第20話 特訓開始(★)
「ほらほら、どうしたアシュラ! もうへばっちまったのか?」
「ま、まだまだあぁ!!」
カーリーをアシュラの師匠として神族の村に迎え入れて数刻。早速アシュラは訓練に励んでいる。……というかカーリーと殴り合っている。もっと厳密に言えば、一方的に殴られている。
「おらおらっ!拳ばっか見てんじゃねぇよ!相手の動きを見るんだ!」
「は、はびっ! ぐべっ! ごはっ! ちょっ! まっ! でっ!」
「殺し合いに待ったなんてねぇんだよっ!」
アシュラは早朝からフルボッコにされていた。そりゃもうボッコボコだ。
トドメとばかりに、カーリーは立つのが精一杯のアシュラの懐に潜り込むと、瞬時に身体を回転させ、鳩尾に肘を撃ち込んだ。
「うぐっ……」
最後は白目を向いて、糸の切れた繰り人形のように力無く倒れた。
「ふぅむ……ま、最初はこんなもんかな」
「……カーリーさん? 何してはるのん?」
「ミテュラか……見ての通り実戦だよ実戦」
「実戦ねぇ……拳より剣をみてもらいたいのだけど?」
「まずは力量を把握しないとな。うっかり斬殺したら困るだろ?」
すぐ傍まで歩いてきたミテュラがカーリーに話しかけてきた。
アシュラは勿論放置されている。
「そりゃ困るわよ。でも今ので把握できたの?」
「おおよそな。正直、まだ使い物にならんな」
「だろうね。短期間で何とかなりそうかしら?」
「何とかしなきゃなんだろ? まぁ任せとけ」
2人がいつもの調子で話をしていると、ククルが急ぎ足で寄ってきた。
「皆さ~~ん、お昼ご飯の用意ができたのですううぅぅぅ!?」
アシュラの無惨な姿に目が飛び出したククルは、脇目も振らずアシュラのすぐ傍へと駆け寄り、頭を胸元へと抱き寄せた。
「アシュラさん! アシュラさん!! 大丈夫ですぅ!?」
「ク……ククル? あれ、確か師匠の拳を受けてて……気がついたら河が目の前に広がってて……シェイクスさんが河の向こう岸から手招きを……」
「どこに逝ってたんですぅ!? それにアレはまだ生きてますぅ! ……多分」
アシュラは天上界を飛び超えて天国へと旅立っていたようだ。
会話中に出てきた某ヘタレ神も、すでにアレ扱いとなっている。哀れアーレス。
「……やれやれ、神族ってのはこんなんばっかなのか? ミテュラ」
「こんなんって何よ? まぁ肯定も否定もしないでおくわ」
「何呑気にお喋りしてるんですぅ!? 朝ご飯人質にするですぅ!!」
「「ごめんなさい、すぐ行きます」」
*****
「彼の者の傷を癒せ ――【治癒】――」
「「「「おぉ~~~~」」」」
自宅(元シェイクス邸)に戻った4人。
フォルテュナもアシュラの姿にはさすがに驚いたが、すぐさま治癒魔法をかけた。
「ありがとう、フォルテュナ。助かったよ」
「これくらいの事はできないとね、私も役に立ちたいもの」
5人は食卓を囲いながら、今後の方針を話合う事にした。
まずその口火を切ったのはカーリーだ。
「騎士団は捜索期間を設けて動いてるから、鍛練期間はその間に限られるぞ」
「そうなのよね。確か捜索期間は15日間だったかしら?」
「そうだ。出発した日から数えると、今日は4日目になる。復路の移動時間も往路同様2日で戻るとして……猶予は9日間だな」
9日間。それはなかなかに厳しい期間だ。
フォルテュナとククルはいい。天上界で修練は積んでいるし、戦闘経験もある。
問題はアシュラ。まだ戦闘経験は1度しかない。しかもお世辞にも勝ったと言い切れる勝ち方ではないのである。
「じゃあカーリーは9日間、アシュラを徹底的に鍛えてあげて」
「承知した」
「よろしくお願いしますカーリーさん」
「私はフォルちゃんとククルちゃん担当ね。主に連携を鍛えるわよ」
「「よろしくお願いします(ぅ)」」
こうして5人は9日間という短期間で集中的に能力を底上げする事となる。
*****
村の空き地に移動したカーリーとアシュラは、再び対峙していた。
「アシュラ、お前は精神面の弱いと聞いてる。自分でも理解してるな?」
「そうですね……この数日間で痛感しました」
「ま、口調も雰囲気もお坊ちゃん臭がプンプンしてやがるからな」
「……そこまでですか」
カーリーはこの優しさの塊のような性格を変えたい衝動に駆られていた。
「まずその口調を直せ! もっとふてぶてしくしろ! 男なら戦闘だろうが女性だろうがグイグイ引っ張るくらいの気持ちがなきゃ話にもならん!」
「はい! 師匠!」
「はい! じゃねぇ! 『了解』だ!」
「『了解!』」
「よし! これより森林に潜り魔物を駆逐する! 我に続け!」
「『了解!』」
ちょっと方向性が楽し……いや、あえて皆まで語るまい。
*****
こちらはミテュラとフォルテュナ、ククル組。
ミテュラの『万眼』によって魔物の多い場所を絞り込み、すでに森林内に移動済だ。
「まずはフォルちゃん、君は攻撃魔法は使えるー?」
「私の固有能力は能力の底上げです。補助魔法です」
「なるほど。まだレベル的にはそう高くないって事ね」
「鍛練すれば攻撃魔法も使えるようになるのでしょうか?」
「ティミスはね、少しだけど攻撃魔法も使えてたんだよ?」
「本当ですか!? どうすればそれを……」
「経験の問題じゃないかな? 当面は攻撃補助で立ち回る術を身につけましょう」
「わかりました」
フォルテュナの神名は『幸運』。いうなれば第六感に近い能力だ。経験を積まなければそれもただの朧気な直感程度。しかしそれも経験を積み上げる事で『未来視』も可能となる強力な補助能力である。だがフォルテュナがその域に到達するにはあまりにも未熟過ぎた。
「さて、ククルちゃん。君は四元素だから攻撃特化とみていいのかな?」
「はいですぅ。多少の補助や治癒もできますけど……」
「ククルちゃんは攻撃を特化させましょう。3人の特徴を考えると、前衛のアシュラを後方から援護する役割を担ってもらうわ」
「はいなのですぅ」
「しばらくは私がアシュラの代役するから、遠慮せずに攻撃してね」
「了解なのですぅ」
2人は特徴を伸ばしながら、連携の取り方を学ぶ事となる。
「ククルちゃん、今だよ!」
「はいですぅ! ――四元素・風の刃―― にょえーっ!!」
「はい、次!」
「はいですぅ! ――四元素・火の矢―― むほーっ!!」
「いいね! そっちフォルちゃん守って!」
「はいですぅ! ――四元素・大地の壁―― ぴにゃーっ!!」
「あっち魔物の群れがいるよ! 分散させて!」
「はいですぅ! ――四元素・水の激流―― ひゃっはーっ!!」
「はわぁーーーほんっと可愛いわ!!」
「……楽しそうですね、2人とも……」
ミテュラが壁役を担い、ククルに攻撃を促しているのだが……
ミテュラがククルの奇声に萌えているとしか思えないフォルテュナであった。
こうして厳しい?特訓を開始した3人と教官2人。
まずは順調な滑り出し。
だが誰も予測していない事態が、すぐ傍に迫っていたのである。
2020.1.11 改稿しましたm(__)m
呼称や会話など、設定変更に伴う部分を修正しました。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




