Episode16:親族の家における緊張と安堵
16話です。
駅から姉さんの家までは徒歩10分であり、前に来た時には比較的長い道のりに感じられていた。
ところが、実際に今歩いてみると、ある程度町の商業の道が伸びたことによって10分という時間が数分短縮されたような気がした。
「近いですね!しかも豪邸!」
「ああ…今改めて見ると、確かに大きいね」
姉さんの家は住宅街に溶け込んでいたが、やはり都市部の家に比べると巨大に思える。そもそも全体的にどの家も大きい。
そしてタイルに覆われた比較的窓の少ない姉さんの家は重厚感に満ちていた。
「……」
私は少しだけ胸が締め付けられるような感覚を覚えながらも、勢いよく自らの指をインターフォンに突き刺した。
『あ、はーい。出ます』
そして聞こえてきた声で、私は少し安心した。
「久しぶり、姉さん」
***
「ちょっと聞いても良い?」
「何?」
「その子が、その、AIロボットなの?」
「そうだね」
リビングに案内された私たちは、長めのテーブルと共にある席に並んで座っていた。
「へー……なるほど……私、一瞬、善の子供かと思ったわ」
「いや、流石にこんな短期間でここまで子供がここまで成長する訳ないでしょ」
「いやまあそうなんだけどね」
落ち着いて姉さんの反応を見るに、どうやら姉さんは命を見て少し驚いているようだった。
まぁ確かに無理もないだろう。命は見た目が丁寧に作られ過ぎていて、人間にしか見えない。近くにいる私ですら、命がAIロボットであることをいつも忘れてしまう。
「……まぁ、いいわ。それよりも、ご飯食べた?」
「あ、一応新幹線の中で命とね」
「最近のAIってご飯も食べるの?」
「そうみたいだね」
「ふーん………?」
姉さんは命のことをまじまじと見つめていた。ぐるぐると命の周りを回ったり、少し髪を触ったりもしていた。
なおその間、命は直立不動で対応していた。やはりAIだけあって一切動じる様子はない。
「……おっけー、わかった」
「何か分かったの?」
「得体の知れない技術だってことが分かった」
1人で納得した姉さんは、視線を私の方に戻した。
「そういえば、善、少し痩せた?」
「そうかな?別にそんなことはないと思うけど」
「いや、ちょっと前よりもげっそりしてるような。ちゃんと食べてるの?体調崩したらしいけど」
「食べてるよ。命が協力してくれるから」
「貴方普段からファストフードばかり食べてたし、今回の機会を活かしてもう少し体に気を使ってね」
「…そうだね」
痛いところを突かれたようだった。ファストフードばかり食べているのは事実だし、実際今が1番バランスよく食事をしているだろう。
また料理に関しても、「誰かに作る」わけではないなら、作るモチベーションは低下する。料理好きならば楽しみながら作ることもできるのだろうが。
「あ、お待たせ」
そんな話をしている間に、ドアの開く音と共に姉さんのパートナーである良さんが家に戻ってきた。
「お、善くん久しぶり!もう来てたか」
「お久しぶりです、良さん」
どうやら良さんは、軽い買い物をしに家の近くのコンビニに寄っていたようだった。
「よっと」
飲み物を大量にテーブルに置いた良さんが席についたタイミングで、私たちはまた話を再開する。
久しぶりに会ったからか、客観的に見たらどうでも良いような会話ですらも弾むようだった。
そして賑やかな時間は灯りと共に一旦幕を閉じる。予定通り私たちは家に泊まることになった。一部屋を貸してもらい、私と命は7畳ほどある広い部屋の中心に布団を敷いてそのまま寝っ転がった。
「……眠いな」
部屋は窓がある面のみやや黒いクロスが貼られ、その他3面は全てコンクリート打ち放ちの仕上げになっている。断熱は施しつつも全体的にモダンに纏められている家だ。
また、布団の中から高い天井を見上げると迫力がある。本当に姉さんたちが考えて考え抜いたことがよく分かる家だ。
「……寝られそうだな」
正直なところ、私は今日という日が来るのが少し怖かった。仲の良い姉たちの持ち家に行くだけなのだから、本当は緊張する必要もないのだろう。けれど、理屈だけで私の心は動いてくれない。心を封じ込めようとすると、今度は体がそれに反応してしまう。内心、私はいつ倒れてしまうのかを考えて震えていた。そう、私は自分が不安になることに不安になっていた。本来私が起こさなければ良いだけの負の連鎖が私に付き纏っている。
「……善さん?大丈夫ですか、少し汗をかいていますが……」
「大丈夫。これは、一通り終わったことを表してるだけだから」
私はそう言って、数秒もしないうちに意識を手放した。
***
「善様……大丈夫でしょうか?」
夜10時。家の電気は完全に消され、外からの灯りだけが部屋に入ってきます。
善様は少し汗をかいている様子でしたが、幸いそのまま眠りに落ちることができたようです。私は顔色を観察していましたが、特に問題はなさそうでした。
「……お疲れ様です」
私もまた、色々と満足してそのまま眠りに落ちてしまいました。快眠でした。
……まぁ、ただ後から思えば、このときの私は他人の心配をしている場合ではなかったわけですが。
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