第33話 神ティミスの影(★)
2020.3.14
ちょこっと改稿しましたm(__)m
カーリーが洗脳から解放されたのと同時刻。
闘技場アリーナを囲う観客席でも、洗脳されていた女性や子供達が浄化の光を浴びた事で、カーリーと同様に洗脳から解放されていた。
洗脳が解けた事により、洗脳直前の出来事を思い出し、洗脳された自分の行動が“別の人間が自分の体を使っていた”ような錯覚を起こした女性や子供がパニックを起こし、大混乱となっていた。
そんな観客席の阿鼻叫喚が闘技場を包む中、ミテュラが魔王を挑発する。
「これで偽りの支持者はいなくなったわよ、魔王アスモディウスさん?」
アストライア国王を名乗っていた魔王アスモディウスは、祀りという計画を台無しにしたミテュラ、そしてアシュラ達に怒気をぶつける。
「おのれ……おのれおのれ! よくも余の計画を台無しにしてくれたな! 凌辱など凌駕する程の地獄を見せてくれる!! ハンナ、皆殺しだ!! この者達を惨殺せよ!!」
「……かしこまりました」
魔王の言葉に従うハンナが魔王から離れ、アシュラ達に歩き出す。
だがそれを阻むかのように、ミテュラが立ちはだかった。
「貴女の相手は私よ。せめて顔に傷痕は残らないようにしてあげるわ」
「大した自信ですね。ですが剣も持たずに勝てるとお思いですか?」
ミテュラはアダマンタイト製のナックルを両手に握り締め、殴り合いの喧嘩でもするかのような構えを取る。
ハンナはそれを見てレイピアを抜き、ミテュラに剣先を向けて対峙した。
「常識的に考えて、拳で剣に勝てるなどと甘いですね」
「戦いに常識なんてナンセンスよ、ハンスさんの一人娘さん」
「その拳が届く前に、全身を切り刻んで差し上げます」
「人の話はちゃんと聞くものよ。……ふんっ!!」
ミテュラは腰を沈め、さながら弓で矢を引き絞るような体勢から、右拳をハンナに向けて振りぬいた。
かつて神族の村でアーレスに放った拳圧による攻撃である。
ミテュラの右拳から放たれた拳圧は音速を超え、ドンッという重低音を発し空気を揺るがした。
ハンナは身の危険を感じ、咄嗟に両腕を胸の前で交差させた。
するとズドンッ! とハンナの両腕に重たい衝撃が走った。
「ぐうううぅぅぅ!!」
ハンナはあまりの衝撃に、踏ん張った両脚が地を引き摺り後退する。
受けた両腕は痺れ、右手から離れたレイピアは地に突き刺さる。
かつてアーレスの鎧を破壊し、重傷を負わせた拳圧。
それがこの程度で済んだのは、魔王の洗脳の力とは別の力によるのは一目瞭然。ミテュラの中にあった疑念が確信に変わり、見下すようにハンナをジッと見つめる。
「宰相から聞いた話通りなら、戦場に出た事のない軟な貴女の腕は折れてるハズよ。これは洗脳や魔法による肉体強化とは違うわよね。ここに辿り着く前の兵士たちの成れの果てといい、他に誰が動いているのかしらね」
「……チッ」
アスモディウスは聞こえない程度に舌打ちする。
「元々騎士でも冒険者でもない、戦う事を知らない彼女を洗脳したのが間違いなのよ。女性にしか洗脳する気がないふざけた拘りが仇になったようね。それで、ハンナさんは満足に戦えないみたいだけど、どうするの? アスモディウスさん?」
挑発を続けるミテュラにカーリーがいち早く反応した。
「油断するなよミテュラ! こいつは洗脳だけじゃないんだ!」
「カーリー、わかってるわよ。油断なんてものは」
「……しなくても殺されるのは貴様等の方だ」
ミテュラの眼前にアスモディウスが距離を詰めていた。
彼女の意識がカーリーに向いたほんの瞬間の出来事だったが、それでも走っても数秒は掛かる距離。これには流石のミテュラも驚きを隠せなかった。
「な、なんて速さなの!?」
「甘くみるなよ小娘。国王である前に余は魔王なのだ」
「ぐはっ!!」
巨漢から繰り出す至近距離からの拳に、ミテュラは両手でガードする。
しかしその力は軽々とミテュラを吹き飛ばした。
「母さん!!」
「「ミテュラさん!!」」
「くっ……なんて馬鹿力なの……それにそのサイズは何の冗談かしら」
アスモディウスが繰り出した拳は、まるで身体にそぐわないサイズに巨大化していた。
「冥土の土産に教えてやろう。余の名は色欲を司るアスモディウス。色欲こそ我が力の源である。客席にいた女子供、そしてハンナとカーリーを洗脳する事で、我が魔力は膨大に蓄える事ができた。これこそが、貴様等に勝ち目がない理由である!!」
怠惰を貪っていたアスモディウスは、ただ怠けていただけではなかった。
洗脳という能力は洗脳だけに非ず。都民の微々たる魔力も同時に吸い上げる事で、自らに蓄えていたのだ。塵も積もれば何とやら。アスモディウスはここにいる全員を倒せるだけの魔力量をすでに保持していると言っているのだ。
「そして貴様の推測通り、余とは別の魔王もまた動き出している」
「そんな重要機密、簡単に話しちゃっていいのかしら?」
「これから死にゆく者に話したところで、何の憂いもない。それに敵味方関係なく、余の邪魔をする者は排除するのみ! それが他の魔王だろうとな!」
「他の魔王ね。アナタ以外にも馬鹿な魔王がいるのね」
「余をアイツと同類にするな! ベルのヤツは……」
よほど勝つ自信があるのであろう、饒舌なアスモディウスはペラペラと情報を漏らす。ミテュラもここぞと言わんばかりに挑発する。だが……
『随分と口が軽くなったものだな、アスモディウス』
「……貴様、まさかハンナの身体に……?」
アスモディウスの言葉を遮ったのは、何か混ざり合ったような異様な声を発したハンナだった。しかもいつの間にかレイピアをアスモディウスの首元に突き付けている。
『ほいほいと魔王の名を出すのはどうかと思うのだが?』
「す……すまぬ」
『これだから協力などしたくなかったのだが……これもティミス様の為だ』
「ティミス? どういう事だそれは!」
「何故お母様の名前が……?」
ティミス様……この名に最も反応を示したしたのはミテュラとフォルテュナだ。
もうひとりの魔王とおぼしき者に操られているハンナが2人に視線を送ると、口角だけを上げて不気味な笑みを浮かべて喋り出した。
『貴様が噂に名高い鬼神、いや元勇者か。しかも小娘はティミス様の実子か……くくくっ面白い面子が揃っているではないか』
ハンナの姿をしたそれは、ミテュラとフォルテュナに強い興味を示した。
『アスモディウス、2人は生け捕りにせよ』
「……ティミス様には告げ口するでないぞ?」
『この後の結果次第だな。良い知らせを期待しているよ』
そういうと、ハンナから異様な雰囲気が霧散し、意識を取り戻したようだ。
「も、申し訳ございません国王陛下! 私は何故剣先を……」
「それよりも予定変更だ。そこの銀色の拳闘士と白金色の僧侶を捕縛せよ」
「かしこまりました」
ハンナはミテュラに向き直り、レイピアを再び構える。
ミテュラもそれに応じ構えを取った。
「ティミスが絡んでると知った以上、容赦しないわよ」
「この命に代えても、貴女を捕縛します」
ミテュラの拳とハンナのレイピアが神の如き速度を以て交錯した。
ハンナはその細剣から、カーリーに勝るとも劣らない突きを繰り出す。
それを紙一重で躱しながら、ミテュラは左右の拳で殴り掛かる。
「ハンナさん、貴女の出る幕はないわ、もうやめなさい!」
「私は陛下のお言葉を実行するまで……です!」
拳と剣が幾度となく交錯を繰り返す。
だが百戦錬磨のミテュラの方が、やはり上手である。
ハンナの振り抜きざまに、ミテュラは身を屈ませ懐に潜り込み、下から突き上げるような拳を放つ。ハンナは防御が間に合わず身を逸らしてかろうじで躱す。だが態勢を整えるには至らない。その間にもミテュラはまた懐に潜り込もうとする。だから剣でそれを防ぐ。
いわばハンナの防戦一方といった攻防である。
「ハンナさん、貴女……剣技習ってたんじゃないの?」
「それを貴女に教える義理はありません」
「全く、洗脳って面倒ね。いい加減ボコって終わらせるわ!」
「その言葉、そっくりお返しします」
一度距離を置いた2人は息を整え、防御無視のガチ勝負に入った。
*****
「助けに入りたいけど、これは厳しいな」
『兄弟、クソババアの方に余計な手出しすんなよ?』
「わかってるさ、こっちはさっさとあのクズ魔王をぶっ倒す!」
『賢明だな。さっさとおしまいにしようぜ!!』
アシュラがアスモディウスに向けて双剣を構えた。
アスモディウスはすでにアシュラ達4人に歩を進めてきている。
「フォルテュナ、ククル! 支援を頼む! 師匠は後ろに下がってて!」
「「わかりました(ですぅ)!」」
「アシュラ、すまない……足手まといになってしまった」
カーリーは鎧もパルシュも失った以上、攻撃に参加する事ができない。
申し訳なさそうな彼女に小さく「大丈夫です」と頷くと、即座にアスモディウスに攻撃を仕掛けた。
「すぐにでも決着をつける! ハンナさんを返してもらうぞ!!」
「彼の者に魔を倒す力を!『聖属性付与』」
「四元素・焔の大砲! むちょーーっ!!」
アシュラが一足飛びにアスモディウスの懐へと走り出し、フォルテュナはアシュラの双剣に支援魔法の聖属性を付与。ククルは注意を逸らす意味も含め火の塊を撃ち放つ。
「ぬうぅぅ! 小癪なガキ共が!!」
アスモディウスは両手を肥大化させると、ククルの砲撃を左腕で殴り逸らす。その隙を見てアシュラが懐へ潜り込むと、聖属性を付与した双剣が左腕を切り刻む。
「ぬがああぁぁぁ!!! おのれ忌み子如きがぁぁ!!」
『兄弟、避けろ!!』
「くっ!? ぐあぁぁ!!」
双剣は攻撃特化した剣戟。防御はまるっと無視したスタイルの為、相手の攻撃も受けやすくなってしまう。玄人ならば対処もできるが、アシュラはまだ経験が浅い為、それを回避する技術まだ未熟である。
アスモディウスの左腕を無力化した代償に、アシュラは空いた背中に右拳をモロに食らい、フォルテュナ達の元まで吹き飛ばされた。
「ぐぅ! 大丈夫か、アシュラ!!」
カーリーがアシュラの体を受け止める。装備がなくとも、伊達に騎士団長を名乗ってはいないのだ。
「す、すみません師匠!!」
「私の事はいい。それよりもあの化け物を何とかしないとな」
さっきの連携だけでアスモディウスの左腕は、ククルの砲撃とアシュラの剣戟によってズタボロになっていた。
「小童共が……調子に乗るでないぞ……」
怒りに打ち震え、鬼の形相で魔王が近づいてくる。だが洗脳以外、能力的に警戒するのは、その巨大な体躯による一撃の威力のみ。4人はそれだけに注意点を置いていた。
「ククル、もう一度いくぞ! フォルテュナ、支援を頼む!!」
「「はい!!」」
再び一気に距離を詰めようとアシュラが地を蹴ろうとした瞬間、クロが声を張り上げた。
『ちょい待ち! 魔王の魔力が膨張してやがる!!』
魔王が動きを止め、ワナワナを身体を震わせていたのである。
すると黒い霧のような魔力が全身から溢れ出し、その巨体を覆いつくした。
『……変身とかしそうじゃねぇか?』
「変身? どうして?」
『考えてみろ。さっき腕が肥大化したろ。って事はだ……』
「全身に変化が起きるって事か!」
「これはチャンスなのですぅ! 四元素・嵐斬! ちぇけらーー!」
アシュラがクロとの話に意識を向けている間に、ククルが魔王に攻撃を仕掛けた。
風と水の混合魔法、わかりやすく竜巻に氷の刃を混ぜた攻撃魔法が、魔王の巨体を包み込んだ。
「これでボロボロになるですぅ!!」
息まくククルだったが、氷の竜巻の中から魔王の声が聞こえる。
「ククク……ゲヒャハハハハハ!! これが攻撃とは片腹痛いわ!!」
「んな!? 嘘ですぅ!?」
氷の刃を宿した竜巻をもろともせず突き破り、魔王がその姿を現した。
「捕縛など知った事か!! 全員この場でミンチにしてくれる!!」
魔王は巨体がさらに一回り大きくなっている。
筋肉粒々とした体形が黒い体毛に覆われ、厳ついオッサン顔は一本の角が生えた牛の顔に。強いて言うなら、漆黒のミノタウロスというべきであろう。
そして両手には巨大な斧が握られていた。
『これはこれは……黒毛の牛か? 焼いても不味そうだな』
「クロ……今回ばかりは冗談言ってる場合じゃないぞ?」
少し離れた所では、まだミテュラとハンナが熾烈な戦いを繰り広げている。
「ぐふふふ……余の力、存分に味わうがよい」
死闘はいよいよ佳境へと突入する。
今回の改稿は大幅な変更はありません。
一部会話と誤字の修正のみとなっております。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




