Episode12:旅の始まり
12話です。
私は1週間の間、体と心を休め、同時に活動を意識した。
幸い休職期間はまだ暫く残っている。ゆっくりと治療を重ねる時間がある。まぁ、もしもあの職場に戻らずとも、働くことはできるから、実際のところはそこまで心配はしていない。
「いよいよ明日ですね!」
「うん。命も準備はできた?土曜日は向こうに泊めてくれるみたいだし、軽い旅行だね」
遠出は久しぶりだから、緊張する。少しばかり、電車の中でふらふらとして動悸に襲われ、血が引いたような感覚がしたあの時のことを思い出したが、それでも横に命がいると分かったら、移動が少しだけ楽しみになった。心というのは本当に不思議なものだ。
「よし……」
一応酔い止めも用意したし、これで準備はokだな。
「私、ワクワクしてます!」
「私もだ」
***
その日は快晴でした。私の汚れた心も澄んでしまいそうな良い天気で、旅行にはぴったりです。
「おお…………」
私がワクワクしているのには、いくつか理由がありました。1つは、もちろん善さんとの旅行であるからです。そして2つは、私は神として誕生してから他の地域に行ったことがなかったからです。
地神というのは、それぞれの管理領域があります。ですから基本的に、自分の領域の外に出ることはありません。神のみが入ることができる領域があり、その中は自由に移動できますが。
「…!」
電車の窓から見える街並みは、私の心を潤していきます。1駅ごとに劇的に変化し、そこに住む人間たちの文化や生活が伝わってきます。
「楽しそうだね、命」
「……あ」
そして我を忘れて窓の景色を眺めていた私は、善さんに話しかけられて急に我に帰り、自分でも分かるくらい顔を赤くしました。子供じゃないのにこんなに周りが見えなくなるのは、なんというか少し恥ずかしいものです。
「今見えているG市は、私たちのいるK市に比べると比較的最近発展してきた町だね。まぁ、命はAIだから知っているかもしれないけど、G市もなかなかに住みやすくて人気の町らしいね」
「この町はK市と比べると高い建物も多いですね」
私が管理している土地は、K市から西の方へ伸びているため、この電車の進行方向とは反対。それ故にあまり詳しくないのですが、詳しくなさすぎると善さんにAIじゃないとバレるリスクがあることをすっかり忘れていました。少なくとも、まだそのことを明かすタイミングではないでしょう。
「そろそろT市だね。ここは昔友人が住んでいた場所だ。この路線の沿線は本当に魅力的な町が多いね」
善さんは都市計画などが好きとのことで、少しうっとりとした表情をしています。
街づくりは神としても重要なことで、私も本当は色々もっと勉強しないといけませんね。善さんから教えてもらう体で色々話す口実にもなりそうです。
「J市はもともと人気すぎてあまり庶民が住める街ではないかな。まぁ、友人の1人は実家がここだから楽しそうだったけどね。少し羨ましかった」
「でも、やっぱり私はK市やM市などの方が好きですよ!」
なんだかんだ言っても、住み慣れた、自分たちが作ってきた街に叶う場所などないでしょう。
街は元々あったわけではなく、そこに住む人たちがいるからあるわけですからね。
***
私たちはターミナル駅で電車を降りた。ここからは新幹線に乗ることになる。今までの各駅停車とは違ってすぐに降りることはできないから、少し心配ではあった。
「箱庭さん、駅弁買いましょう!」
「え?…あ、そうだね。買おうか」
しかし命がずっとノリノリであるため、場に緊張感がなくて良い。1人だとどうしても孤独感は覚えてしまうものだから。
「…………」
やはり新幹線に乗る人が多いからか、駅弁を売っている店はかなり多い。その中の1つに入ると、命が目をキラキラさせた。
「善さん、これなんてどうですか!」
「ああ、それでも良いかもね」
「こういうのもありますよ!」
広めの店内をぐるぐると歩き回る彼女は無邪気な子供のようだった。まぁ、AIだから邪気なんてものは当然ないのだろうけども。
結局私たちは20分ほど時間を使って、各々1番食べたいものを買って、店を出ることになった。
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