Episode14:体温
14話です。
「……おお」
「箱庭さん、楽しみです!」
私たちは弁当を買った後、かなり長い通路を通り、ついに新幹線のホームにたどり着いた。ホームには既に電車が停止してあり、もう乗れるらしい。トイレも済ませたので、私たちは予約した5号車を探した。
「ここか」
5号車は少しだけ他よりも高い場所だった。今回、電車慣れをするために、特別に少し高いが広々とした席を予約したのである。その甲斐あって、想像よりも椅子に落ち着いて腰掛けることができた。
「はぁ……」
私はできるだけトイレに行きやすい位置にいたかったため、廊下側の席に座らせてもらった。命は景色が好きなようで快く窓側に座ってくれた。命はAIロボットなのだから、私は遠慮する必要など本当はないのかもしれないが、それでも命があまりにも人間味があるから、どこか人間と認識してしまう。
「……」
私は非常口の位置などを再度確認した。何かあった時、すぐに行動できるように。例えば、今この新幹線がテロリストに襲われたら、私は真っ先に逃げなければならない。戦おうなどと思ってはいけない。隠れようとも思ってはいけない。私は命を抱えてこの新幹線から脱出しなければならない。
また、乗っている最中に地震があった時のことも考えなくてはならない。新幹線は長距離を移動する。人間が想像するよりも長い距離を。だから、たまたまそのタイミングがくることだってあるかもしれない。それは仕方がないことだから、だからこそそうなったら自分にできることをするしかない。
「箱庭さん、少し表情が硬いですよ?」
「……え」
だが、私が緊張感を持ち過ぎていることに命は気づいてしまったらしい。
本当に命は私のことを良く見ている。私は感情が顔に出ないようで、このくらいの変化ならば、他の人間はほとんど気付かないというのに。
「落ち着いていきましょう?」
「あ……そうだね」
「何かやらなければいけないなんてことはありませんよ」
彼女は私を優しく諭した。彼女は見た目や普段の好奇心に関してはまるで子どものようだが、こういうときは私よりも遥かに年上のように感じられる。
「……え」
「こうすると落ち着きませんか?」
命はそっと、隣に座る私の手をその両手で握った。その手は驚くほどに暖かく、私はAIであるはずの命から人の温もりというものを感じたのである。
「…ああ、確かに、落ち着くね」
私はただ手を握られただけであるのにも関わらず、まるで彼女の手から伝わった熱が身体中を巡るかのような感覚を覚えた。
そして、少し空気が溜まったように張っていた私の胃はそれが緩和され、感じていた気持ち悪さが収まった。
「こんなところでそんなに頑張らなくて良いんです。箱庭さんはお優しいのですから、それでもう、十分でしょう?」
私のことを優しいと言った彼女が、私には世界で1番優しく見えた。
***
「……ああああ」
「あ、勝ちだね…」
緊張が解けた私たちは、広いスペースの中で周りに迷惑がかからないように慎重にこじんまりとトランプをしていた。
「かm………AIであるはずの私が…」
「命、今のところ引きが弱いね」
「確率は平等なはずなのに……」
一般的にやるトランプを使ったゲームは大抵、最終的には運に左右されがちであるが、何故か私は命に33連勝中であった。
最初は(何のためかは分からないが)わざと負けているのかとも思ったが、流石にカードを操作しないで全試合負けるのは不可能なはずで、もしかして彼女は相当引きが悪いのかと思い始めた。
「おっと……また私の勝ちか」
「お、おかしい………ま、まさか、箱庭さん、イカサマしてるんじゃ……」
「いや……してないよ」
「……………そうですね……箱庭さんはそんなことをする人じゃないです……」
命は弱々しい目でこちらを見つめてきたが、私がそれに対して何かできることなど、ありはしなかった。
「弁当食べようか」
「…はい」
なんというか、なんともいえない、良くない時間が流れつつあったため、私たちは食に頼ることにした。
食は良い。自分が選んだ好みの食を楽しむことで、場は丸く収まる。
「美味しいです、箱庭さん」
「良かった」
落ち込んでいる様子はもうなかった。彼女は北国の名物が入った弁当を買ったようで、「今まで食べたことがありませんでした」と言いながら楽しんでいた。
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