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仕込み  作者: 真鍋
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 ロビーにはまだ従業員達がいた、談笑をしていたが我々を見るや黙り込み神妙な表情、何人かは黙礼をする又かと思うと同時に如何にもこのシチュエーションに遭遇すると談笑の話題は自分の悪口ではないかといつも考えてしまう自意識過剰か、いや統合失調症、回避性パーソナリティ障害、その辺りか、いや“気の所為”これが最適だろう、支配人は一緒にラウンジ来るかと思いきやフロントカウンターへ入り奥の部屋へと引っ込んだ、しばらくすると部屋から出てきて我々に言った。


「設備業者は来週でないと伺えないと、工務店はすぐ来ると言う事です」


 先生はそうですかと言って『工務店には基礎の解体と再施工、その見積もりをしてもらって下さい』と支配人へ伝えた、続けてコンクリート打設の際は別のコンクリート業者への依頼を忘れずにと付け加えられた、支配人はポケットからメモを取り出しそれを書込むと反芻(はんすう)していた。


 結局、設備業者は来週という事で流石に此処へ留まる訳にもいかず明日出発する事にし支配人へそれを伝えた、支配人は不安げな表情になっていたが見積額がわかり次第オーナーと相談の上連絡をくれと言うと支配人は間髪入れずオーナーの耳に入れば間違いなく、そこまで言うと私を見るのだその眼差しには全くの同意であった、外国人オーナーの国籍は多分“中国”であれば出資なく儲けが出るとあれば100%飛びつくであろう、そして儲けるだけ儲け旅館の価値を上げ転売、勿論地下のあれは丸ごと移設、本国にでも持って行くのか、本物なら党への献上もありうる、偏見もあるがそれが私の中で抱く彼らのイメージだ散々冷や水を掛けられた経験があるので分かる、だったら解体の時、あの子が宿る石だけを回収、党本部で恥をかけば良いと悪巧みを密かに考えていた。


 その晩は食べ切れない程の蟹が山積みされた別室に案内されると先生は獣の如く蟹を平らげていった私は食べ切れないと踏んでまだ旅館に残っていれば源太郎や従業員達を呼んでくれと支配人へ伝えた源太郎は既に退館した後であったが家は近所ですぐに孫を引き連れやってきた、それから先生と源太郎の昔話に花が咲きそこへ仕事を終えた従業員が数名やってきたが流石に寂しくなったテーブルを見た支配人が湯掻くだけならと厨房へ行き更に10杯の蟹を普通の盆に乗せてやってくるので皆大笑い、支配人は更に隣町の中華屋へ出前を頼む大盤振舞い宴会は深夜まで及んだ。


 結局、酔い潰れた源太郎は孫と共に旅館へ宿泊、従業員も飲酒で帰れないと仮眠室や予備のマットレスを引っ張り出し眠る始末、田舎のおおらかさがまだ此処には残っていた、これが都内であれば支配人以下何らかの処分は免れまい、元コンサルタントとしては苦言のひとつも言いたいところであった。


 翌朝、他の客からはあの2人は何者だと訝しがられる程の見送りを受け旅館を後にした。


「先生、申し訳ありませんでした余計な事を」


 先生へ謝罪した、すると先生は


「蟹の一件ですか?」


 とズレた事を仰った天然なのか惚けて(とぼけて)おられるのか正直掴めない私は『いいえ』とだけ伝え車を走らせた。

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