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電源が落ち保安灯と月明かりだけが施設内を照らしていた、これから攻撃班がタービン室に向かう合図であった我々は車両を降り敵を待ち受けるタンクに向かい歩いていた、風はない密閉されている筈であるが重油の臭いと潮の臭いがが混ざり頭が痛くなるマスクも用意してくれれば良かったものを詰めがやはり甘いなとあの女性を思い浮かべた、左手にはタンクが並んでいるやはり現物は予想通り巨大で私は弱った敵が現れここで何をするのか想像してみたタンクの縁に座ると中の重油を口を尖らせ吸い上げるのか、それとも重油のプールに飛び込むのかコレでは漫画だ、どの道タンクは浮遊蓋で密閉されている上部が開いてる訳ではない、では敵は何をするのか想像はついた多分炎上させその炎を纏うのだろう敵は暖房装置や調理器具ではない炎そのものがエネルギーなのだ最悪の展開、我々の敗北イコールこの一帯は火の海になるのだあらゆるインフラが停滞するだろう東側には羽田空港もある損益はどの程度か、いやそんな損益は時間と共に解決するが先生や我々の命は幾ら時間を掛けようとも戻る事はない何故プランBを検討しないのか不思議で仕方なかった、そこ迄彼女は信用に足るのだろうか初見の私には理解できなかった。
合図からそろそろ10分が経とうとしていた、特に変化は感じられなかったハズレだったのかそれともただ単に不具合箇所の見落としだったのか、我々は只々重油臭い場所に佇んでいた如何にも何もせず待つと言うのは苦手である、先生達は臨戦の構えをとっているが不謹慎にも私は持ち場を離れタンク外壁を見上げつつ裏手に周ってみた、正直戦力にはならないし足手纏いになりかねない先生には本物の方々が付き添っている、疎外感どこかそんな気持も心の片隅にあったのだろうか裏手に周ると更に重油の臭いが増し吐きそうになる私は鼻の下を腕で押さえ何とかしようとするも何の足しにもならない本当に何か込み上げてきそうになり私は天を仰ぎ見た、夜空は大きな2つの円弧で切取られ月はタンクの陰で見えず星など東京でそもそもであった、タンク外壁が白く不気味に浮かぶ、その反面、夜空を別つ円弧は月明かりを受け白く輝く、この臭いさえなければこれはこれで幻想的でもある電源は落ち何の作動音も聞こえない微かに風がタンクの間を抜ける音が耳へ届く、先生達にも動きはないようだ静かなものであった。
“カンッ”突然何かが落ちた、いや当たった様な音がした、様々な経験をしてきた私だが一応にビクついた、そんな自分が少し可笑しくなる、すると又、カンッと聞こえた今度はビクつく事なく音のした方を向く“カンカンッ”と連続音、今度はそれに続きカラカラッと何かが転がる乾いた音が、発生源を探るもこの暗さではそれは困難を極めた音は続きカンカン、カラカラと鳴り続く、程なくして発生源が判明したタンク外壁に礫か何かがあたり路上に落ちると転がっていた、1回なら偶然もあるだろう、しかしそれは現在進行形明らかに異常事態、私は声を上げた。
「先生ぇ!こちらに来て下さい、こちらが本命ですっ!」
先生と他の一同が駆け寄ってきた私はタンク外壁を指差す、礫はあたり続けていた、しかも今はその軌道さえわかる程に礫は赤色化していたのだ先生が声を上げた。
「物理攻撃ですか、これは少々厄介な相手ですね」
言い終わるか終わらない刹那、ドゴッ、礫のひとつが外壁を貫通した鋼鉄製1センチ以上あるだろう外壁に穴が空く、そこから黒い筋がツツッと垂れると勢い良く重油が噴き出した、タービン室での闘いはどうなっているのだ、こちらが主戦場だったのか私は吹き出す重油を眺めながら後退った、背中に誰かがいた振り返ると先生が笑顔で私に仰った。
「清井君、急ぎこの事を発電所の庄崎さんへ伝えて下さい我々はここを離れる訳にはいきませんので」
「しかし先生っ、ここに居ては炎に巻かれるだけでは、電源が落ちてますし消化装置も働きませんよ!」
「それでもです」
先生は威厳ある声できっぱりと言われた、言い返せなかった言い返す言葉もなかった、こうなると先生は梃子でも動かない私は踵を返すと車へ急いだ。




