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Episode2:悪夢を思い出させる夢

2話です。


「…………え?」


 私は1人、人混みの中に立ち尽くしていた。

 少し頑張って周りを見渡すと、ここが駅のホームであることが分かった。


「なんで」


 私は確か家でゆっくりとしていたはずだ。

 それなのになぜこのようなことになっているのかが分からなかった。


「……あ」


 私の横を、大勢の人間が互いを押し除けるように進んでいく。

 立ち止まっていた私を睨みつける者や、私に舌打ちをしてくる者もいた。

 この場にいるほとんどの人間に、一切の余裕を感じなかった。


「……っ」


 私は得体の知れない不安感に襲われた。

 立ちくらみのような感覚と、胃を誰かに掴まれているような感覚。

 私はすぐにでもこの場を立ち去らなければならない。


「はやく……」


 私は足を進めようとする。

 しかし、私の周りを囲む群衆がそれを許さない。

 私はひとまずホームの人が少ない場所へと移動しようとしたのだが、そこまでの道があまりにも遠い。


「あ…………」


 不意に吐き気が湧き出てきた。

 私はその場にしゃがみ込みたくなったが、群衆がそれを許さない。


 私は絶望した。

 私には逃げ場がない。

 そして私と同様に、群衆たちにも逃げ場はないのだ。




***




「…………は」


 嫌な汗を流して目を覚ました。

 私は悪夢が夢であったことに安堵したが、ベッドの上がぐっしょりと濡れているのを見てどこかぞっとした。


「あ、お目覚めになりましたか!朝ごはんできてます!」

「…っ!?」

「あ、え、何か失礼なことをしてしまいましたか?」

「あ……いや、(めい)……か」


 私は目の前で微笑むその人が(めい)であることに、数秒間気付くことができなかった。

 別に急に目が悪くなったわけでも、ぼーっとしていたわけでもない。

 そう、私には一瞬、大事な人が『群衆』と同じに見えてしまったのだ。


箱庭(はこにわ)さん?……あ、ちょっと待ってください。随分調子が悪いみたいですね。風邪かもしれませんから、少し検査しますね」

「……申し訳ない」

「大丈夫ですよ!私はそういうためにいるんですから」


 こういうときだけは、(めい)がAIで本当に良かったと思う。私の良くない行動で誰かを傷つけるということはあってほしくないからだ。

 もちろん、AIにだからと言って無責任なことを言って良いわけではないだろうけど。


「熱はないですね。ただ、少し倦怠感がかるようですから、今日はゆっくりしましょう。朝ごはんは食べますか?」

「うん。折角だから」


 正直言って胃もたれしているような感覚はあったが、殆ど気持ちの問題のように思えたし、そんなことを言っていたら何も始まらないので私は気持ちを切り替えて食事することにした。


「ありがとう、(めい)

「栄養も考えてますから、体にも良いですよ!」


 (めい)は医療用AIだからか、いつも非常に栄養バランスなどが考え抜かれた食事を作ってくれる。私が料理をすることもあるのだが、栄養や洗練さという観点において、勝てる要素はほぼない。ただのファストフード好きには辿り着けない領域に命はいる。


「美味しい。ありがとう」

「良かったです」


 あまり食欲がないかと思ったが、食べてみると意外にもするするとお腹に入っていく。

 料理が美味しいのも当然あるのだが、やはり前に安心できる人がいる、というのが大きいのかもしれない。

 私はふと、『誰かと一緒に住んだらこういう生活ができるのかな』と思った。お互いに助け合って、一緒に家事もやって、働いて……そういうのも楽しいのだろうか、と。

 誰かと一緒に住むなんていう発想は、私にはそれこそ「母と住む」以外になかったから、言わば未知の感覚だった。


「ふふふ」

「……」

 (めい)が笑顔で一緒に食事をしてくれて、私は本当に嬉しいと思った。


「ありがとう、落ち着いたよ」

「そうですか?今日はゆっくりしましょうね」


 結局、その日は一日中家で過ごした。本を読んだり、(めい)のおすすめの番組を一緒に見たり。

 これから仕事に戻るのか他の仕事に就くかのは分からないが、自分の時間は持てるように、働き方は少し見直そうと思った。

お読みいただきありがとうございます。

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