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仕込み  作者: 真鍋
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9

 背筋の寒気は未だ引かなかった私は先生に断りを入れるともう一度温泉へ向かった、15分程浸かっていたが表皮は暖まれど皮下組織は未だ血の気を失っていた“向こうの都合”“補って余りある”何度頭から振り払おうとしても先生の声が耳の奥に残っている、そして何度も去来する。


『見えたら終わり』


 私は耳と鼻を押さえ浴槽へ潜った、聞いた事のある映画のサブタイトルが脳内でリフレインされる、視界にはキラキラと光が揺れドボドボと水が注がれる音が響く、ボコボコと口から呼気が出ると私は胎児が羊水から産まれ出るイメージで勢い良く水面へ出た、少しはマシになったか私は頭からシャワーを浴びると部屋に戻った、部屋へ戻ると先生は胡座をかきお茶を啜りながら新聞に目を通していた私は今は夜ですよと先生に声を掛けると先生はそれもそうだと笑われてお茶を持ち広縁(ひろえん)に移動されると椅子へ座られた、私もそれに続いて広縁にゆくと先生の対面へ座った窓の外には遠くに灯る漁火が見えた。


「先生、先生でも怖い思いをした事おありなんですか?」


 先生は唐突な質問にキョトンとされていたが顎に手を置くと首を傾げ記憶を呼び覚ましていた。


「改めて怖いと思う事は⋯」


 先生は一度言葉を切ると再度記憶を遡っていた。


「まぁいつも平気って訳じゃない適度の恐れは抱いてるよ、それでも怖い⋯」


 再度、言葉を切られ先生は外の漁火を見られているのか長い時間考えられると思い掛けない事を仰った。


「⋯また逢う日まで」

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