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仕込み  作者: 真鍋
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 部屋へ戻るとチェックアウト30分前、先生の身の回り品や自分の荷物を急ぎまとめてロビーに向かった、精算を済ませて振り返ると先生はラウンジでくつろいでおられた、今日の先生は何処かおかしいそんな事を思いつつ先生に声を掛けた。


「参りましょうか先生、車をまわしてきます」


 私は言うとエントランスへ向き直り一歩踏み出そうとした時先生がとんでもない事を仰られた。


「清井君そんな事より、コーヒーでも飲まないかい」

 

 先生は有無を言わさずコーヒーを2つ頼まれた、私は首を傾げ先生を訝しげな表情で見つめながら対面の椅子に腰を下ろした。


「先生、行かなくて宜しいので」


 先生は手を振り構わないよと言う、やはりおかしい、いつもの先生であれば急かしはしないが一切の無駄なく行動される、しかしどうだ今日の先生は売り手市場の部長そのものであった、見渡せばチェックアウトで騒がしかったロビーもいつの間にやら人気(ひとけ)もなくなり遠くで掃除機の音がしていた、私はいつのまにか疑念の眼差しで先生を見ていたコーヒーを飲む時も視線を外さず一挙手一投足に目を配った、何かに取り憑かれたか、いや先生に限ってそれはない可能性があるとすれば多分、私が先生に成りすました何かに騙されているのが濃厚だろう、そうだ“蟹”そう言えば昨晩の夕食はどこかおかしかった、いつからだ、どのタイミングで、疑念は益々膨れ上がってゆくがそもそも私如きを騙してどうしようと言うのだ、先生に敵わぬとみてそばに居る私に何か仕掛けようとの魂胆か、すると思慮を巡らせている最中、階段を駆け上がって来るけたたましい足音が聞こえてきた視線をやるとスーツ姿の女子従業員であった彼女は勢いそのままにフロント奥の部屋に駆け込んで行った、私は何事かとフロントへ視線をやるとその女性であろうか金切り声が聞こえた。


「しっ支配人、きょ今日でやっ辞めさせて貰います、もぉ無理です、わたし、わたし⋯」


 まだ客がいると言うのに無作法極まりない従業員もいるものだと呆れているとその女性が奥の部屋から出てきた、そして瞳を拭いながらエントランスから出て行った、女性は泣いていた私の脳裏には“セクハラ”と言うワードが浮かんだ、よく聞く話ではあるがコンプライアンス教育は行なってないのだろうかSNSに呟かれでもすればこの程度の旅館は詰みだと言うのに私は同情を禁じ得なかった。


「困ったもんですね先生」


 そう言って先生へ向き直るとそこに先生はおらず辺りを見渡すと先生はフロントへ向かい歩いていた私は慌てて先生の後を追った、フロントには女性を追いかけてきたのか支配人らしき初老の男性が有耶無耶しい表情で立っていた。


「何か御座いましたか、えっーと支配人の方で宜しいのかな?」


 先生は初老の男性に聞いていた、男性はいいえ問題御座いませんと返答したが先生の格好を見るなり急に事の顛末を話し出した。

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