第16話 中学3年生のリベンジ
突き抜けるような4月の青空から、眩しい春の光がさんさんと降り注いでいた。
まるでお祝いの朝のようにきらめく世界の中、校門の前に遥人の姿を見て、優は飛び跳ねるように駆け出した。
「おはよう!」
「おはよう。優は今日も元気だね」
いつもの変わらない遥人の穏やかな笑顔。
優はわき上がる喜びをかみ締める。
昨日まではまた別のクラスになるのではとヒヤヒヤしたが、運命の女神はようやく二人に微笑んでくれたらしい。
今年は遥人と同じクラスで一年を過ごせるのだ。
これでようやく二年間におよぶ雪辱を果たすことができる。
優は勝ち誇った笑みを浮かべてふんっと胸を張った。
「AIなんかなくても、俺は遥人と同じクラスになる運命なんだ!どうだ!俺たちを引き裂こうとした政治家どもよ!ざまあみろ!」
ハッハッハ!と笑う優を見て、隣を通り過ぎていく女子が「バカみたい」と吐き捨てていく。
「なんだと!?」
優が振り返ると、そこには優が女子を苦手になった、その元凶がいた。
忘れもしない小学三年生の宿泊学習。
遥人に対しては猫なで声で笑顔を振りまくくせに、優に対してはやたらと突っかかってきた女子、川村だ。
「おはよう。川村さん」
遥人が穏やかに微笑んで挨拶をすると、川村は一瞬遥人を見つめたまま固まり、すぐに頬を赤らめてうつむいた。
「……おはよう。遥人君」
そのしぐさに、優は一歩後ずさる。
(何これ?本当に川村か?)
小学校の頃は、もっとあからさまに遥人にすり寄っていた気がする。
それなのに今は、自分から声をかける素振りすらなかった。
優はそこでふと、さっき川村に言われた「バカみたい」というセリフを思い出す。
結局、川村にとって優は、遥人の隣にいる『芋』なのだ。
そう思うと何だかムカムカしてきた。
優の口から思わずこれまでの不満がもれる。
「話してるとこ悪いんだけど、遥人は友達の『芋』と一緒に教室に行かないといけないんだ」
その言葉に、川村ははっとして優の顔を見た。
小学三年生の時に優が言われた「芋にしか見えない」と言う言葉の『芋』の部分をそのまま使っただけなのに、川村はひどく傷ついた顔をしている。
けれどそれも一瞬のことで、すぐに優をキッと睨むと足早に立ち去ってしまった。
優は何か悪いことを言っただろうかと首を傾げる。
「遥人、俺なんか悪いこと言った?」
遥人は小さく息を吐いて首を振る。
「女の子は繊細だからね。僕らには難しいところもあるんだよ」
遥人が慰めるように優の肩に手を置く。
「俺、あいつ苦手なんだよな。小3の宿泊学習からずっと嫌われてるみたいだし」
ため息を吐いて項垂れる優に、遥人が眉尻を下げて微笑む。
「僕が昼休みになると優のところへ行っちゃうから、話が出来なくて困ってるのかもね。あの場所は僕と優だけの秘密だし」
優は「僕と優だけの秘密」と言った言葉に優越感を覚える。そしてそのまま遥人の肩を抱くと、自慢気に歩き出した。
遥人は困ったように苦笑する。
中学三年生になっても相変わらずな優を見ていると、これから先もずっと二人の関係は変わらないのではないかと思えた。
***
教室の窓側、一番後ろの席に遥人が座り、その隣の席に優が腰を下ろした。
優は改めて運命の女神に感謝する。
今回の席はある程度自由に決めさせてもらえたのだ。
特に遥人の隣の席は女子に人気が高く、遥人の意向で優が座ることになった。
(これでずっと遥人と一緒にいられる)
そう思った矢先、女子が三人ほど遥人の席の周りに集まってきた。
(ま、こうなるよなぁ)
こうなることはだいたい予想がついていた。
小学校の頃からモテていた遥人が、中学三年生になったのだ。
物腰の柔らかいイケメン男子を、女子が放っておくわけがない。
けれど、その中に先程の川村はいなかった。
川村の席を見ると、何か言いたげに遥人のことをじっと見つめている。
(女子って面倒くさいんだな)
優は遥人に話しかけるのを諦めて、授業の用意をした。
昼休みになると、遥人はいつの間にか姿を消していた。
優はいつものように、遥人が中学校の片隅に見つけた新しい『秘密の場所』にいるのだろうと席を離れる。
すると、川村が他のクラスメイトに見られていないか気にしながら、優の前にやって来た。
「何か用?」
優が素っ気なく尋ねると、川村は何かを考えるように視線を下に逸らす。
そして、そのまましばらく悩んだ後、呟くように「こんなこと、あんたに訊きたくないんだけど……」と前置きしてから口を開いた。
「宮瀬君、遥人君のことよく知ってるよね?好きなタイプとか、聞いたことない?」
みんなに聞こえないように小声で尋ねてくる川村に、どう答えたら良いものかと悩む。
優は首を横に振って興味なさげに答えた。
「さぁ?知らないけど」
川村はまだ何か言いたそうだったが、諦めて席に戻っていく。
そういえば、小学校の頃、川村とよく一緒にいた女子達が見当たらなかった。
川村は席に着いて、腕時計型端末から空間投影画像を映し出して動画を見始める。
優は今度こそ誰にも呼び止められないように、急いで遥人の元に向かった。




