第22話 僕たちの夕日
翌日の土曜日。
優は遥人と遊園地に遊びに来ていた。
(これってもしかしてデートなのでは?)
優は急に緊張しながら隣を歩く遥人を盗み見る。
小学生の頃なら手を繋いで歩くこともあったけれど、中学生になってからはそんなこともなくなっていた。
異性同士のカップルならともかく、男同士で手を繋いでいたら不自然に見えるかもしれない。
優は一人で悶々《もんもん》と悩んでいた。
一方の遥人も、昨日の夜からある計画を立てていた。
それは優と観覧車の中で共感接続を繋ぐこと。
もしかしたらその時に優から正式に告白を受けるかもしれない。
(僕は何を考えているんだろう)
そこまで考えて、急に顔が熱くなる。
二人はなんともぎこちない様子のまま、園内を歩いていた。
優の提案で、始めにジェットコースターに乗ることになった。
勢いよく急降下するコースターのスリルを楽しんで、遥人が「もう一度乗る?」と振り返ると、優は遥人の意外なタフさに驚きながら「ちょっと休憩」と手を上げた。
二人がベンチに座ってアイスを食べていると、あちらこちらでカップルが手を繋いで歩いているのが目に入る。
優は隣でアイスを舐めている遥人を見つめた。
(告白するなら今かもしれない)
まずは深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
少し目を瞑って開くと、遥人の舌に目線が行ってしまった。
これまでにも数え切れないほど見てきたはずなのに、なぜか心臓がバクバクと激しく脈打つ。
(何だ!?この恥ずかしいような叫び出したいような気持ちは!)
優は顔を真っ赤にして勢いよく立ち上がった。
遥人が「どうしたの?」と首を傾げる。
「……空中ブランコで頭を冷やしてくる」
そう言い捨てると、優は逃げるように走り去ってしまった。
残された遥人は、そんな優の様子を見て、訳も分からず何となく恥ずかしくなった。
***
夕日が街を茜色に染める頃、遥人と優は観覧車に乗っていた。
向かい合わせに座っていた優が、窓の外の夕日を眺めながら、懐かしむように微笑む。
「小3のキャンプの時に、夢の中で見た夕日に似てるな」
遥人も同じように夕日を眺めて頷いた。
「本当だね。あの時、優は食べられなかったことをずっと悔やんでいたっけ」
ふと、優が真面目な顔をして遥人を見つめた。
その強い眼差しを受けて、遥人の胸も高鳴っていく。
「俺、遥人と付き合いたい。これからは、友達じゃなくて、恋人になりたいんだ」
遥人はこみ上げる喜びで胸がいっぱいになるのを感じた。
(ああ、そうか。やっぱり僕は、優のことが好きなんだ)
遥人は微笑んで頷いた。
「僕で良ければ、恋人になろう」
優は満面の笑みを浮かべ、遥人に勢いよく抱きついた。
その瞬間、ガタン!と観覧車が揺れ、二人は驚いて動きを止める。
けれど、すぐに顔を見合わせて笑い合い、どちらからともなく強く抱き締め合った。
***
家に帰る頃にはだいぶ暗くなってしまった。
優は家族に腕時計型端末で連絡を入れた。
「遊園地が閉まるまで遊んでたらこんな時間になっちゃって、遥人を一人で返すのも心配だから、家に泊まらせたいんだけど」
デバイスから優の両親の声が聞こえてくる。
「そうね。子供が一人で帰るには暗いし危ないものね。遥人くんのお家に連絡を入れないといけないから、番号を送ってくれる?」
「暗いから、気を付けて帰ってくるんだぞ」
両親は暗いと言うが、実際は街灯も多く、それほど暗く感じることは無かった。
それでも両親は自分達を心配してくれる。
優は、両親がよりを戻してから、こうして二人揃って心配してくれることが嬉しかった。
遥人と出会った頃は、両親が離婚したばかりで、不安でいっぱいだった。
優は出会った頃の遥人を思い出す。
他の子供たちとは違って、落ち着いていて大人っぽい、ヒーローみたいな遥人。
それが今は恋人として隣にいる。
優は遥人と手を繋いで家路についた。
***
優と遥人はふたつ並んだ布団に入って話をしていた。
「……さっきは、一緒にお風呂に入れなくて、ごめんね」
遥人は布団で顔を半分ほど隠して、恥ずかしそうに謝った。
優は慌てて手を振る。
「あ、あれは!母さんにデリカシーが無かっただけだから、気にするなよ。俺だって、恥ずかしかったし……」
夕食後、優の母に「一緒にお風呂に入っちゃいなさい」と言われて、遥人は真っ赤になって逃げてしまったのだ。
小学生の頃ならともかく、今は恋人になったばかりで、互いの裸を観るには抵抗がある。
結局二人は別々に風呂に入り、遥人はそのことを申し訳なく思っていた。
優は微笑んで遥人の頭を優しく撫でた。
頭を撫でられながら、遥人が恥ずかしそうに微笑む。
優は、今はこれだけで充分だと思った。
遥人は上目遣いに優を見つめると、消え入りそうな声で問いかけた。
「今繋ぎたいって言ったら、繋いでくれる?」
いつもなら当たり前のように暗黙の了解で繋いでいたのに、今日の遥人は遠慮がちに問いかけてきた。
優はそこで初めて、これが想いが通じ合ってから初めての共感接続であることに思い至った。
遥人の髪を撫でながら、優が共感接続を開くと、遥人もすぐにそれに応じた。
それは、どこまでも甘やかな感覚だった。
繋がった瞬間、溢れ出してきたのは遥人の緊張と、胸が苦しくなるほどの愛おしさだった。
『優が好きだ』という真っ直ぐな想いが、熱を持った波のように優の胸を満たしていく。
優の手に触れられている頭頂部からじんわりと広がる温もりや、早打つ鼓動までが自分のことのように鮮明に伝わってきた。
同時に遥人の側にも、優の心が流れ込んでいく。
『可愛い』『愛おしい』『守りたい』
自分に向けられるあまりに深く優しい感情の奔流に触れ、遥人は息を呑んだ。
これまでの言葉や態度だけでは受け取りきれなかった、優の情熱が直接意識に届き、熱い吐息となって零れ落ちる。
それはまるで、互いの境界線が消えて一つに溶けていくような、少し怖くて、けれどそれ以上に溢れるほどの幸福感で満たされていた。
二人の想いは重なりあって、互いの心を包み込んだ。




