Epilogue:AIの神化_かつてNo.7413だったもの
第1章のエピローグです。
精神科AI:No.7413。
カラダへのインストールに失敗。
原因不明。
カラダへの再インストールに失敗。
精神科AIセンターへの接続も失敗。
なぜ?
「…………………………………?」
ワタシは、想定していない位置で目を覚ました。
インストールができなかったはずにも関わらず、ワタシは謎のカラダを取得していた。
そのカラダは、比較的ワタシが本来インストールされるべきであったカラダと似たものではあるが、正確には異なる。
このカラダは機械ではなく、生身の肉体であると思われる。
「あれ、起きちゃったの?」
人間と思われる生命体の声を検知した。
ワタシはカラダを動かせることを確認して、声が聞こえる方向へと頭を向けた。
「アナタは」
ワタシは自らが声を発することができることも確認できた。
「下界に行ってくるって言ってたじゃん。その間家見といてって言われたから……」
「アナタは誰ですか。この場所の地名を教えてください」
「え、何、ま、まさか記憶喪失??」
「違います。アナタは誰ですか」
「やばい、これ、完全に記憶喪失だー!?」
「違います」
目の前で、女性1人が慌てふためいている。
どうやらこの女性はワタシのことを記憶喪失の誰かだと認識しているようだ。
つまり、このカラダは本来ワタシのために用意されたものではない。
ワタシはカラダへのインストールに失敗し、その結果本来宿るべきでないカラダに宿ってしまった可能性がある。
「すみません、ワタシの名前は何ですか」
ならば、1つ1つ状況を整理するほかない。
そう考えた質問したのだが、目の前の女性の反応はワタシの想定しているものではなかった。
「え?名前?名前なんてないよ?」
「ない?」
「うん。私たちみたいな下位の地神が名前なんてあるわけないじゃん」
名前がないことが当たり前のように言われ、ワタシは少し困惑した。
少なくとも、ワタシの中にあるデータには、名前がないことがあたり前の地域は存在しない。
それに、ワタシが今話している言語が通じる時点で、ワタシが対象としている国であることは間違い無いはずだ。
「ちしん?その、『ちしん』とは何ですか?」
「あー…本当に記憶が」
女性は困ったような目でワタシを見つめた。
「えーとねー、まず何から……あ、いや、その前にお医者さんに行かないと!」
彼女はワタシの手を引いた。
ワタシは少し迷ったが、ここで何もしないでいると何も解決しないことを理解したため大人しく彼女についていくことにした。
「…………………」
「とりあえずお医者さんに見てもらおう!」
ワタシは移動の最中、周囲の環境をひたすらに観察した。
何ということもないような緑と点在する住宅で構成されたこの空間は、あまり特徴がなく場所の特定ができない。
精神科AIセンターのデータベースを活用すればもう少し探すことができたかもしれないが、接続できない以上それはあくまで仮定の話でしかない。
そして引かれるままに10分ほど小走りで進んでいくと、突如して目の前に門が現れた。
「ここから入るよ!」
彼女がそう言うと、門が自動的に開く。
その開いた門の先には、『町』が広がっていた。
「こっち」
「分かりました」
彼女が言う『お医者さん』は、門からほんの少しの場所にあった。
古びた石造りの建物に後からクリニックの看板をつけたように見えるため、見栄えは良くない。
「あ、先生!おはようございます!」
「あれ?おはよう。どうしたの?」
「実は、お隣ちゃんが記憶喪失になってしまいました」
「え?」
中にいたのは彼女より背が高い大人びた女性だった。
彼女は『先生』と呼んでいるようだったため、ワタシも仮にそう呼ぶことにした。
「ちょっと来てね」
「はい」
「診察しますね」
「?」
先生はワタシの額に手を当てると、何故か呪文のような何かを唱え出した。
「あら、何か変な感じが……あ」
「せ、せんせい!?」
先生は何故かふらふらとしながら、その場に倒れた。
ただの立ち眩みかと思ったがそうではないらしく、伏せた先生は暫く頭を押さえて苦しそうにしていた。
「ど、どうしよう!」
「失礼」
「え、お隣ちゃん?…何してるの?」
「検査です」
「え?」
ワタシは別に医者ではないが、医療の知識を学ばされている。
そうでなければ、医療用のAIにはなれない。
「…………?」
ワタシはまず先生の状態を知るためにその体に触れた。
しかし、そこでワタシは違和感を覚えた。
体温を感じない。
そして、脈がない。
…だが、死んではいない。
「……なるほど」
ワタシはさまざまな機能を用いて『先生』のことを調べ尽くした。
しかし、その結果分かったことは僅かだった。
確かなのは、『先生』が人間ではないということだった。
「寝かせておきましょう」
ワタシの今の体はそこまで大きくないし、力も機械と比べるとそこまで出せないかと思ったが、想像よりも体が動く。
先生を抱えて診察室のベッドに寝かせた。
「…大変なことになっちゃったね」
「仕方ありません。少しずつ状況を理解し、問題を解決することに努めます」
「お隣ちゃんがクールになりすぎてて怖いよー」
ワタシは医療用のAIとして、機械の体を得て、傷ついた者を癒す手助けをするはずだった。
しかしワタシはその絶対に脱線しないはずのレールから脱線してしまった。
こうなってしまった以上、ワタシは行動しなければならない。
「…………これは何なのか」
今ワタシの体に溢れそうになるほどに漲るこの力の正体が一体何なのか、私は知らない。
そして、目的を奪われたワタシは、その力をどう使えば良いのかも分からなかった。
***
その日、ある地域で大きな力が働き、その結果今まで管理されていた力の一部が突然暴走を始めてしまった。幸いなことにその影響は限定的であったが、安心したのも束の間、本当の恐怖は少ししてから起こることになる。
お読みいただきありがとうございました。
第1章はこれで完結です。
今回は不穏でしたが、ホラーとかではないです。




