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DIVE ~記憶の海~  作者: 月ノ宮 鈴
第一章 二人だけの夕日
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第15話 中学生になっても

 中学校の入学式の間中、優《ゆう》の表情は沈んでいた。


 とうとう遥人《はると》とクラスが別れてしまったのだ。


 小学校ではずっと同じクラスだったから、二人は一緒にいる運命なのだとすら思いかけていたのに、それは幻想だったらしい。


 優は自分の席が窓側の一番後ろの席だったことを良いことに、ぼーっと校庭を眺めていた。


 すると、右肩を誰かにポンポンと叩かれて、気だるげに振り向く。


 見ると、そこには陽太《ようた》がいた。


「よっ!今回は俺と優だけか。遥人も他の奴らもみんな離れちまったな」


 その笑顔に少しだけ救われる。


「陽太だけでも同じクラスで良かったよ。もし俺一人だったら明日から不登校になってたかも」


 まだ表情の晴れない優を見て、陽太は「大袈裟《おおげさ》だなぁ」と言いつつ腕時計型端末《デバイス》から空間投影画像《ホロスクリーン》を映し出して、優の前に差し出した。


「小学校の間は、この児童マッチングAIのおかげで同じクラスになれてたんだよ」


 スクリーンには『児童の心と心を繋ぐ、未来への架け橋』と言うキャッチコピーと、その下に子供達が手を繋いでいる絵が表示されている。


 陽太はデバイスを自分の目の前に戻して内容を読み上げた。


「えーっと、少子化対策の一環として、児童の孤独感や不登校を防ぐための最適化配置を行う制度。だってさ」


 優はさらに落ち込んだ。

 これまで遥人と同じクラスだったのは運命でも何でもなく、AIのマッチングによるものだったのだ。


「それじゃあ、何で今年は一緒になれなかったんだ?」


 優の質問に、陽太はホロスクリーンの映像をニュースに切り替える。


「最近問題があってさ。子供たちのコミュニティの多様性を奪う懸念《けねん》があるってことで、改正が求められたんだ」


 陽太の説明を聞いて、優はまた大人達の勝手な都合で振り回されたのかとショックを受けた。


「そのせいで俺と遥人は離れ離れになったのか!大人なんて嫌いだー!」


 机に突っ伏して嘆《なげ》く優の背中が、再度ポンポンと優しく叩かれる。


「陽太。俺は明日からストライキする!俺から遥人を奪った大人たちに抗議するんだ!」


 そう言って振り向くと、そこには遥人が立っていた。

 先ほどの優の言葉を聞いて嬉しそうに微笑んでいる。


「遥人!?」


「新しい秘密の場所を見つけたんだ。明日からはそこで落ち合おうね」


 優は嬉しさのあまり、遥人の腰にぎゅっと抱きついた。


******


 中学2年生のクラス替えでも優と遥人は同じクラスになれなかった。


 今度は陽太まで別のクラスになり、優の怒りは制度を変えた政治家たちに向けられていた。


 昼休み。


 遥人と二人きりになって共感接続を繋いでいた優は、制度の変更と、子供たちの繋がりを断とうとする政治家たちへの不満を流していた。


『大人の都合で俺たちが引き離されるなんて横暴だ!これは生徒たち皆でストライキをして抗議するべき案件だと思う!』


 そんな優の気持ちを受け入れながら、遥人は包み込むように温かな気持ちを送る。


『たとえ別のクラスになっても、僕はいつも優のことを考えているよ。大人の都合で解《ほど》けるような絆《きずな》じゃないだろ?』


 遥人の気持ちが優の尖《とが》った心をやんわりと包み込む。


 優は目を開けると、遥人の手を握りしめて頷いた。


 小学生の頃はよくこうして手を繋いでいたことを思い出す。


 いつの間にか遥人より背が高くなって、声も低くなった。

 少しずつ変わっていく周囲の環境や自分の体に、無意識に不安になっていたのかもしれない。

 

 遥人はずっと変わらず隣に居てくれるのに、優は時々無性に寂しくなる。

 最近は遥人に告白する女子も出てきて、昼休みを二人きりで過ごすことも難しくなり始めていた。

 クラスの友達とも普通に話はするけれど、遥人が教室にいない寂しさは拭えない。


 そんな優の寂しさが、共感接続を通して遥人の中に流れ込んで来る。

 遥人は優の手を握り返して『大丈夫。僕らはずっと一緒だよ』と送り返した。


 二人は心と手を繋いで、昼休みの時間を惜しむように、互いの存在を確かめ合っていた。


******


 街がイルミネーションで色とりどりに照らされる頃、優は広場に展示された巨大なクリスマスツリーを眺めていた。


 ツリーの隣に設営されたステージの上では、新人アイドルたちがサンタの衣装で歌い踊っている。

 それを観て優は(こんなに寒いのにミニスカートなんか履いていて寒くないのかな?)と疑問に思った。


 そろそろ帰ろうかと踵《きびす》を返すと、すぐ近くにクリスマスツリーを見上げる遥人がいた。


「遥人!」


 優が駆け寄ると、遥人は驚いた顔をして、隣に立っている男性の顔を見上げる。


「お父さん、彼がいつも話してる友達の優だよ」


 優は慌てて、遥人の隣に立つ、白髪交じりの優しそうな男性にお辞儀をする。


 遥人の父親と初めて会うのだと思うと、優は柄にもなく緊張していた。

 昔、遥人が祖父母の家に初めて訪れたときの、あの丁寧な自己紹介をふと思い出す。


「はじめまして、宮瀬優です。いつも遥人君にはお世話になっています」


 すると、遥人の父親も「こちらこそ。いつも遥人がお世話になっています」と言ってお辞儀をした。


 そのしぐさがあまりにも遥人にそっくりで、優は本当に親子なんだなと思った。


 遥人の父、晴臣《はるおみ》は遥人の母、友江とは全く違って、とても穏やかな人だった。

 優に対しても気さくに話しかけてくれて、遥人の優しい部分はこの人から受け継いだものなのだろうなと思う。


 遥人も晴臣と話すときだけは屈託なく笑って、とても嬉しそうだった。

 いつもどこか大人びている遥人の新たな一面を見て、優は遥人から時折流れてくる友江への不安を思い返す。


(遥人がいつも笑っていられたら良いのに。この人なら遥人を安心させてあげられるんじゃないかな)


 そう思って晴臣を見るが、優にはどうすることも出来なかった。



 別れ際、晴臣は優と遥人にプレゼントを渡した。


「俺まで貰《もら》って良いんですか?」


 優が驚いていると、晴臣は「いつも遥人がお世話になっているお礼に」と言って微笑んだ。


 晴臣にお礼を言ってから包みを開けてみると、透明でスタイリッシュなプレートが入っていた。


 電源を入れると、今日の日付と時間、それと天気の絵が表示される。


 隣を見ると、遥人が開けた包みの中にも同じものが入っていた。


「実はこれには仕掛けがあるんだ」


 そう言って晴臣がプレートを磁石でカチッと横に連結させると、画面が1つの大きなワイドスクリーンに変化した。

 そこに、クリスマスツリーの前で笑い合っている優と遥人の姿が映し出される。


「いつの間に撮ったの?」


 遥人が驚いていると、晴臣は「内緒」と人差し指を口の前に立てて片目を閉じた。



 晴臣と別れた後、遥人は申し訳なさそうに先ほどもらったばかりのプレゼントを優に預けた。


「家に持って帰ると捨てる事になるから、優に持っていて欲しいんだ」


 遥人の事情は共感接続で知っている。


 優はもう一度、二つのプレートを繋げて画像を映し出した。 













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