第22話 “二心同体”の兄弟(★)
2020.2.4
改稿に伴い、タイトルを変更させていただきました。
「母と兄弟」から「“二心同体”の兄弟」となっております。
『魔王の欠片』と呼ばれた黒眼のアシュラが、ミテュラを忌々しそうに睨む。
「『魔王の欠片』? 俺はアシュラだ! 早くこの拘束を解いてくれ!」
「あらあら、誰がアシュラだって? 下手な演技は見苦しいわよ?」
ミテュラが横たわった状態で拘束された『魔王の欠片』を見下ろす。
「チッ、まぁいい。こんな拘束なんざ自力で破壊して……? 外れないだと!? ぐっぬううぅ……そんなバカな!?」
「バカは『魔王の欠片』だよ。それはアシュラの身体だって事、忘れてない?」
「アシュラの身体?…………まさか、魔力純度か!」
魔力純度とは、そのままの意味で、魔力の純度を指す。純度が高い程、使用する魔法の効果が増す。すなわち、魔力純度によって優劣が決まるといって過言ではないのである。
ちなみにアシュラは鍛練で練度こそ高いものの、純度に関しては、魔法に特化したフォルテュナには遠く及ばない。
「その通りよ。魔力を使わない近接戦闘を続けてきたアシュラの魔力純度が、フォルちゃんの魔力純度を越える道理がない。そもそもの資質が違うのだから。だから、どれだけ束縛に抗おうとも、破壊なんて無理無理。狸寝入りしてないで、さっさと動き出せばよかったね、おバカさん♪」
「ババア……てめぇ気がついてたのか!」
「瞳が黒くなってる時点でね。それと、ババアじゃないからね」
「……くそがっ!!」
「「「………」」」
いがみ合うミテュラと『魔王の欠片』。この2人に対し、他の3人は状況についてこれずにいたが、話が途切れたタイミングを見計らい、フォルテュナがうまく割り込んだ。
「あの……ミテュラさん、アシュラは大丈夫なのでしょうか?」
「えぇ。『魔王の欠片』が潜んでた心の奥深くに囚われてると思うわ」
「だったら早く助けないと!!」
「フォルテュナさん、気持ちはわかるけど、少し時間をちょうだい?」
「そ、それは構いませんけど……何かするのですか?」
『魔王の欠片』を放置して、ミテュラは3人へと向き直る。
「皆、こうなったのは全部私の責任よ……本当にごめんなさい」
深々とお辞儀するようにして、ミテュラが謝罪した。
いつものふざけた様子とは違う。3人は困惑した様子だが、最も付き合いの長いカーリーがミテュラに切り返す。
「それは私達に掛ける言葉じゃない。アシュラ本人に直接言うんだな」
「わかったわ。それでもやっぱり……ごめんなさい」
すると、ミテュラは再びアシュラに向き直り、突然声を張り上げた。
「アシュラ聞いて! 貴方が私達の元に戻ってくると信じてるわ!」
「……ババア何言ってんだ? 野郎はもう二度と出てこねぇ。この俺様がいる限りな」
「欠片風情が黙ってなさい! 私はアシュラに話掛けてるのよ!」
ミテュラは『魔王の欠片』に対して最大限の威圧を掛ける。束縛によって動く事の出来ない『欠片』は、正面から威圧をもろにくらい、言葉を失った。
「早かれ遅かれこうなる事態は予想していたわ。だから『魔王の欠片』対策もすでに用意してあるの」
すると、ミテュラは腰に差していた小刀を鞘から抜いた。
だがその小刀には刀身が無い。透き通るような石がひとつ宝飾された柄のみ。
「これは『真実の小刀』という神具よ。見ての通り刀身がないから、身体に刺しても痛くもない。でも邪悪な心を持つ者にはちゃんと刺さるの。直接精神にね」
『魔王の欠片』はそれを見て戦慄する。少なからず自分は邪悪だという認識をしているのだろう。そんなものを刺されれば、自分は消滅する可能性があるのだ。
「なんだその出鱈目な小刀は!? ババアてめぇそれを刺そうってのか!」
「当然よ。この小刀は『魔王の欠片』を排除する為のものだし」
「だがアシュラも心に闇を持っている! 刺せば大事な息子の精神もタダでは済ままねぇんだぞ!?」
「そうね、アシュラも消える可能性を秘めているわ。でも私は息子を信じてる」
「正気の沙汰じゃねぇ! おぃそこのガキ共! こいつを止めろ!!」
『魔王の欠片』は何もできないまま消滅する事に恐怖した。だから助けを求める相手が敵だろうと関係なかった。結果的に助かればいいのだ。だがその期待は露と消えた。
「私は、ミテュラさんを……アシュラを信じています」
「ククルも、ミテュラさんとアシュラさんを信じるですぅ!」
「だな。私もだ。だから戻ってこい! アシュラ!」
『魔王の欠片』は唖然とした。まるで茶番劇でも見ているようだった。
「……くくくっ……あっはははは! 何だてめぇら!? 他人を信じるだ!? 信じる事ができるのは己の力だけだ! 信じるなんてそんな薄っぺらいもんに縋るたぁホント笑っちまうぜ! だったら精々最愛の者がこの世から消えるのを見ておくんだなぁ!!」
『魔王の欠片』が言い放ったそれは、誰にも信を置けない者の強がりにも聞こえるものだった。
ミテュラだけではない。フォルテュナもククルもカーリーも、彼の言葉の裏に隠れた感情が見えたような気がした。
「『魔王の欠片』、アナタにも教えてあげる。これはアシュラとアナタが『共存』する方法でもある。己が信じるのは己の力だけ……その気持ちもわからなくもないけど、命ある者は誰もがひとりで生きていくなんて傲慢でしかないの。この刀を刺す事で、アナタは元居た闇に引き戻されるわ。そこでアシュラとよく話合いなさい。それが私からの愚息へのアドバイスよ」
そういうと、ミテュラはそっとアシュラの胸に『真実の小刀』を突き立てた。
~~~~~
(母さん……)
アシュラは闇の中から、外のやり取りを見ていた。
小刀を胸に突き刺す前のミテュラの言葉の真意を、アシュラは的確に理解しながら、微笑んでいた。
(愚息って……母さんも意地っ張りだな)
『魔王の欠片』が、どうして自分の心にいるのか結局聞いてはいないが、何となく察しがついていた。
(魔王と対峙した時の事……だよな)
ミテュラが過去の話で触れていた“呪術”という言葉。
ひとつは『厄反射』。
もうひとつは、話が長引くといって先延ばしにされていた。
(もうひとつの呪術こそが『魔王の欠片』なんだ。そして俺が生まれた時にその呪術が移った……と考えるのが一番しっくりくるよな)
そんな事を考えていると、闇の中から『魔王の欠片』の声が聞こえてきた。
『……よぅ、兄弟。まさか……こんなすぐに会えるとはなぁ』
(外の様子は俺も見てたよ。母さんを相手するには早過ぎたな)
『…………クソが』
闇の中に響くアシュラと『魔王の欠片』の声。だがそれはミテュラと対峙する前とは全く逆の立場へと変わっていた。アシュラはミテュラ達4人の気持ちに触れ、胸が温かさに満ちていた。『悪魔の欠片』は、すでに息絶え絶えといった様子である。
『せめて兄弟を道連れにと思ってたんだがな……』
(外の様子はずっと見てる事しかできなかったからな。逆に皆を見てて落ち着けたよ。やっぱり母さん達を信じて良かったってな)
『っざけんな! 何が信頼だ! てめぇも己の力が無かったから、長い間苦しかったんだろうが! 力が無かったから、強くありたかったんだろうが!』
(そうだな、信じるなんて言葉が陳腐にさえ感じた事もあった。信じられるのは自分だけだって。でもそれは間違っていた。力だけで生きていくのは傲慢だ……って母さんも言ってたっけか)
アシュラは、自分が忌み子だと思っていた時の事を思い出していた。
フォルテュナの笑顔、手の温かさ、傍にいてくれた優しさ、一緒に囲う食卓の楽しさ……そして村から姿を消した自分を探してくれたフォルテュナとククルの気持ち、それを気づかせてくれた母親の言葉、カーリーの厳しさも……その全ては『孤独』では得られないものばかりだった。
(それに、君もまた俺に優しさを教えてくれたひとりだ)
『俺が優しいだと!? 馬鹿も休み休み言え! 俺がいつそんな……』
(いつ? 俺と君が直接話したのは最初の魔物との戦いだったよな? あの時、どうして僕を助けてくれた?)
『それは兄弟に死なれちゃ困るからだ!』
(だったらあの時、どうして俺の代わりに表に出なかった? 俺の心は闇に沈みかけていた。生きる事を諦めてさえいた。俺に力を貸さなくても、自力で俺の代わりに外に出れたはずだろ?)
『…………』
(君は俺を信頼してくれた。甘ちゃんとか言いながら、その力を貸してくれた。だから俺は生き延びる事ができた。君の信頼に僕は応えられた……そう思ってる)
『……はぁ、そういや何であん時、俺が表に出なかったんだろうな』
実のところ、『魔王の欠片』はそうした理由に気がついている。
ミテュラの中にいる時間、そしてアシュラの中にいる時間、本体から離れたこの500年で自分が2人の心に浸食されていたのだ。暴力という殺伐とした環境のない中で、いつしか心地よさを感じてしまっていた。そしてそれを自覚してしまった。そして最後のミテュラの言葉を思い出す。
―――アシュラとよく話合いなさい。それが私からの愚息へのアドバイスよ―――
『愚息……ねぇ』
(え?)
『な、なんでもねぇ!!』
2人との時間の心地よさを自覚した途端、愚息という言葉と共に羞恥心が湧いてきた。
(それで、どうするんだよ?)
『どうするってどういう事だ? 俺はもうあの小刀の効果で終わりだ』
(本当にそう思ってる? だったらどうしてまだ君は生きてるんだろうな? 刺し傷は? 何処か苦しいとかは?)
『そういやぁ、何処も痛くねぇ。これはどういうこった?』
(知ってるだろ? 母さんは駆け引きが巧みな事くらい。まんまと謀れたんだよ)
『……………………あんのババアアアァァァ!!』
(だから最後に言ってただろ? よく話し合えって。刺されて消滅させる相手に掛ける言葉じゃないと思わないか?)
『まんまと策謀に嵌ったってワケだ……クソが』
『魔王の欠片』は毒づくものの、本当に悔しそうには見えなかった。
『アシュラ。てめぇに俺の力を預けといてやる』
(……え? 別に預けてくれなくても、共存って選択肢があるだろ?)
『けっ、冗談じゃねぇ。あんな愚母の前になんて二度と出たくねぇ』
(そんな恥ずかしがらなくたって)
『違ぇよカスがっ! 俺は暫くここで寝る! てめぇは生きて俺の糧になれ』
(何それ意味わかんない……)
『あぁもうウザい! 俺の力の使い方は適当にやってりゃ何とかなるだろ!』
(ホント雑だな……でも、ありがとう)
『……ケッ、さっさと外に行けや。睡眠の邪魔だ』
(また、話できるよな?)
『知らん、ほれ邪魔だ邪魔だ、俺の寝床返せや』
何か恥ずかしそうに『魔王の欠片』は闇へと沈んでいく。
(またな、兄弟)
『……ふん。そりゃ俺のセリフだ』
アシュラの意識が、闇から引き離されていく。
『魔王の欠片』は笑みを浮かべていた……アシュラはそんな気がした。
~~~~~
「ん……あ、皆……ただいま」
アシュラは目を覚ました。
「アシュラ……! 良かった、本当に良かった……!!」
「アシュラさん、無事でよかったですぅ~~~」
フォルテュナとククルは涙目でアシュラの目覚めを喜んでいた。
「ふぅ、無事に戻って良かった。アシュラ、すまなかったな」
「師匠……俺こそすみません、ご心配おかけしました」
カーリーもアシュラの様子をみて、ようやく安堵した様子だ。
そしてアシュラが振り向いた先にいるのは、母親のミテュラ。
「母さん……ただいま」
「もっと早く帰ってきなさいよね、全くもう……おかえり、愚息♪」
母子はお互い、はにかんだ笑顔で応え合った。
いつもながら更新遅くて申し訳ありません(´・ω・`)
リアルでいろいろと災難続きでして……『八方塞』って怖いです。マジで。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




