第19話 秘策(★)
2020.1.11 改稿完了です
アーレスとイクトは天上界へと戻っていった。
……面倒事を丸投げして。
実際のところ、アーレスは『鬼神』に気を取られ、任務を失念した挙げ句、クールに去る演出に酔っていたのが原因。
アーレスは戦神を返上した方がいいのかも知れない。
後に彼は創造神によって痛い目に遭うのだが、それはまた別のお話。
閑話休題。
アシュラ達は、この案件を放置しておくつもりはなかった。
クズ国王を放置、それは『お祀り』が実行される事を意味する。そして忌み子が見つからない今、罪のない人が濡れ衣を着せられ、犠牲となる可能性が極めて高いのである。
「そこで、私は秘策を用意してあるのですぅ♪ 褒めていいのですぅ♪」
ミテュラの突然の物言いに、3人は何を褒めていいのか困惑する。
「母さん? 秘策の内容がわからないので、何を褒めるべきなのか……」
「まずはその内容を教えていただけますか?」
「ククルのアイデンティティを盗らないで欲しいですぅ」
三者三様の返答がそれを物語っている。
「もう、仕方ないなー。秘策っていうのはね、秘密の策だから秘策なの♪」
「「「そのまんま過ぎ(ですぅ)……」」」
そんなやりとりで夜も更けていく……事はなく、ミテュラが秘策を断片的に話始めたのだ。
「私が忌み子捜索部隊と一緒に、この大森林に来たのは知ってるよね?」
「はい、イクトからそう聞いてます」
「私は到着した夜に部隊から抜けてきちゃったけど、他の皆は忌み子の捜索を続けてると思うわ」
「そうでしょうね……。でもそれと秘策がどう関係してるのですか?」
「むふふのふ♪」
「「「………」」」
フォルテュナが受け答えし、それに対して意味ありげに笑うミテュラ。
「まぁ見てて。 ―――『万眼・対象人族』―――」
ミテュラは、単独行動時に度々発動していた能力『万眼』を発動し、人族の気配を調べ始めた。
「ん~~さすがにこの村まで辿り着くのは無理そうね」
「ここが発見されたら、アシュラが拙い事になりませんか?」
「万が一見つかっても私がいるから平気よ。私はちょっと秘策の用意をしてくるから、3人はゆっくりねっとり楽しんでていいからね♪」
「「「はい!?」」」
時はすでに夕刻。すでに大森林は暗闇に包まれつつあるにも関わらず、ミテュラは家を飛び出してしまった。
残された3人は、ミテュラの出て行った扉をただ呆然と見ていた。
「……ゆっくりねっとり楽しんでって……何を?」
「疑問点そこ!?」
ちょっとイチャイチャに期待したフォルテュナのツッコミが炸裂した。
まずは色恋沙汰から学ぶ必要のあるアシュラである。
*****
時を同じくして、神族の村から遠く離れた森林地帯。
「全く、こんな人気のない大森林に忌み子がいるわけがないっての……」
捜索を開始してから2日目の夜。ひとりで野営中のカーリー騎士団長は、焚火に木枝をくべながら『見つからなくてもいい忌み子探し』と『報酬』に釣られた事を少し後悔していた。
「報酬と目が眩んだとはいえ、騎士団の仕事じゃないよなぁ」
彼女がどれだけ戦闘力が高かろうとも、詮索は全くの別モノ。それなりの気配察知はできても、遭遇するのは動物や雑魚の魔物ばかり。正直、飽きていた。
「クズ国王の為になると思ったらイライラしてきたな……もう寝よ」
「そこの美女さん! 私と一緒に楽しい事してみな―――あ……」
カーリーが焚火を消そうとしたところに、ミテュラが超高速で走ってきた。
当然、その余波で焚火は跡形もなく吹き飛び、火の粉がカーリーに降り注ぐ。
「うわっちちちちっ! おぃコラ『鬼神』! いきなり何しやがる!?」
「ごめーん。暗くて距離感間違えちゃった♪」
星が瞬くようなウィンクをするミテュラに、カーリーは一瞬でブチ切れた。
「貴様……ちょっと表に出ろや。ヤキ入れてやるよ」
「あの……団長さん? ちょっと落ち着きません? それにここ表だし」
「つべこべ言ってねぇで歯ぁ食いしばれやこの阿婆擦れがぁ!」
カーリーがパラシュと呼ばれる長細剣を抜剣し、目にも止まらぬ全力の連撃を放つ。捜索によって溜めたストレスと共に。
「ちょ、待って、団長、さん、私の、話を、聞いて、お願い、だから!」
「えぇい避けるな! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねええぇぇぇ!!」
ミテュラに平然と連撃を躱され、カーリーの中で新たなストレスが溜まる。
その目に映るのは、ミテュラというストレスの原因。
もはやヤキ入れどころの話ではなくなっていた。
「もう、それなら、こっちも、本気で、止めるわよっ!」
「止められるものなら止めてみろおおぉぉぉ!!!」
狂戦士と化したカーリーの絶え間ない連撃に、ミテュラは能力を発動させた。
「汝、動ずる事能わず――『拘束』!」
「ぐうっ!?」
ミテュラの掌から眩い光が放たれ、カーリーの身体に触れた刹那、その挙動の全てを止めた。パラシュの切っ先が、ミテュラの眼前で静止していた。
「貴様、私に何をした………」
「動きを止めただけよ。からかった事は謝るから、話を聞いて欲しいの」
「話……だと? 散々人をおちょくっておいて、話を聞けだと?」
「話というより、取り引きよ。互いの未来の為の、ね」
「互いの未来ね……随分と大きく出たもんだな」
「それだけの事をするのよ。その為に、貴女の力が必要なの」
ミテュラが静止したパラシュを目前にしたまま、カーリーに訴えかけた。
万が一にも能力が解除されれば、その瞬間に即死する状況でだ。
それだけ本気である事を、ミテュラは身体を張って証明してみせている。
カーリーは目を疑った。
そんな真剣な彼女を、これまで一度も見た事がなかったのだ。
「……ふん、なら聞いてやる。取り引きするかはその後だ」
「ありがとう、団長」
*****
「……というワケで、このお方が騎士団団長のカーリーさん♪」
「というワケだ。よろしく頼む」
「「「どういうワケ(ですぅ)!?」」」
翌朝、ミテュラが戻ってきた事に安堵した3人が目にしたのは、彼女ともうひとり、騎士の甲冑を纏った黒髪の美女、カーリー騎士団長だった。
「そっか、説明してなかったもんね。これが私の『秘策』だよ♪」
「母さん、それだけで説明した気になってません?」
「え、見ればわかるでしょ?」
「ちゃんと説明してください!!」
ミテュラが渋々といった感じで説明をする事にした。
カーリーは「……そんな事だろうと思った」と溜息混じりで呟いている。
「3人を鍛える為の、いわば講師ってところね。彼女は国都直属の騎士団を纏める騎士団長。私が見る限り、この国で最も剣技に優れているわ。そこで彼女の手ほどきを受けながら、短期間でレベルアップしてもらうわ。特にアシュラのね」
「俺の講師……ですか?」
「貴方の身体能力はかなり高いけど、ただそれだけ。私達と合流する前に戦ったっていう魔物だって、おそらく強くはなかったはず。そんなのに苦戦してるようじゃ、国王の粛正なんて夢のまた夢よ。そこでカーリー団長に戦闘のノウハウを叩きこんでもらおうと思ったの」
「それなら母さんが相手してくれても良かったんじゃ……?」
「私の得意分野は剣よりも拳。戦い方もだいぶ違うわ」
「なるほど。それと、母さんを信用してないワケじゃないけど……この人信用できるの?」
カーリーを3人の前に連れてきたという事は、ミテュラが彼女を信頼しているからに他ならない。だが、彼女は国直属の騎士団の団長なのだ。いわば敵陣営の戦力である。アシュラが警戒するのも仕方のない事だった。
ミテュラはカーリーを一瞥し、カーリーはそれに黙って頷いた。
「私はカーリー・ブラフマンだ。カーリーと呼んでくれ」
「俺はアシュラです。よろしくお願いします」
「フォルテュナです。よろしくお願いします」
「ククルですぅ。よろしくなのですぅ」
挨拶に対してしっかり挨拶で返す3人。カーリーはミテュラの相手ばかりしていたせいか、素直な3人にやたら好感を持てた。
「アシュラ、フォルテュナ、ククル。まずは私の話を聞いてくれ」
「「「はい(なのですぅ)」」」
「確かに私は国に従属する騎士団の団長……国を守る為に戦うひとりの兵士だ。だがな、国を守るのであって、あのクズ国王には守るだけの価値はないと思っている。国民を守る立場にある者が、国民を蔑ろにし私腹を肥やすなど、あってはならない事だ。だからミテュラの考えに賛同し、騎士団をほっぽり出して来た」
3人は黙って頷く。カーリーは少し考えた様子で、言葉を続けた。
「私はあまり頭がよくなくてな、気の利いた事を言えなくて悪いんだが……国の未来の為に、クズ国王を倒す為に、ここに来たんだ。だから信用して欲しい」
カーリーの目は本気だと伺えるだけの力を感じさせた。
3人はすでに信頼に値すると判断したようだ。目を見合わせて、2人の意思を確認したアシュラは、3人を代表してカーリーを受け入れる意思を伝える。
「わかりました。貴女を信用したいと思います」
「あぁ、ありがとな。これから徹底的に鍛えてやる。根を吐くなよ?」
「はい! よろしくお願いします!」
こうしてアシュラ達は心強い協力者を得る事となった。
ミテュラも4人のやり取りを見て一安心したようだ。
「さて、それじゃ朝食済ませて早速訓練ね。カーリー、お願いね」
「あぁ、承知した」
「フォルテュナさんとククルさんは私が面倒みるわ」
「ミテュラさん、宜しくご教授ください」
「ククルも頑張るですぅ!!」
こうしてカーリーを加えた一行は、大森林を彷徨う魔物を相手に、連日訓練に明け暮れる日々を過ごす事となったのである。
今話は会話部分を一部改稿しました。
流れは変わりませんが、会話の流れを少し改善させていただきました。
いつもお読みいただき本当にありがとうございますm(__)m




