え……あ、はい。そう聞いてるけど」


 「やっぱりね。移動速度は私と互角だし、匂いへの執着も相当な物だったわ。そして最後に心意の門……おおよそ読めたわよ、カーリーの魂胆が」


 3人には意味がわからなかったが、彼女戻る可能性に胸を膨らませる。


 「彼女が生き返る事はないけど、その魂は死んでないって事よ」


 「「「本当ですかっ!?」」」


 3人の顔に喜色が浮かんだ。


 「アシュラ、『心意の門(スピリテュアルゲート)』を使ってみなさい」


 「え……でもどうやって……?」


 「フォルちゃん、ククル、アシュラに寄って寄って」


 3人は不思議そうに首を傾げるが、ミテュラの言う通りにしてみた。


 「はい、そしたら2人はアシュラと手を繋いで。空いた手は私と繋いでちょうだい。アシュラは繋いだ手に魔力を込めて、詠唱しなさい」


 「え、でもあの時カーリーは手じゃなくて額に手を――」


 「いいから早くなさい。宰相さんが戻ってきちゃうでしょ」


 「わ、わかった。えっと……我が言霊に応えよ『心意の門(スピリテュアルゲート)』」



 アシュラが詠唱すると、彼の全身から青白い光を放たれた。

 繋がれた手から、3人も同じように青白い光に包まれていく。

 そして全員が輝きに包まれた瞬間、4人の意識が途絶えた。




 ~~~~~




 4人が同時に目を開ける。

 そこはカーリーと別れた真っ白に包まれた世界。

 すなわちアシュラの精神の中である。


 「真っ白で、不思議な温かさ……アシュラ、ここは?」


 「カーリーが言うには、僕の精神の中って聞いてる。クロも入り込めないとも言ってたけど」


 「アシュラさんの中……? とても居心地がいいのですぅ」


 フォルテュナとククルの問いにアシュラは答えた。

 その直後、ミテュラが突然大声を張り上げた。


 「カーリー! アンタ人の精神に何してくれてんの! 隠れてないで姿を現しなさい! もうネタはバレてんのよ!」


 『……ど……どーもー……』


 すると、アシュラの後ろからひょっこりとカーリーが顔を出したのだ。

 ものっすごく気まずそうな顔をしながら。


 「「「………………カーリー(さん)!!?」」」


 『……コンニチハ』


 一同唖然。ただひとりを除いて。


 「カーリー、その身を犠牲にして皆を助けた事には感謝しているわ」


 「ミテュラ…………」


 「でも、最後の最後に、やらかしてくれたわね!!」


 「ドウカ……ドウカオキヲタシカニ、オニガミサマ」


 「この駄雌犬がああぁぁぁ!!!」


 「ひいぃーーーー!! 申し訳ありませえぇーーーん!!」


 アシュラの心の中で、カーリーの断末魔の声が木霊した。







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