第21話 遥人の気持ち
翌日。
昼休みになると、遥人は優をじっと見つめて耳元で囁いた。
「今日は、僕が優に触っても良い?」
その言葉に、優は驚いてあたりをきょろきょろと見回す。
誰も居ないことを確認してほっとすると、もう一度遥人の顔を見た。
「遥人が俺に触るの?」
「そうだよ。優ばかりじゃずるいだろ?」
確かにそれもそうだと納得しかけて、いやいやそうではないと首を振る。
「遥人も俺のこと、好きなの?」
優の問いに、遥人は頬を赤らめた。
優の口からはっきりと「好き」という言葉を聞いたことで急に恥ずかしくなる。
遥人は視線を彷徨わせながら優の手をそっと握った。
「それが知りたいから触るんだよ」
優は遥人の愛らしい仕草を見て、胸の中に何か熱いものがこみ上げてくるのを感じていた。
最初に、遥人は優の手を握った。
優と初めて手を繋いだのは、優が転校して来た当日だった。
遥人は、優が自己紹介で自分の名前を言おうとして、口を閉じてからもう一度名前を言った時にピンときたことを思い出す。
優の表情は笑顔を作っていてもどこか泣き出しそうに悲しげで、きっと彼も自分と同じなのだと思った。
同じ境遇の二人なら、きっと特別な友達になれる。
遥人はそう直感して優の手を握り、人が滅多に訪れることのない『秘密の場所』に連れ出したのだ。
二人の手はあの頃はほとんど同じ大きさだったのに、今では優の方が少し大きい。
こうして普通に繋いでいるだけでも落ち着かない感じがするけれど、きっと恋人同士なら違う繋ぎ方をする。
遥人は優の指の間に自らの指を差し込み、ちまたで『恋人つなぎ』と呼ばれる繋ぎ方を試みた。
優が顔を真っ赤にして俯く。
遥人も想像以上の恥ずかしさに俯いた。
これでは優の顔がまともに見られない。
「さすがにこれは恥ずかしいね」
遥人が手を離すと、優はほっとしたような、もう少し繋いでいたかったような複雑な気持ちになる。
「これで遥人の気持ちが分かった?」
優の期待と不安の混じった眼差しに、遥人は顎に指を当てて「うーん」と悩んだ。
そこでふと、自分たちの目線の高さに疑問が湧いた。
「こうやって立った状態だと、僕が優を見上げる感じになるんだよね。目線が逆になったら何か分かるかも」
昨日まで優から流れてきていた気持ちには、どこか遥人を華奢な存在として見ているようなところがあった。
(僕だって男なんだから、女子みたいに思われるのはちょっと納得いかないんだよね)
優は遥人に言われた通りに座って壁にもたれ掛かった。
遥人は優の足をまたいで膝立ちになる。
遥人の右手が優の肩に触れ、もう片方の手は髪に触れた。
(うわー。これは結構恥ずかしいな)
遥人は優を見下ろしながら、心臓が高鳴るのを感じた。
『恋人つなぎ』をしたときと同様に、今度も優の顔を見ることが出来なくなる。
どこを見ればよいのか分からず視線を彷徨わせていると、優の肩に触れている自分の手が目に入った。
その肩は子供の頃に気軽に触っていたときと違い、少し硬く男らしい筋肉がつき始めていた。
肩に触れていた手を鎖骨に滑らせると、優は顔を赤らめて身をよじった。
遥人が「くすぐったい?」と聞くと、優は「平気」と、とてもそうは見えない顔で答えた。
最近は見上げるばかりだった優がなんだか可愛く見える。
遥人はいたずら心を覚えて今度は優の胸に触れた。
手のひらで少し押してみると、発達しはじめの大胸筋の程よい硬さと弾力がある。
(確かに優なのに、僕が知っている優じゃないみたいだ)
さらにそのまま触れている手を下に滑らせて腹を触る。
すると今度はうっすらと引き締まった腹筋に触れた。
(ガチガチの筋肉ってわけじゃないけど、ちゃんと引き締まっていて……やっぱり僕とは違うんだ)
そこで耐えきれなくなった優が、縋るような眼差しで遥人を見上げた。
「遥人、もう分かったんじゃない?俺、何かもう駄目」
遥人は優が可哀想になって、手を引いて起き上がらせる。
遥人は優を見上げて微笑んだ。
「僕も多分、優が好きなんだと思う」
その答えに優は喜んで良いのかどうか悩む。
「多分?」
「まだはっきりとは言えないかな」
「えー?」
優の不満そうな声に「ごめんね」と謝る。
(でもきっと、僕は優のことが好きになる)
それは遥人の中で密かな確信になっていた。




