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Episode1:高揚

第2章1話です。


 安心で快適な姉さんの家で一夜を過ごしたのち、私たちはまた少し話をして、再び長くなるのかもしれない別れを惜しんだ。

 前に送れていなかった姉さんへの誕生日プレゼントも渡すことができたし、目的は果たせたと思う。


「無理しないでね?私が言えたことじゃないかもしれないけど、本当に」

「そうだね。気をつける」

「あ。あと、(めい)ちゃんにもよろしくね」

「え?あ、うん」


 私は帰りも(めい)と共に徒歩で駅に向かった。命はこの2日いろいろな町を見たことで感性が刺激されたようで、今までよりもよく喋っていた。AIだからなのか、命はとてもものを覚えるのが早くて、話を聞いているとこちらも勉強になる。


「あ、善さん。これ買っていきませんか?」

「これ?えーと、え、……これは何?」

「今流行っているキーホルダーです!全国いろいろな場所の駅ナカで販売してるんです!」


 (めい)は駅の中にあるチェーン店の棚にかけてあったキーホルダーを私に手渡した。キーホルダーには『地名』が書かれていて、そしてその周りに『その町の景色』が印刷されていた。


「この空白は?」

「ここには、買った時の日付を店員さんが判子で押してくれるんですよ」

「……なるほど」


 その後も(めい)からいろいろと説明を受け、結局私たちはこのキーホルダーを2つ買うことになった。正直私、1人だったら絶対に買うことはなかっただろうからとても新鮮な気分だ。

 いや、ただ、それにしてもこの情報社会においてここまでアナログなものが流行っていると言うのは驚きだったが。10代が記念に買うことも多いらしい。


「お揃いですね」

「そうだね」

 私はこういうものを買ったことがあまりなかったから、少し楽しい気分になった。折角なのだからこれからこのキーホルダーを大切に使っていこう。


 私たちはその後、駅の小さな売店で軽食を購入して再び電車に乗り込んだ。もう緊張もすっかり解けていて、帰りの電車は安心して乗ることができた。

 私は少しだが、自分の心が癒えていくような感覚を覚えた。




「……はぁ」

「やっぱり地元は落ち着きますね」

「そうだね。何故か安心するよ」


 そして住み慣れた町の駅に戻ると、やはりなんとも言えない安心感が込み上げてくる。

 私は比較的空いている駅のホームで、大きく深呼吸をする。そしてカバンに入っていた炭酸飲料を一口飲むと、階段を登った。


「……あ、今日はこっちから出ようか」

 駅の改札は複数あり、今日は駅ビルに接続している側から出ることにした。何故かといえば、このまま夕ご飯を食べていってしまおうと思ったからだ。

 命も乗り気であったため、私たちは駅ビルの8階にあるレストランフロアへ向かった。


「……おお」

 思えば複数ある駅ビルのうち、この駅ビルには最近入っていなかった。この建物には巨大なエスカレーターがあり、それは複数階を突き進むのであるが、やはりというべきか、体調を崩してからこのエスカレーターがより苦手になっているようだ。

「善さん、大丈夫ですか?」

「あ、大丈夫」

 (めい)はさりげなく私の手を握ってくれた。私が不安に思っているのを察知したのだろう。私は昔から高いところから落ちる悪夢はよく見るが、悪夢を見たその瞬間のような恐怖が時々やってきた。


 8階に着くと、私たちは少し相談して店に入った。 比較的値が張る店ではあったが、今日は遠くに行けた記念ということにしておこう。

 私たちはそこでゆっくりと食事をし、満足して家に戻った。




***




 帰りに飲んだ酔い止めのせいなのか、(ぜん)は帰るなりそのままベッドで寝てしまった。もしかすると久しぶりの遠出の疲れが出たのかもしれないが。

 さて。善が寝るなり、(めい)は自室で作業を始めたようで、何やら楽しそうだ。


「だんだんロードマップが描けてきましたね!」


 机に広げた巨大なモニターの空欄に、(めい)は丁寧に文字を書き込んでいく。

 実を言うと、(めい)は一応精神科AIという体でこの世界に降りてきているために、定期的に医師と連絡を取っている。幸いなことに、現状では丁寧にレポートを仕上げることによって医師を欺くことに成功していた。それが良いのかはともかくとして。


「後は……今度一旦向こうに帰るための計画も立てましょうか」

 (めい)は神として生まれてから、ここまで自由に動くことができる機会など1度もなかったために、かなり高揚していたのは間違いない。

 もしかすると、神は解き放たれるとこうなるのかもしれない。


「次の段階は──」

お読みいただきありがとうございます。

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