↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DIVE ~記憶の海~  作者: 月ノ宮 鈴
第一章 二人だけの夕日
10/32

第10話 二人だけの夢


 優(ゆう)たちは頭を内側に向け、足を壁際にして眠りについていた。


 優の頭の先には遥人(はると)の頭がある。


 二人は他の皆が寝静まった後に共感接続を繋いで、そのまま眠りに落ちていた。


 夢の中で、優は海の中を揺蕩(たゆた)うようにゆっくりと泳いでいた。


 ふと気付くと、すぐ横を遥人も泳いでいる。


 優は、隣で目を瞑(つむ)り流れに身を任せるようにして泳いでいる遥人に声をかけた。


「海なのに息ができるなんて不思議だね。まるで飛んでるみたいだ」


 その言葉に遥人はくすっと笑って返す。


「飛んでるみたいじゃなくて、本当に飛んでるんだよ。ここは空なんだから」


 優は何を言っているのだろうと遥人に聞き返す。


「ここは海だろ?さっき魚が泳いでるのを見たし」


 遥人は先の方を指さして「それなら、あれは何?」と尋ねた。


 見ると、大きなわたあめのような雲が3つ浮かんでいる。


「本当だ。雲が浮いてる」


 優は首を傾げた。

 それならさっきみた魚は何だったのだろう。


 遥人が現れるまで、色とりどりの魚たちと一緒に泳いでいたのに、いつの間にかいなくなってしまっていた。


 優が釈然(しゃくぜん)としないまま流れに身を任せていると、遥人が「あの雲わたあめみたいだね」と言った。


 その瞬間、遥人も自分と同じように感じていたことが嬉しくなる。


 優は雲を指さして「もしかしたら食べられるかもしれない。食べに行こうよ!」と遥人を誘った。


 二人は雲に向かって飛んでいった。



 雲は思っていたとおり綿飴のようにふわふわで、食べると甘みが口の中に広がった。


 遥人は雲の上に寝転がって、千切り取った雲を食べていた。


「このあたりは少しピンク色になってて苺味がするよ」


 優も遥人の隣に寝転がってピンク色の雲を食べる。すると、口の中に桃の味が広がった。


「あれ?俺のは桃味だ」


 二人はさらに泳いで黄色い雲を見つけた。


 今度は優がレモン味、遥人はバナナ味だった。



 しばらくの間様々な色の雲を食べていると、空が薄暗くなってきた。


 遠くに夕日が沈んでいくのが見える。


 遥人は優と共に、その夕日を静かに眺めていた。


 赤々と燃える夕日に照らされて、二人の頬も赤く染まる。


 何だかとても懐かしいような、切ないような気持ちで胸がいっぱいになる。


 遥人が沈みゆく夕日の美しさに感動していると、『醤油をかけて食べたら美味(うま)いだろうなぁ』という気持ちが入り込んできた。


 驚いて隣を振り向くと、優がよだれを袖(そで)で拭っている。


 遥人は思わず脱力して笑った。


「優は夕日も食べちゃうのかぁ」


「だって卵の黄身みたいで美味しそうなんだもん!」


 優は頬を膨らませて反論する。


 そんな怒った顔が可愛くて、遥人は「優は優だなぁ」と小さく息を吐く。


(優の食欲のせいでせっかくの感動が台無しだ)


「やっぱり優は面白いな」


 遥人は思わず声をあげて笑った。



 二人は夕日に向かってスイスイと飛んでいく。


「やっぱり鳥みたいに飛ぶんじゃなくて、ペンギンみたいに泳いでる気がするんだけどなぁ」


 優が首をひねって考え込む。


「ペンギンだって一応鳥だよ?」


 優は遥人の言葉に目を丸くして「本当だ!ペンギンって鳥だ!」と納得した。


 遥人は内心、鳥でもペンギンは飛べないのに。と思って密かに笑った。



 二人はペンギンのように空を泳いでいく。


 夕日はまだ赤く輝いていた。



「起きろー!」


 突然の大声に驚いて目を覚ますと、陽太が布団を抱えて立っていた。


 優と遥人は共感接続を閉じて、寝ぼけたまま布団から起き上がる。


 まだ頭はぼーっとするけれど、布団を畳んで小屋まで運ばなければならない。


 あくびをしながら優がテントの外に出ると、地平線の近くで朝日が輝いていた。


 後から出てきた遥人もそれを見て目を細める。


「夕日を見たばかりなのに朝日を見るなんて不思議だね」


 二人は目を合わせて微笑み合った。


***


 キャンプでの楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、優と遥人は帰りのバスの中に居た。


 皆は遊び疲れて眠ってしまい、二人は共感接続を繋いで互いの楽しかった思い出を追体験する。


 遥人とウォークラリーを楽しみたかったのに女子たちに阻まれて歯痒い思いをしたこと。


 遥人の料理の手際の良さに驚いたこと。


 そして、女子たちに芋呼ばわりされて腹が立ったこと。


 優の怒りを感じて、遥人が『優は芋なんかじゃないよ。僕は優が凄いんだって知ってる』と伝えてくる。


 そのまま、これまでに見てきた優の笑顔や嬉しかった瞬間のイメージが大量に送られてきた。


 優は恥ずかしくなって受信モードを閉じた。


 そして即座に『恥ずかしいからやめて!それ以上送ったら接続を切るよ!』と照れ隠しの怒りを送る。


 遥人は笑いをこらえて「ごめん。もうやらないから繋いで」と手を合わせて謝った。 



 その後も二人はキャンプの思い出を送り合った。


 キャンプファイヤーの豪快な炎に圧倒された瞬間。


 遥人も優と一緒にその炎を観たかったのに、女子に話しかけられてなかなか行けず困っていたこと。


 そして、二人で観た夢の中の記憶。


 あれは海だったのか、それとも空だったのか。


 美味しい雲に蕩とろけるように紅い夕日。


 優はあの夕日を食べられなかったことを、少し残念に思っていた。


 そんな気持が伝わって遥人はクスクスと笑う。



 静かなバスの中で、二人だけが今もまだキャンプの時間を楽しんでいた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。