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「…沖田さん。何してるんですか。土方さんが呼んでますよ」
沖田さんから逃げ回っていれば、聞いたことがない声が耳に入る。
救世主の予感!!
低く落ち着いた声。沖田さんから逃げているから姿はわからないけど、声からしてダンディなお方だな!
…ってあれ?
追いかけてきているはずの沖田さんが、いつの間にかいなくなっている。
と思ったら、
「一君離してください!まだ躾の途中なんですから!」
一君と呼ばれる人に衿を掴まれていた。
っていうか一君若い!?
あれ、さっきの低く落ち着いた声の持ち主だよね!?
っていうかやっぱり躾だったのかよぉぉぉぉぉ!!
沖田さんが一君と呼ばれる人に捕まったことで、私は躾から解放された。
普段着なら余裕なんだけど、慣れない着物だからもう息が苦しい…!
沖田さんと一君と呼ばれる人が口論をしていると、ちょこちょこと平助さんが私に近づいてきた。
「大丈夫っすか?」
「なんで逃げてたのぉぉ!でもありがとう大丈夫ですうぅぅぅ!!」
平助さんの両肩を持ち、がくんがくんと激しく揺らす。
やめろーと平助さんの揺れた声が響けば、一君と呼ばれる人がやってきた。
私はパッと平助さんから手を離す。
「平助、それ誰?」
「あ!土方さんが言ってた猫こと安藤結菜さんだよ」
「………猫?」
上から下まで私をまじまじと観察すれば、一君と呼ばれる人の眉間にしわが出来る。
まあ、猫なんて言われてもおかしいと思うの
「猫は、もっと可愛いぞ平助」
が普通だけどなんか失礼だぞぉぉぉ!!!
ぱっちりした目でちょっと少年っぽさが残っているのに、表情は冷酷なんだけど!?
触ったらサラサラなんだろうなあという髪の毛は、落ち武者Aみたいに後ろに一つで括っている。
…はあ、もうイケメンばっかで御馳走様でした。勘弁してください。
「こんなの猫ではない。期待した俺が馬鹿だった」
ひでぇぇ!スーパーひでぇぇ!!
なんとも冷たい…あれ、寒い時期じゃないのに、寒気がするのは何故?ってくらい冷酷な目をしてらっしゃる。
どんだけ猫期待してたんだよ!
「結菜さん、こいつは斎藤一っす。俺と同い年」
ズーンと一人で沈んでいれば、平助さんが紹介してくれる。
平助さんと同い年の斎藤さんね。一君なんて呼べねえやい!
「…よろしくお願いします」
「………」
私の頭をわしゃわしゃしてるぅぅぅぅ!?
冷酷な目を向けられながら急にわしゃわしゃしてくるもんだから、驚いた私は思わず斎藤さんから離れた。
だって顔が怖いのにやってることおかしいんだよぉぉぉ!