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Episode7:超人によるストレスについて

episode7です。


 その次の日、私は改めて外に出ることにした。町のショッピングセンターに行くのは少し躊躇われたため、今日行くのは町の中心とも言える場所──駅ビルだ。

 なんだかんだ言ってもある程度栄えているこの町は、そこそこ大きな駅ビルがある。その中には若者からご高齢の人まで楽しむことができるような店たちが連なる。


「箱庭さん、お昼はそこのレストラン街にしませんか?」

「ああ……そうだね。それも良いかもしれない」


 実を言うとずっとこの町に住んでいるはずの私は意外にこの駅ビルを利用していない。いつも人が多すぎて少し息苦しいからだろうか。そもそもそこまで何か買うこともないからだろうか。寄っても本屋だけだ。


「エスカレーターってワクワクしませんか?」

「…ん?」

「私、なんというか、このエスカレーターの、下側が光ってるやつも好きなんです」

「なるほど?」


 彼女が言っていることは正直分からなかったが、楽しそうにしているのでそれを邪魔する気にはならない。彼女は目を輝かせており、その姿は新しく世界、外界というものに触れ合った赤子のようで、どこかに忘れてしまった私の中の探究心を刺激させた。

 しかしそれはそれとして、AIロボットであるはずの彼女がこのような表情をするのもやはりおかしな話ではあるが。もしかすると、私が想像しているよりもAIは遥か先にいるのかもしれない。誰かが言っていたが、AIはAI同士で進化するらしいし、そういうものなのだろう。もはや、心は人間のアイデンティティではなくなったのかもしれない。


「あ、すみません、この階に寄りたいです」

「別に「すみません」なんて言わなくて良いよ。寄ろうか」

「はい!」


 彼女はどうやら雑貨屋に興味を持ったらしい(これもまたプログラムされたものなのかもしれないが)。5階は大きめの雑貨屋と小さな他の店たちが並んでいた。

 彼女が向かった先には文房具コーナーがあった。そこには新旧様々な文房具たちが居を構えている。私は学生を終えてからもうかなり経つから、最近文房具としてそれらを見ることはほぼなかっただけに新鮮だった。


「……っていうか、今こんなの売ってるのか」

「あ、それ新作ですよ!」

「へー」


 少し手に取ってみた。それは一見するとただのボールポイントペンなのだが、どうやら中にAIが組み込まれているらしい。紙に何か書こうとすると、紙を認識してそれに一番合うインクとペン先を自動で選んでくれると書いてある。これは便利なのか?そして学生が使うには高い。


「ん?(めい)が見てるそれは……」

「これは人気商品のAI搭載消しゴムです」

「詳しいね」

「ずっと見t……全部データとして入ってますから!」

「そうなんだ?」


 結構な割合で紙ではなく電子画面を使用することが多くなった今でも、こうして紙を使う文化自体は残っている。不思議だが、なんとなく理由もわかる。紙をなぞったときの手が少し揺れるような感覚は、電子画面ではなかなか表現できない。

 まぁ、個人的には電子画面だとうまく文字が書けないから何だかんだ言っても紙を使ってしまうタイミングは多い。ここまで新しい文房具たちが登場していることは知らなかったが。


「!」

「ふふ」

 無邪気に小走りする彼女をみていると、何だか癒されるようだ。私に子供ができたら、こんな感じなのだろうか。まずは結婚だけどね。


 その後、2時間ほどフロアを行き来して、私たちはレストラン街へと向かった。




***




「………?」

「箱庭さん、何か?」

「いや……ちょっと待ってね」


 レストランで料理を注文して2分ほど経ったときだろうか。何故か急に胸騒ぎがした。私はなんとなく席を立ち、異変を感じた方向へと少し歩いた。

 すると、私は店の前で何かを大声で叫んでいる男を発見した。


「ワタシはこのヨをシハイするトチガミ様の使いデアル!我らガ神は、これヨリ、コノ町ヲ特別区画トスる!!」


 その男は明らかに様子がおかしかった。言葉の発し方に違和感があるだけであればまだそんなものかとも思うが、それよりも表情の方に私の意識が向いた。

 男はまるで何かに操られているかのように、もしくは夢の中にいるかのように、虚のような表情をしていた。はっきりとした激情を店員に向けているにも関わらず、その激情には心が宿っていなかった。


「…」

 俺は何かが起こることを確信して、すぐに小走りで(めい)の元へ戻った。

「箱庭さん?」

(めい)、こっちへ来て」

「……え?」

 そして強引に彼女の手を引いた。少し抵抗はあったが、ここは移動を優先した。

 私は命を連れて、店の奥、トイレがある場所に行った。トイレは幸い、男女兼用のものが1つあった。

「は、箱庭さん?」

(めい)、少し隠れるよ」

「え、え?」

「多分、まずいことになる」


 私の心臓は、不快なほどに肋骨を内側から叩いていた。

 これが杞憂であったなら、それで良い。私がただビビりであっただけなら、後で(めい)に謝れば良いだけなのだから。

お読みいただきありがとうございます。

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