Episode9:変化
9話です。
「………疲れたなー。命は大丈夫?」
あの後警察の人と少し話をして、気づいたらもう18時だった。幸い知り合いの警察官がいたから、割とスムーズにやり取りができた。
自宅へ帰る道、夕焼けが眩しかった。
「そうですね、疲れm……私の体はロボットなので疲労はないです」
「あ、そうか。命はロボットだったね……」
やり取りが自然すぎて、何度も命がAIロボットであることを忘れてしまう。自分はもともとこういう人間だとは思っていたが、これはしばらく間違え続けるな。
「ちょっとお茶入れるね」
「あ、それは私が」
「いや、せっかくだからさ。誰かと一緒に飲もうと思うと、いれる気力が湧くからね。ありがとう、命。いつも通り紅茶で良い?」
「あ、はい……」
私は無駄に広いキッチンのセラミックの天板の上で、紅茶をいれた。物凄い疲れていたけれど、不思議とそこまで苦痛ではない。むしろ心地よかった。お盆に乗せて2つのティーカップをリビングのテーブルに持って行くときも、肩にはあまり重さを感じなかった。
「ありがとうございます」
「最近いれてもらってたからね。もうそろそろ私も調子が良くなってきたから、自分でいれられるよ」
夕ご飯前だが、私は少しだけ棚からお菓子を出した。私はもともと紅茶とお菓子の組み合わせが好きで、リラックスするためによくそうしていたからだ。
「……ああ、そういえば」
「どうされましたか?」
紅茶を飲みながら少し落ち着いていると、ふと大事なことを思い出した。
「昨日モールに行ったけれど結局すぐに家に帰って、そして今日もすぐに帰ってしまったから、結局姉さんに送ろうと思ってたお菓子が買えなくてね」
「え、箱庭さん、お姉さまがいたのですか?」
「うん。他県に住んでいて、今も働きながら子育てまでしてるから、忙しくてもう何年も会ってないんだけどね」
「なるほど…」
「一応、毎年誕生日に姉さんが好きなお菓子を送っていてね。毎回喜んでくれるから、今年も送ろうと思っていたんだけど。今年は良くないことが起こりすぎたな」
「そうですね…あ、ちなみにどの県かお聞きしても?」
「A県だね」
「確かに遠いですね」
姉さんが住んでいる県までは、ここからだとどれくらいかかるっけ。結婚祝いに家に行ったきりしばらく行っていないから、もう忘れてしまった。あの頃と街並みもきっと変わっているだろうし。確か再開発があったんじゃなかったかな。
「街の再開発を見に、せっかくだから行こうかとはここ数年思っていたんだけれど、結局忙しくていけてないね」
「距離が旅行並みですからね」
「しかも前に姉さんの家に行ったときには、駅前に店がほとんどなくて、遠くまで車に乗らないと買い物もしんどかったからね。今はコンパクトシティ化を目指してどんどん便利になってるとは聞いたけどね」
姉さんの家は駅から10分くらいの場所だ。今はきっとあの時よりも地価も上がっているんだろう。固定資産税だけは少し心配だけど、それだけ町が発展しているということだから。
「……プレゼントを送れていないし、いっそのこと行ってみようか?……なんてね」
急に行っても迷惑になるだけだろう。姉さんは姉さんの生活がある。お連れ合いも元気にしているだろうか?子どもも、もう5歳くらいだっけ。
「…………」
「ん?どうしたの。命」
「あ、いえ…少し考え事を」
「そうか」
命は少し考えるような仕草をして、数秒後に何か振り切ったような顔をして言った。
「箱庭さん」
「…ん?」
「もし良ければなんですけど」
「?」
「今度、私と一緒に旅行気分でお姉さんの町へ行きませんか?」
「……あ」
冗談でも自分から言ったことだからこそ、いざ命がこうして真剣に言ってくると、少し私は迷うような感情に陥った。
「あ……やめておきましょうか?」
「いや…………そんなことは…行ってみるのも……連絡を取った後なら……」
私はふと、私が今なぜ休んでいるのかを思い出した。
良い意味で意識していなかったが、今の私は電車に乗れるかは怪しい。長距離移動がきつくなったから、このように休んでいるわけだ。
「……まぁ、行けなくは、なさそうだな」
命がいるから、なんというか、自分は色々とできるような感じがしてしまっている。
この感覚は……前向きになったと考えて、ポジティブに捉えても良いのだろうか。
私は命を心の拠り所にしているだけではないか?それで良いのか?
私の担当の医者は、段階的にやれば良いと言っていたが……。
「できそうなら、やってみた方が良いか。……楽しいところから、始めてみる方が良いな」
……まぁ、重く考えすぎても仕方ないのか。結局は私の人生なのだから。
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