第29話 カーリー、捕まる(★)
2020.2.24 改稿しましたm(__)m
詳細は後書きにて。
「我は騎士団団長カーリー・ブラフマンだ。忌み子との面会を求める」
地下牢獄前に着いたカーリーは、警備兵に名乗りを上げたのだが……
「申し訳ございません。国王様の命により、『お祀り』が終わる迄は、誰一人として罪人との面会をお断りしております。即刻お引き取り願います」
処刑執行日まで人の目に晒したくないという意味では理解もできるが、他の囚人だっている。そして最も怪しいのがハンスの消息だ。確証はないが、ここに幽閉されていると直感的に感じていた。
「馬鹿を言うな。面会すら許されないというのか? 相手は青年ひとりだぞ?」
「そう言われましても、国王様から受けた厳令です。お引き取り願います」
「クズ国王の言う事など知った事か。私は忌み子に聞きたい事があるだけだ。それが済めばすぐに帰る。悪いが通させてもらうぞ」
「国王様に対して不敬な! それにここを通す訳にはいきません!」
カーリーはイラッとして無理矢理通ろうとする。しかし警備兵は頑としてそれを拒み続ける。繰り返す押し問答に、彼女は腰に差してあった愛剣パラシュを抜剣し、警備兵へと切っ先を向けた。
「ひっ! 騎士団長ほどのお方が何をするのですか!!」
「何もクソもないだろう? 塞がれた道を開拓するだけの話だ」
「何という暴挙を……ま、まさか謀反でも起こす気か!?」
「どうしてそうなるんだ? ……あぁもうウザい。黙れ三下奴」
感情の沸点が低いカーリーは、すでに我慢の限界に達していた。
彼女は瞬時に警備兵の背後を取ると、パラシュではなく全力の拳骨を後頭部にお見舞いしたのだ。
「ごひゅ……」
警備兵が白目を剥いて、糸の切れた人形のように倒れた。
「……は!? なんで頭が凹む!? それに手応えが全然……ん?」
自身の拳に違和感を感じたカーリーが、殴った警備兵を見る。
すると、その全身から黒い煙が立ち上り、身体はみるみる干乾びて、最後はミイラになり果ててしまった。
「これは一体……アンデット? いや、違うな」
結局何だったのか全くわからなかったが、少なくとも相当に厄介事になっているのは間違いないと判断したカーリーは、ミイラ化した警備兵の腰にぶら下がっていた鍵を取り、地下牢へと入っていった。
ガッシャン、ギギギッ―――
地下牢の錆びついた鉄の扉を開くと、1本の通路が目の前に広がる。
その左右には鉄格子の牢獄が奥まで続いていた。
「囚人が誰も居ない……? 明らかに何かおかしいな」
カーリーは左右の牢獄をひとつひとつ見ながら、鎧の擦れる金属音を立てながら奥へと歩みを進めた。
(とりあえずアシュラを見つけなくては……ん、いたいた)
ようやくアシュラに気がついたカーリーはホッとしてアシュラの監禁されている右側の牢獄へと向かった。
「アシュラ、生きてるか?」
「あ! 師匠! 俺の事よりそっちの宰相を助けてください!!」
カーリーがアシュラに促され、アシュラとは反対側、左側の牢獄に目を向けると、そこには血塗れのハンスが倒れていた。さすがのカーリーもこれは想定していなかった。
「ハンス!? これは……一体何があったんだ!」
カーリーはパラシュで瞬く間に鉄格子を切り壊し、急ぎハンスを抱き起こした。
「おぃハンスしっかりしろ! 今助けてやる!」
ミテュラから預かっていた回復薬の小瓶を開け、半分を直接傷口に、残り半分を口に突っ込み無理矢理に飲ませた。
すると傷口が淡い光を発し、みるみる塞がっていく。だが流石に左手は元には戻る事はなく、切断面は新しく皮膚で覆われた。
「うぐぅ……ガハッゲホッゲホッ……カ……リー……か?」
「よぅ宰相閣下殿。傷は塞いだが、少しじっとしてろ」
ハンスを寝床へと移動させ、もうひとつ回復薬を飲ませた。
生命力も戻ってきたのだろう、土気色だった顔色に血色が戻ってきた。
そして意識がハッキリしてきたハンスがゆっくりと喋り始めた。
「カーリー騎士団長、すまん助かった。だが、どうしてここに?」
「まぁちょっと……な。それよりも、一体何があったんだ?」
ハンスは、大広間での顛末を全て話した。
娘のハンナが国王の護衛として待機していた事、父親のハンスの事も忘れ攻撃された事、そして忌み子として処刑される事。どれもまさかの出来事に、カーリーもアシュラも唖然とした。
「なるほどなぁ……そりゃ娘さん、間違いなく洗脳されてるだろう」
「そうとしか考えられん……でなければ、ハンナが私を攻撃するなど……」
ハンスは娘の姿を思い出し、項垂れた様子で話を続けた。
「そもそもハンナには剣技など習得させていない……だが私の左手をたった一振りで切り飛ばしたのだ。クズに意識操作されているのかもしれん」
「『お祀り』の生贄候補に意識操作に剣技か……面倒だな」
カーリーはアシュラに振り向き、支持を待つ。
アシュラはそれだけで、カーリーの意図を理解したようだ。
たった数日間の師弟とはいえ、意思の疎通はお手の物だ。
「皆と合流して、態勢を立て直すべきだと思います」
「私も同感だ。作戦は中断、ミテュラ達と合流しよう」
ハンスは2人のやり取りが理解できず、露骨に混乱していた。
「態勢? 作戦? どうして忌み子が……これは一体どういう事だ?」
「すまんなハンス、説明は後回しだ。まず先にここを出よう」
カーリーはアシュラに鍵を渡し、ハンスを担ぎ上げ、廊下を戻る。
鍵を開けたアシュラも、カーリーの補助になるよう警戒しながら横を歩く。
誰もいない地下牢に3人。鳴り響く足音が不気味に感じられた。
「気味が悪いですね……」
「まったく……あのクズ国王は何を企んでんだか……あ、そうだアシュラ」
もう少しで出入口という所で、カーリーがアシュラを呼び止めた。
「これをお前に渡しておく。これは『収納石』って言ってな。所持品を入れられる特別製のペンダントだ。この中にお前の剣と装備、それと小物を少々入れてある。出し入れする時は握って願うだけだ。簡単だろ?」
そういうと、艶のある黒い宝石をあしらったペンダントをアシュラに手渡した。
「師匠、こんな凄い物貰えませんよ!」
「馬鹿、預けるだけだ。後で装備出したらちゃんと返せよ?」
「そういう事でしたら、一旦預かりますね」
「褒美は匂いで返してくれな♪」
「それがなければ、凛々しくて恰好いいのに……」
最後は残念に終わるカーリーに、アシュラは本当に残念でならなかった。
*****
地下牢出入口を抜けたアシュラ達は、城の正門に向けゆっくりと歩を進める。
一度人気のない物影に隠れると、カーリーはハンスを下ろす。
「アシュラ、ハンスを頼む」
「逃げ出すなら師匠が担いでた方がいいんじゃ……」
「荷物持ちは男の役割って相場は決まってるんだよ」
「宰相を荷物扱いするって師匠くらいですよ?」
「知るか。それにな、お前と宰相がここにいる事自体が問題なんだよ。誰か居ても、私なら怪しまれずに済むだろ。人質は人質同士でちちくりあってろ」
「チチクリ合う事以外は同意します」
アシュラとハンスは、地下牢入り口の警備兵の荷物置き場にあったローブに身を包んだ。
「幸い、まだ地下牢の事には誰も気づいていない。私が先導するから、すぐ後ろを黙ってついてこい。堂々とした正門から出た方が怪しまれん」
「わかりました」
そういうと、カーリーがいつもの堂々とした面持ちで城内を歩き始めた。
アシュラもその後ろを張りつくように歩き出した。
(……よし、このまま正門を抜けられれば……)
すれ違うメイドも、賓客らしき人も、騎士団長たるカーリーに対して軽く会釈するだけ。騎士団長としてのこれまでの戦歴、そして噂通りの豪胆さに、誰もが臆したかのように避けていった。
3人はこれなら大丈夫と安堵に包まれる。
だが、やはりそううまくいくはずもない。
あと少しで正門を抜けようとしたその時だった。
後ろから、ねっとりと纏わりつくような声が城内の広い空間に響き渡った。
「これはこれはカ~リ~騎士団長殿ではないか? 我がアストライア城まで足を運んでおいて、まさか余に挨拶もせず帰路に着くのではないだろうな?」
カーリーは足を止め、声の主を見る。
さすがに国王を無視して出ていく事はできなかった。
「……アストライア国王陛下」
異様な威圧感に、額からは汗が滲み出す。
そして脳内では危険を知らせる警鐘がけたたましく鳴り響いていた。
「はて、後ろの者達は君の部下かね? 余を前にしてフードを取らぬとは何と不敬な……そのローブを脱ぎ、余に平伏せよ」
国王には、すでに全てバレている。
普段あまり人前に出ない国王が、意味もなく出てくるなど考えられない。
あまりにもタイミングが良すぎるのだ。
だが幸いというべきか、国王以外、今この場には誰もいない。
国王がいれば護衛も当然ついてくるはずだが、それがいないのだ。
カーリーはそれを好機と捉え、アシュラ達に小声で逃走を促した。
「(私が隙を作る。アシュラは迷わず逃げろ)」
「(それじゃ師匠が……)」
「(私は大丈夫だ。怠惰を貪るクズ如きに後れを取ると思うか?)」
「(いえ、思いませんけど……嫌な予感がするんです。ここは一緒に)」
アシュラが最後まで言葉を発する前に、カーリーはパラシュを抜剣し、国王に向かって突進した。
「『クロ』、城を抜けて『鬼神』を呼ぶんだ! 頼んだぞ!!」
『ふん、言われずともそのつもりだ。後は任せときな』
クロの声はアシュラ(とミテュラ)にしか聞こえない。
だがこの時のカーリーには、クロの声が聞こえたような気がした。
「はあああああああぁぁぁぁぁ!!」
カーリーは愛剣パラシュを国王に全力の一閃。
彼女の一撃は、誰の目にも止まらぬ速さを以て国王に襲い掛かった。
キィーーーーーーン!
「この一撃を止めるだと……? 貴様何者だ?」
「ハンナと申します。以後お見知りおきを」
しかし国王に届く手前で、ハンナによって阻まれてしまった。
だがカーリーは剣先を滑らせ、すかさず国王の顔を狙う。
ガキイィィィィン!!
パラシュの切っ先が国王の顔ギリギリの所で止まった。
カーリーのそれを止めたのは、やはりハンナである。
「貴様がハンナか……本当に忌み子の容姿そのままだなっ!」
「親不孝者? 私に親などおりません」
「んな事どうでもいい! 用があるのはそこの国王だっ!」
「無礼な発言は許容し兼ねます」
「ったく、ずいぶん余裕じゃねぇか……だが舐めんなあぁぁぁ!!」
「……ぐうっ!?」
両者の剣が火花を散らし拮抗する中、カーリーは空いた手でハンナの腹部に掌底をくらわせる。怯んだハンナの隙をついて、彼女は国王に向け突きの連撃を見舞った。
「剣だけが武器じゃねぇんだよ! もらったあぁぁ!!」
再びパラシュが国王の顔を捉える。
だがしかし、剣先が国王の顔を貫く事はなかった。
手応えはある。だがそれは顔ではなく国王の左掌だけだった。
「な……バ、バカな!?」
カーリーの会心の突きは国王の左掌を貫いたが、額に届く事なく勢いを止めた。
全体重を乗せた一撃が掌で止められた事に、彼女は動揺を隠しきれずにいる。
そんな様子を見た国王はニヤリと笑みを浮かべ、カーリーを舐め回すように見る。
「ほぅ……? よく見ればお主、人族ではないな?」
国王の問いに、カーリーは一瞬怯んでしまう。
これが致命的な隙となってしまった。
「わ、私は人族だっ! 何を言いがふぅ!?」
体勢を立て直したハンナが、カーリーの鳩尾目掛けて肘を入れたのだ。
その一撃で気を失ったカーリーは、そのまま国王の前に倒れこんだ。
「国王陛下、守り切る事ができず申し訳ございません」
「相手は騎士団長だ、仕方あるまい。それよりもこの狼藉者を監禁しておけ」
「御意」
ハンナはカーリーを担ぎ上げると、そのまま地下牢へと連れて行った。
国王は玄関口に少し歩を進め、必死で逃げるローブ姿のアシュラ達を傍観する。
警備兵に追われているものの、おそらく撒かれるだろうと踏んだ国王は、興味が失せたように王室へと踵を返した。
「どうせまた来るのだ。それなら衆人環視の中で殺せば良かろう。祀りが楽しみになってきたな……ククッゲヒャヒャハハハハハッ!!」
広い城内で、国王の下卑た笑い声がいつまでも木霊していた。
今話の改稿点につきましては……
状況の変化点、および会話部分の繋がりの悪さを修正しました。
やはり改めて見ると、会話や説明が微妙におかしいものですね。
もしお気づきの点がありましたら、遠慮なくご報告いただければ幸いです。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




