第28話 不穏の前触れ(★)
2020.2.23 改稿完了しましたm(__)m
アストライア城地下牢獄。
神教国内で大罪を犯した者のみを収容する施設がここにある。
「ここがお前の最後の住処だ。せいぜい余生を楽しめよ」
警備兵が乱暴にアシュラを牢獄へと押し込め、鉄格子に鍵を掛ける。
そしてそのまま地下牢から出ていった。
「忌み子ってだけで何もしてなくても大罪人扱いか……酷いもんだ」
アシュラは、住処と言われた牢獄の中を確認するように眺める。
大人が1人寝られる程度の寝床が1つと、雪隠が部屋の片隅にあるだけ。
雪隠は床に穴が空いていて、そこには小さな水路があり、水が流れている。
監禁された以上、する事はひとつ。
寝床に身を投げたアシュラは、目を瞑り神経を自分の内側へと集中させた。
(クロ、起きてる?)
『おぅ、とっくの昔にな。別段話す事もねぇから静かにしてただけだ。それにしても、随分と乱雑に扱われてやがるなぁ。あっはははは!』
本来であればクロと称する『魔王の欠片』の存在は、脅威を兼ね備えた不穏分子でしかない。だが独り身となったこの場では、これ以上ない心強い存在でもある。
(笑い事じゃないっての。それよりクロ、ちょっと話があるんだ)
『ほぅ、愛の告白は勘弁してくれよ? 俺ぁ女にも男にも興味ねぇんだ』
(俺もクロは勘弁だよ。それよりさっきの国王の後ろ……誰かいた?)
『気がついてたのか? 人の気配がわかるようになったんかよ』
アシュラとクロは、ハンナの存在に気がついていた。
だが姿を現さなかった為、護衛が潜んでる程度の認識だったようだ。
(気配はね。ただわかりにくいっていうか……)
『人の気配なのは間違いねぇよ。だが人っぽくない感じでもあった』
それはハンナが洗脳されていたからだろう。だがクロはそれに違和感を感じていた。
(そこまでは俺にはわからなかったな。でも母さんの言う通り『お祀り』の時は警戒しないと。何か嫌な予感がする)
『それは同感だ。俺もてめぇに死なれると困るからな。気をつけとくか』
(ただの公開処刑で済めばいいけど……あれ? 誰か来る。看守かな)
アシュラは意識を表に戻し、寝ているフリをしながら、警戒心を強めた。
「おらっ、さっさと歩けやこの大罪人がっ!!」
「こんなんさっさと殺せばいいのにな。ホント面倒くせぇ」
「……ぅ……ぁ」
アシュラが投獄された最奥の牢獄。通路を挟んだ正面の牢獄に立ち止まったのは、2人の警備兵と、先程まで玉座の間まで一緒にいたハンスだった。しかも喉元から大量に出血しており、衣服は血みどろとなっていた。
「宰相閣下殿、こちらになります。どうぞごゆっくり~」
「このまま野垂れ死ぬだろうけどな。はははははっ!」
警備兵は皮肉めいたセリフを吐くと、ハンスをゴミのように放り込み、さもすっきりしたように地下牢から出ていった。
(ど、どういう事だ!? どうして宰相が血塗れに……)
『右手が切断されてるな。喉元にも創傷がある。ありゃ声出せねぇな』
アシュラはあまりの凄惨さに血の気が引いた。
人が重度の傷を負っているのを見るのは初めてだったのだ。
『おいおい、しっかりしろよ兄弟。この程度は慣れろ』
(あぁ、すまない。……なぁクロ、宰相の傷なんとか出来ないか?)
『はぁ!? 無茶言うな! 俺は治癒なんてもんは専門外だっ!』
(だよなぁ。でもあのままじゃ……)
『そう長くはねぇだろうな。ま、ご愁傷様なこった』
警備兵の態度から、宰相は明らかに被害者だと推測したアシュラは、彼を何とか助けられないかと、必死に知恵を振り絞るのであった。
*****
一方その頃――
アストライア城のすぐ正面、『貴族街区』にある一軒の小さな家にいた。
言うなれば、ミテュラの隠れ家だ。城のすぐ傍なのがミテュラらしい。
「アシュラ、大丈夫かしら……」
「アシュラさんの事ですから、きっと大丈夫ですぅ」
「……そうよね、さっき離れたばっかりだもんね」
「その通りなのですぅ」
やはり最も心配していたのはフォルテュナだ。
アシュラはクロの能力を得ている為、万が一戦闘する事態になっても大丈夫だろう。しかしそれでも不安なものは不安なのだ。それがクズ国王のすぐ傍なのだから、尚更心配になるのも仕方ない事だった。
「せめて回復薬でも持たせとけばよかったな……」
「でも警備兵に見つかれば取り上げられちゃうかもですぅ?」
「それもそっか……」
そんな2人の様子を見兼ねたミテュラが、カーリーに提案を出してみた。
「ねぇカーリー、地下牢って面会は可能なの?」
「どうだろうな……こればかりはハンスに聞いてみないとわからん」
「忌み子を発見した功労者って建前があれば何とかなると思わない?」
「うぅむ……確かになぁ」
フォルテュナとククルも期待に満ちた瞳でカーリーを見つめていた。
「カーリーさん、何とかお願いできませんか?」
「差し入れくらい許してもらえそうな気もしますぅ」
3人に見つめられたカーリーは、その迫りくる圧迫感に耐える事ができなかった。
「あぁもうわかった! わかったから! 仕方ない、ちょっと行ってくるわ」
「「あれ? 私達は?」」
「大して時間も経過してないのに面会とか逆に怪しまれるだろ。まずは私だけで様子を見てくる。ハンスには何とか取り計らってもらえるよう話しておくから、今日のところは我慢しろ」
しょんぼりと項垂れる2人だが、ミテュラは納得顔で頷いた。
「じゃあカーリーお願いね。それと、念の為に回復薬とか持ってって」
「あいよ、湯浴みしたかったんだが仕方ない。ちょっと行ってくる」
密かにアシュラの匂いを補給するチャンスだ……などとカーリーが下心満々いるとは露知らず、3人は期待を込めて送り出した。
*****
「ハンス、居るか? 入るぞ!!」
カーリーはいつものように宰相室へと足を運び、いつものように反応を待つことなく扉を開けた。
「ハンス、聞きたい事が……あん?」
カーリーは一歩踏み出した所で立ち止まった。
宰相室にいたのはハンスではなく、王室を彩るメイド達。
その誰もが、慌ただしく部屋を片付けているのである。
(掃除じゃない……これじゃまるで後始末……っ!!)
カーリーの背筋に悪寒が走った。直感的に嫌な予感がしたのだ。
「おいメイド! ハン……宰相はどうした!?」
「宰相……ハンス様は国王様の命により、宰相の任を解かれました。私達は宰相室の私物を片付けるよう託っております」
「は? 何故だ?」
「申し訳ございませんが、理由は伺っておりません」
「(チッ……先手を打たれたか)誰か、理由を知る者はいないのか?」
カーリーは他のメイド達から聞き出そうとしたが、どのメイドも知らぬ存ぜぬの一辺倒。結局、何の情報も得る事はできなかった。
(ハンスは殺されたか……いや、地下牢の可能性もあるな)
カーリーは宰相室を出ると、急ぎ地下入り口へと向かう。
(これは下手するとハンスの娘も危険だな。忌み子の公開処刑ってヤツも相当に厳しい事になりそうだし……ったく、アシュラには責任取ってもらおうかな)
先の不安をアシュラに擦り付けるカーリー。
それは暗にアシュラ達と共に過ごす未来を考えているようなもの。
しかし、彼女の未来は想像もつかない事態になろうとは、誰も知る由もなかった。
今話の改稿は、少し修正を加えた程度の変更です。
改稿前とさほど違和感なく……何が変わったかわからないと思います。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




