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第96話 金色の水面

金色の濁流の中を、茶色のねじれた大木のようなものがうねるように泳いでいく。


 時折、かき分けるようにして金色の波の合間から更に数本の茶色いものが現れては、また潜っていく。


 その様子を、天井付近からぶら下がるようにして、見ていた金色の髪の少女が吠えた。


「化け物がッ、何をそんなに喜んでいるッ」


 すると、その声に反応するように、元は大理石の広間だった金の水面から、もっさりと金色の糸をかき分けて、巨大な焦げ茶色をしたごわごわとした毛の塊が持ち上がってきて答えた。


「・・・それはのう、見ての通りじゃろ」


 そう言うと、金色の糸に満たされた水面から、丸太のような太さの毛に覆われた触手が突き破るように現れ、そのずるりと裂けた先端にいくつもの金色の糸が咥えられ、咀嚼されている。


 みると何本もの触手が同じように、のたうち回るようにして捉えた金色の糸を喰らっていた。


「ふむ、ふむ、なかなかの美味じゃ、これは全て貰っても良いのかのぉ」


 そう言って、ギャッギャッと興奮したように鳴き声をあげる。



 それには、すぐに少女が答えた。


「だっ、ダメに決まっておろうが、この痴れ者が」


 金色の髪の少女が前方に手をかざした後、握りつぶすように片手を引いた。

勢いで純白のローブの袖がなびいて音をたてる。


「潰れろ、化け物めッ」



 それに合わせて、中央で喚いている毛の塊にひときわ大きく被さるように金色の糸の波がぶつかった。


 激しい衝突音を受けて、一瞬にして金の濁流にのみ込まれるが、すぐにそれをかき分けて何本もの触手が飛び出してくる。



 金の水面から突き出した触手は、まるで蛇のように鎌首をもたげて、咥えた糸を飲み込んでいく。


「今のはなかなか贅沢じゃな、おかわりを所望するぞ」


そう答えてまた、触手が蠢いて手近な糸に喰らいついて貪る。



「なっ・・・この化け物めッ・・・んッ!それはダメじゃ、やめろ離さぬかッ」


突然、慌てたように少女が叫んだ。


みると、1つの触手が灰色の外套を咥えてその中には銀色の髪の少年がぐったりとしている。



 素早い動きで、ぶら下がっていた天井からするりと金の水面へ降りた少女が、

滑るようにして、気を失っているソーンに飛びつき、焦げた茶色のごわごわとした毛に包まれた触手から剝ぎ取るようにして奪った。


 すると、退路を断つようにずるずると何本もの触手が集まり、金色の髪の少女とソーンの周りを囲む。



 抱きしめるようにしてソーンを担いだ少女がギリギリと尖った歯を噛みしめながら、ながらく閉じたままだった目をうっすらと開く。


 宝石のように金色に輝く目で、少女が答えた。


「これはお前のような化け物にはやらん。今すぐ立ち去れ!さもないと・・・」



 その様子をやけに大人しく見ていた1本の触手の先から、ちろちろと赤い舌先が現れて答えた。


「ふむ、何か誤解があるようじゃ・・・」






___ふわふわとした浮揚感、もふもふの毛皮の感触と冷たい夜風にふと目をあける。


「・・・あっ、クーマだ、どうしたのこんな時間に」


緊張感の無い返事に、思わず空から落としそうになるが、しっかりと尻尾で巻き付けて運んでいる途中のクーマが答えた。


「ふむ、ソーンに夜の散歩はまだ早いと思うぞと、伝えに来たところじゃ」


少しだけ意識を取り戻してきたのか、目を何度かパチパチさせた後にソーンが答えた。


「えーと、そうだ。聞きたいことがあって階段を下りたのだけど・・・探し物は何とか手がかりを・・・」


喋りながら、瞼が重くなってくるのを感じた。


「・・・今度はもう少し・・・お話を、お礼も言わないと・・・」


 再び疲れからか眠りにつきそうになったソーンが、眠りをこらえようと必死で握った手の中で気づいた、金色の糸の束の感触からそう呟いた。



 ぐったりと力が抜けていく主人の胴体と手を包み込むように複数に増えた尻尾でしっかりと巻き付ける。



___ふよふよと夜空を飛んでいきながらクーマは、ふと考えた。

 

『さて、窓からうまくやれば通れるかのぉ、それとも外で・・・落ち着けるところで一夜を明かすか・・・』

いろいろな方法を試案しながら、結局のところ避けては通れないだろう問題のことを思い出して、最後に一言呟いた。


『ふむ、一人で夜中に探検、無事に帰ったとしてもじゃな・・・』


何にせよ一波乱あるだろうなと主人を心配する従順な従魔は冷たい夜風にブルッと身を震わせる。


 そんな悩みを知る由もなく、すやすやと早くも寝息を立て始めた銀色の髪の少年とそれを運ぶ毛玉の姿が、静かな夜空をゆっくりと流れていくのだった。




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