Episode13:神の食事会
13話です。
少しだけ昔話をします。
これは私が善さんと事件の中で初めて会ってから、少し経った後のことです。
「【A地域地神限定神界女子会】?」
私の神界にある家のポストに手紙が投函されていました。こんな場所に手紙を投函するのは、間違いなく他の神であるため仕方なく読んだのですが、そこには『女子会』という謎の行事への招待状が添付されていました。
今までこんなものを受け取ったことがなかったので不思議に思いましたが、手紙の本文を良く読んでみると、どうやら別地域を管理する地神が一部入れ替わったようで、顔合わせを兼ねて食事会をするそうです。
なぜ女子限定なのかは分かりませんが、このあたりの地域の地神は確かに女性が多いのでそういうことでしょうか。
「……『参加してください。寂しいです』?なんというか、随分弱々しいですね」
私も別に自分が強いとは全く思っていないですが、この手紙を送ってきた新しい地神は神とは思えないほどに弱気で少し心配になりました。
そして私は特に予定もないので、『参加する』に丸をつけて送り返したわけです。
「1週間後ね……」
私は自室のカレンダーに予定を記入しました。時間は昼14時。場所は神界でも人気のカフェです。
結局、毎日の記録と観察を続け、自分が管理する地域に特に何も起こらないことを確認して安堵する生活を送り、あっという間に約束の日になりました。
「………」
私は天界を歩くことはほぼありません。基本は自分の家にいるか、後は稀に地上に降り立つか。神は何か食べないと死ぬということもありませんから、出かける必要などありません。
ただまぁ、その何も起こらない生活が退屈で、どこかへ消えてしまったり、地上に過度に干渉しようとしてしまったりする神もいます。私は何もない時間も1人の時間も好きですから、神としての生活を苦痛に思ったことはありませんが、感じ方は神それぞれということです。
「あ、おはよう!」
「テンション高いですね。おはようございます」
「お隣ちゃんはテンション低くない?お茶会だよ?」
「私は貴女ほど感情の起伏がないだけです」
私は隣のエリアを管理する地神と、道で合流しました。天界は無駄に広く、カフェに行くにも家からはそこそこの距離があります。ですから、まぁ話し相手がいた方が退屈しないのは確かなのですが、それはそれとして隣の彼女は常にテンションが高すぎるのが少し苦手なポイントでしょうか。
「あ、もう結構いるよ!」
「皆さん早いですね」
カフェの前に着くと、まだ集合時間の30分前だというのに、招待された神のほとんどが集合しています。女子会というだけあってもちろん全員女神です。
しかしながら、まだ私たちを呼んだ例の新人はまだのようでしたね。
「…………あ」
15分ほどして、遠くから急速に近づいてくる影があり、どうやらその女神は音を置き去りにするほどの全速力でこちらへ向かってきています。
「おまたせしてまーーーーーーーす!!!!!!!」
そして思わず耳を塞ぎたくなるような大声と同時に、声の主はカフェに到着したというわけです。
「新人の者です!!!!皆さん来てくれて本当にありがとうございます!!!」
(……ああ、五月蝿そうなのがまた増えたか)
手紙の弱々しさとは裏腹に、その神はかなり明るく振る舞っていました。ただ、きっとその明るさは孤独からきているものなのだろう、と私は察することになります。
「入りましょう!!」
カフェに入ると、10人がけの大きな丸テーブルに案内されました。どうやらかなり良い席を予約していたらしいです。
「……」
私は配られたメニュー表を確認しました。流石に人気のカフェというだけあって、なかなか豊富なメニューが並びます。
とは言っても、地上にあるK市のブックカフェには及ばなそうですが。
「これでお願いします」
「かしこまりました」
私たちは注文を終えると、少しざわざわとし始めました。丸いテーブルということもあって、それぞれが自分なりのコミュニケーションを取ろうとし始めたのです。
私はあまり他人に話しかけるのは得意ではありませんでしたから、どうしたものかと思いましたが、ひとまず隣人と話すことにしました。
「あ、そういえば、お隣ちゃんさ、この前地上に降りたんでしょ?何か面白いことあった?」
「面白いことですか?まぁなくはなかったですよ」
「教えてよ」
「そうですね…ああ、神として初めて、人質にされましたね」
「え!?大丈夫だったの、それ」
「はい。心優しい人間の方が助けてくれました」
私は頭の中にあの箱庭という男性を思い浮かべました。あの人には何度感謝してもしきれないでしょう。
「地上の美味しい食べ物を取りに行くのは、本当に命がけですね」
「へー!私が誘っても普段あまり外出したがらないのに、それでも命をかけて行くほどかぁ」
「ええ。神界なんかよりも遥かに良いものが揃ってますよ」
「私も行こうかなぁ、今度」
「ご自由に」
「え、冷たくない?誘ってくれないの?」
「冷たくはないです。それに、何か特別な事情がない限り自分の管理区域からは出てはいけません」
お茶会に呼ばれた割に、結局隣人といつも通りの世間話をしているに過ぎませんね。
本当はここで私が勇気を出して例の新人に話しかけでもすると良いのでしょうが、残念ながら私にはそこまでのコミュニケーション能力はありませんでした。
「あ」
しかし、これで良いのかと思って少し例の新人が座っている席の方を見ると、私の予想に反して彼女は1人で黙々とケーキを食べていました。先ほどの声の大きさからして、隣人タイプかと思いましたが、意外と大人しいのでしょうか?
「あれ、新人ちゃん?呼んだのに話さなくて良いの?」
「…え、ちょ」
気付いた時には、隣人が席を立って、新人の席の横にしゃがみ込んでいました。その姿勢は、子供の話を聞く教員のようです。
「あ、」
「意外とシャイかなぁ?遠慮しなくて大丈夫!」
「あ、はい!」
私は新人がまだ慣れていないことを理解しました。彼女は神になってからまだ時間が経っていません。だからきっと、変に気張っている面があるのでしょう。私はもう神になった時の記憶が殆どありませんが、私もきっと最初は戸惑っていたのでしょう。
これから時間が経って、私たち神はだんだんとその生活に慣れてゆき、気づいた時には時間がただ流れるようになります。神によっては、前に言ったように退屈に支配されてしまいますが、彼女はどうなのでしょうか?彼女がスタートダッシュを終えた時、悪神になってしまうことがないように、祈るばかりです。
……神が祈るというのは、おかしいかもしれませんが。
お読みいただきありがとうございます。




