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奴の算段は此処を炎の海にしてそれを纏い行手を阻む者を焼滅しそして飽きるまで破壊する、発電所で私へ向けて放った見えない火球は弱った状態では撃てないのだろうか、しかし触れた者は餓鬼を消炭にした様に奴には無意識に発動する炎の鎧がある、守りの弱い、即ち奴は法力の弱い者から狩ってゆく、奴の常世での地位がどの程度のものか知る由もないが1人目は通り過ぎる様に消炭にされた、2人目は少し手前で立ち止まったが法力が弱まった瞬間消炭と化した、残るは庄崎と先生のみ、我々はこうなれば戦力にはならない触れて燃やすなら泡消火剤は役には立たない今できる事は未だ減らない餓鬼を相手にするだけであった、先生を見る余裕もなく餓鬼を蹴散らす男も庄崎が気になるのだろう無意識に庄崎へ近付こうとしていた。
奴は2人を消炭にすると次の相手を見定める為左右へ意味もなく振れていた、まるでショーケースに並ぶ商品を吟味する様に、見た目、価格、味、奴の食指は何方へ向くのだろうか、蛇に睨まれる蛙そんな具合だったが蛙が蛇に噛み付いた、牙ある蛙もいるのだ、庄崎は剣の刃に指を滑らせ奴に向かった、途中進路にいる餓鬼を斬り刻みながら向かう庄崎は奴の直前で身体を回して渾身の力で横へ薙いだ、音は聞こえはしなかったが奴の一部が削ぎ落ちた庄崎は勢いのまま連撃を入れる、今度は頭上から一撃、今度は一部が崩れ落ちるといけるのかと私は歓喜した、庄崎の連撃は止まらない今度は逆袈裟から体を捻り横薙ぎ、一撃一撃は確実に奴へダメージを与えていた、庄崎は脇構で止まると人差し指を立て呪を唱え奴に胴抜きを放った、が奴は消えた庄崎は残心で剣を振り抜き固まっている刹那、奴は庄崎の背後に現れて庄崎へ触れる。
「唵っ!」
突然、先生の声がした奴の一部が庄崎の背中を舐め止まった、庄崎の背中からジュジュと嫌な音が響くと庄崎は泡の中へ消えた、消えた後からフワフワとシャボンが浮き上がる、先生の法力で奴の動きを止めようとしたが間に合わなかったのか、いや消炭ではない、しかし致命的でないと言われれば断言はできない、すると男は叫び走り出すそれはそうだろう、あれが先生なら同じ事をする男は腰からH&K USPを抜くと奴目掛け15発全弾打ち尽くし庄崎の元へ駆け寄った、しゃがみ込むので男の背中には餓鬼が抱っこをせがむ子供の様に取り付く、だが関係なく男は庄崎を抱え上げ何処かへ走り出した、いやいやいやと言いたくなる光景であった、この場には無数の餓鬼、先生と私そして奴、自ずと奴は先生へ向かう庄崎を消炭に出来なかった恨みを根に持つタイプだろうか、しかし先生の法力は奴すら抑え込めるのだ現に奴は今振り返りも出来ないのだ。
どうして私はこうもネガティヴ思考なのだろうか、先生はそんな私に『良いではないですか最悪を考える事は局面においては重要な事ですよ』と言われた、この局面、先生は奴を抑え込んでいるその次はどうだ頼みの庄崎は何処にいる、都合の良い漫画の如く餓鬼が味方になり奴へ襲いかかる、私は鼻で笑った次々に生産される消炭を想像した、では次はどうなる私が覚醒して⋯厨二病かと己に悪態を吐いた正直に脳裏に浮かぶ事を言おう今、奴は抑えられているが直に先生も力が弱まり法力の壁は破られるだろう、そしてそこには先生の黒い塊が私の取るべき行動は決まった、万に一つも私に奴を倒す力はない、ではどうするか簡単だあの男と同じく先生を抱え遠くへ逃げる事だ私は意を決して泡の海へ足を踏み入れた、ここぞと餓鬼が取り付くが引き剥がし奴へ投げ付ける効率的な焼却炉だった、先生の背後に立つ私は驚いた後ろに立つだけで先生から放たれる熱がわかる先生は集中されておられるのか私に気付かれていない肩へ手を置き私の存在を知らせようかとも思ったが先生の気が逸れてはと止めた私はギリギリまで此処で待ち然るべき時が来たら先生を抱え逃げ出す、不思議と先生へ近付くと餓鬼が寄って来なかったある意味ここはレッドゾーンではあるがグリーンゾーンでもあった。
そしてその時が迫り出した事を奴が告げた、鳥黐から身体を剥がす様に奴がゆっくりと振り向く、あの黄色い目は今やマグマの様に赤黒い悉く邪魔をされた怒りだろうか明らかにその目は物語っていた、先生は更に気合を入れる腕の血管が今にも破裂しそうに浮き上がる、背中は汗が自らの熱で乾燥し天使の羽が出来ている“先生そこまでしなくとも”私は悲しくなったこの怪異は特定の人物に向けてではない敢えて言うなら天災だ、被害は大きいが避難すれば人的被害は出ないのだ先生もう良いですよ逃げましょう。




