第9話 ウォークラリーとキャンプファイヤー
第9話
ウォークラリーが始まってから、遥人は女子たちに囲まれて優が話しかける隙も無かった。
本当は遥人と一緒にウォークラリーをするのを楽しみにしていたのに、女子たちのせいで台無しだった。
優がぶすくれて歩いていると、視界に絵が描かれた標識が入った。
「見つけた!」
指を指して振り返ると、遥人が「すごいね優!」と笑顔で返してくれる。
今すぐ共感接続を繋ぎたい衝動に駆られながら、優は遥人の隣に立った。
女子たちがいるから今すぐは繋がれないけど、後で絶対に二人きりになろうと目で訴える。
遥人は何も言わずに頷いた。
「俺、クワガタ見つけるのも上手いし、こういうの得意かも」
「本当だね。優は目も良いし、すごく頼りになるよ」
「ふっふーん!俺に任せて!」
遥人に頼りにされて得意げに胸を張る優。
それを見た女子の一人、川村がつまらなさそうに反論する。
「クワガタとウォークラリー関係ないし」
「はあ!?」
これまでに遥人の進行の邪魔ばかりしていてまだ1つも見つけていない川村たちに対し、優はカチンときて言い返そうと口を開く。
しかし、優が言葉を発するより早く、遥人が穏やかな声で間に入った。
「確かに標識とクワガタは見た目が全然違うけど、探し方は似てると思うよ。優は葉っぱに隠れた生き物や標識の色合いの違いを見分けるのが得意なんだよ。きっと、普段から隠れたものを探す習慣があるからできることなんだね」
遥人に褒められて優の怒りはすっかり治まっていた。
女子たちは「遥人君がそういうならそうなのかもね」と少しバツが悪そうに納得する。
先ほど優に突っかかってきた川村は、優をチラリと横目で見たあと大股で歩き出した。
「仕方ないから私も一緒に探してあげる」
その横柄な態度に再び湧きそうになった怒りを、遥人が優の肩に手を置いて押しとどめる。
「僕らも行こうか?」
遥人の笑顔にほだされて、優はしぶしぶ川村の後について歩き出した。
***
日が暮れて、皆がキャンプファイヤーを囲んで騒いでいる頃。
少し離れた場所からその様子を眺めながら、優は昼間の出来事を思い出す。
皆で作ったカレーは普段よりもとても美味しく感じた。
そこでふと、遥人が慣れた手つきで野菜を切っていくのを見て、女子たちがそそくさと別の作業に移っていったのを思いだす。
(あれは女子顔負けだったよなぁ)
笑いを堪えていると、女子たちに捕まっていた遥人が、話を切り上げて走ってくるのが見えた。
その瞬間、余計なことまで思い出してしまう。
それは、優が米を研いでいた時のことだった。
女子たちがジャガイモを洗いながら話していた内容が聞こえてしまったのだ。
「遥人君以外の男子なんて芋にしか見えない」
川村が手に持ったジャガイモを見つめながら呟いた。
その真剣な眼差しに、他の女子たちも頷く。
「確かに芋だよねー」
「私もそう思う」
二人の同意を得て気を良くした川村は、ジャガイモを持っていない方の手を高く掲げた。
そして、劇のヒロインさながらに大げさな身振りを交え、どこか芝居がかった熱烈な口調で言う。
「ああ、あまたの芋たちの中で、遥人君、あなただけが輝いて見える!」
川村がそう言うと、女子たちは声を揃そろえて笑った。
(あいつら、ほんっと何なんだよ、もう!)
頭に血が上っていくのを、地面を踏みつけてなんとか押さえ込もうとする。
優が地面に八つ当たりをしていると、遥人が「どうしたの?」と顔を覗き込んできた。
いつもなら顔を見ただけで嬉しくなるのに、今は少しだけ釈然としない気持ちになる。
「別に。遥人のせいじゃないし」
優は唇を尖らせて遥人から顔を背ける。
遥人は優の隣に並ぶと、パチパチと木の爆ぜる音を立てながら、高く燃え上がるキャンプファイヤーを眺めた。
その顔はいつも通りの穏やかな笑顔を浮かべていた。
「女子が見てるのは、僕の表面だけだよ。僕が内側まで見せるのは、優だけ」
遥人の言葉に、優の胸の奥は嬉しさともどかしさの混ざった、言いようのない感情でいっぱいになった。
(今すぐ繋げたら良いのに)
優は何も言えずに遥人の手をぎゅっと握りしめた。
***
テントは男女に分かれてそれぞれ5人ずつ入る事になっていた。
テントの中では他の班の男子が3人加わって、優と遥人も一緒に布団を敷いていた。
優はまだ遥人以外の同級生とあまり親しくなっていなかったので、少し緊張しながら会話をする。
「俺たちが奥の方で良いかな?」
優の問いかけに、バスケが得意で背の高い陽太が親指を立てて頷く。
「オッケー!じゃあ俺は入り口の前だな。お前ら踏むなよ?」
そう言って仲間たちを指さす。
「それは踏めって言ってる?」
「踏んだらごめんな。先に謝っとく」
作馬と純が軽い調子で揶揄うと、陽太は「本当に踏むなよ!中身が出るからな!?」と言い返した。
そこで遥人が口を開いた。
「それはまずいな。仕方が無い、踏むなら顔にしておこう」
続けて真面目な顔でうんうんと納得する皆に陽太が言い返す。
「なんだと!顔踏んだら噛みつくからな!?」
ランプの明かりが、笑い合う5人の子供たちを照らしていた。




