Episode15:姿は変わる街
15話です。
『次は──。』
(…あれ?もう着いたか)
列車内の時間は思ったよりも早く終わった。食後の満腹感でお腹が張ったような酔いが起こることもなく、本当に落ち着いて移動することができて驚いたくらいだった。
「後はもう、1本だけだね。えーと」
「こっちですね」
「あ、流石」
命はAIだけあって駅の案内の読み取りが早い。私も苦手ではないはすだが、命には敵わない。
「おー」
さて、今私たちがいるのはA県で最も大きな駅だ。姉さんの家の最寄駅まではここから他の電車で1本で、所要時間は約40分となっている。
新幹線から降り、目的の電車のホームまで向かうまでの間、ガラス張りになっている駅舎の向こうにある街並みが目に入ってきた。
「前よりも色々建ってるね」
県庁所在地であることもあって、首都にあるような高層ビルがかなりの数存在していた。しかも前に来た時よりも密度が増している。私は高層ビルばかりを建てるのはあまり好きではないので複雑だが。
「あ、箱庭さん、あのタワーマンションとか、便利そうで良いですね。あの辺りだと眺めも良さそうです」
「あー……」
隣で命がタワーマンションを指差していた。そういえば私たちの町にはタワーマンションがほとんどないから命にとっては新鮮なのか、と納得した。
(タワーマンションか……私は高いところがあまり得意ではないから住めないだろうな)
私は苦手なものが多くて、選択肢を狭めてしまっている面はあるのかもしれない。ただそれでも、こだわりはどうしても出てきてしまうから、仕方ない。そういうしかない。
***
「……随分変わったな」
「この前箱庭さんに見せてもらった写真とはだいぶ違いますね」
「こんな駅ビル、なかったはずなのに…」
姉さんが住む町は、すでに私が知っているあの田舎町ではなくなっていた。アクセスは良いとはいえ、比較的山の方のこの土地にここまでビルが建ち並んでいるとは、写真を見るだけでは想像できなかった。
「…確かこのビルの所って、小さな商店だったような」
この駅周辺は元々は本当に住宅と少しの商店やコンビニ以外何もない空間だった。しかし姉さんが引っ越した後再開発が進み、だんだんと商業などが活発になっていった。
そして気が付けば、駅前の小さな店も周囲と同時に大きなビルに生まれ変わっていたらしい。
「ピカピカですね!ガラスまみれです」
「それ褒めてるの?」
駅直結のビルに近づいてみると、外壁にさまざまな飲食店やその他店舗の看板が貼られていた。有名なものから少しローカルなものまで多様で、休日はここで暇を潰すこともできるかもしれない。
案内を見ると、このビルは商業棟・オフィス棟・公共棟から構成されているようで、公共棟には市の図書館や憩いの場であるオープンスペースがあるらしい。再開発はギリギリまでモノを敷き詰める傾向がある中で、かなり余裕を持った作り方をしていた。
「あれ、善くん?」
「……え?」
「善くん、久しぶりだね。元気だったかい?」
商業棟の1階を回っていると、土曜日で混雑している中、ふと後ろから声をかけられた。この声はどこか聞き馴染みのあるもので、私は数秒後にそれを理解した。
「山下さん、お久しぶりです」
「ふふふ」
1階は所謂デパートの下にある食品を扱った小さな店舗がひしめいていた。その一区画に、私の記憶の中にあった駅前の小さな商店が、名前を変えず商品も変えず入居していたのである。
「随分と景色が変わりましたね」
「そうなのよ。なんかよく分からないギラギラのビルができるって市に言われたときはびっくりしたわ」
そして3代目の店主の山下さんは、確かもう60近いと思うのだが、そうとは全く思えない素早い動きをしていた。なお、今彼女は店舗の端でpcを操作しながら私と話している。私とは違って器用な人だ。
「で」
「?」
「そこにいる子は?」
「子?……あ、命のことか」
「見たことないけど、誰?」
「あ、いや、命は」
私は何故か、山下さんに唐突に睨まれた。鋭い眼光に私は怯みそうになったが、信用している人だから正直に話すことにした。
「───ということで、この子はそのAIロボットです。あの…別に私の子供とかではないです」
「あら、大変だったわね」
「…あ、はい」
事情を丁寧に説明すると、山下さんは私を睨むのをやめた。私はそれを見てひとまず安心した。
「へー、命ちゃんと言うのね」
「こんにちは」
「あら、こんにちは。そうね……ふーん」
「何か?」
「いいえ。なんでもないわ。……ああ、それよりも」
山下さんは命から視線を逸らすと、そのまま店の裏にある従業員用のスペースへと駆けていった。相変わらず俊敏だななどと私が思っているうちに、山下さんは奥から私の知り合いを連れてきた。
「ああ、木霊さんもいたんだね。久しぶり」
「…………………………あ、あ、こん………………………にちはあ……」
「……あれ、体調悪い?」
「あ………いやっ………そんなことは」
「そう……?」
その知り合いは山下さんの娘である木霊さんだ。彼女とは私が初めてこの地に降り立った時に、訳あって知り合いになった。
友達と言って良いかは彼女次第であるため何とも言えないとはいえ、私的には比較的仲は良いと思っていた。
しかし、彼女はそのまま店の裏へと戻ってしまった。もしかしたら嫌われているかもしれない。
「ごめんね、この子緊張してるみたい」
「緊張?」
「久しぶりに会ったからね」
山下さんはフォローしてくれたが、これ以上私から関わらない方が良いように思え、私はこの話題を避けることにした。"緊張"と聞いて、私は少し嫌な予感がしたからだ。
その後私は話を変え、もう少し山下さんと話した後に商業ビルを後にした。
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